人材育成

【エンジニア育成】日本企業もインドへ!新たなビジネス展開を目指して インド

インドの製造業が国内総生産(GDP)に占める割合は約16%。
その伸びしろに期待する日本の金型メーカーが、若手エンジニアの育成事業を行った。

文:松井 健太郎

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訓練校の教員と学生に日本の技術を伝える

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首都:ニューデリー

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ラクナウ校の教員と学生たち。多田さんは、彼らの母国での金型産業の発展を願う。

インドの自動車の年間生産台数は世界第4位。それを支える自動車部品産業は国内総生産(GDP)の約2.3パーセントを占め、大きな雇用を生み出している。市場としてその可能性に期待し、また、そんなインドの産業にも寄与したいと、日本の金型メーカーである岐阜多田精機がJICAの民間連携事業を活用して、モジュール金型(コラム参照)のエンジニア育成を行った。インドで操業する自動車メーカーに部品を納めるのは欧米企業が多く、「日本企業が取り残されそうな危機感とともに、インドの若手エンジニアを教育して、同国の自動車部品産業の裾野を広げる必要性を感じました」と同社代表の多田憲生さんは話す。自社だけでなく、日本の部品メーカーが進出するための地盤をつくりたいという思いを抱いて多田さんはインドに向かった。「民間企業という立場だけではなく、政府と強い関係を持つJICAの事業として実施すれば、インドのパートナーは公的機関に広がるので、よりビジネスの可能性が増すだろうと考えました」と、応募の動機を語る。

事業の実施先となったのは、インド化学肥料省が統括する研究機関であるプラスチック工学・技術中央研究所(CIPET)のラクナウ校。全国に30校以上を展開する職業訓練校の一つで、優秀な人材が集まっているものの「金型製造技術は低い印象でした」と多田さん。取り組みはカリキュラム作りから始まり、まずは現地の8名の教員に岐阜多田精機の社員がモジュール金型製造技術を指導した。その後、教員が17名の学生に技術を教える際にも社員が指導補助を行い、確かな知識が伝わるように努めた。学生は卒業制作としてモジュール金型の製造に挑戦し、その出来栄えのよさは現地の部品メーカーからも注目を集めたという。

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現地法人で5名採用"日印合作"の製品を

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立形(たてがた)マシニングセンタや3次元測定器やCAD(注)など日本製の機材はJICAがラクナウ校に供与した。
(注)Computer Aided Designの略。手作業で行っていた設計や製図をコンピューターで行うプログラム。

事業を進めるなかで、岐阜多田精機はインドの企業と共同で現地法人のインド日本金型センターを設立することに。指導した学生を5名採用したほか、他の学生にも日系企業への就職のサポートを行った。「インドに質のよいモジュール金型の製造技術を広めるためです。指導した彼らが活躍することによって、近い将来、弊社や日本の部品メーカーが恩恵を受ける日が来ることを願っています」と多田さんは話す。5名の新入社員には、さらにスキルアップを図ってもらおうと日本の自社工場でも数か月間の研修を行った。

「ラクナウ校で金型作りを教えていたときからそうでしたが、インドの若者には"学ぼう"という強い意志が感じられます。とても教えがいがあり、弊社の年輩の社員も喜んで子や孫に接するように教えていました。同年代の若手社員にとっても、何事にも挑戦して自分でできるようになりたいと奮闘する彼らの姿はよい刺激になったはず」と、相乗効果を生み出すインドの社員を高く評価する。

多田さんは、モジュール金型のエンジニア育成の利点について「インドと日本で合作することができること」と言う。「まずは比較的製作が簡単なベースユニットなどの部品はインドで、難易度が高いコアユニットなどの部品は日本でと"日印合作"の製品を分担して作りながら、技術の共有と低コスト化を実現していきたいです」。今後はインドの製造業をリードする自動車メーカーの金型部品製造を中心にビジネス展開を図りながら、家電分野の金型製造にも取り組み新たな発展を目指している。

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岐阜大学の次世代金型技術研究センターの教員も講師としてラクナウ校を訪問。大学はCIPETと覚書を交わし、連携や人材交流を進める予定だ。

岐阜多田精機 多田憲生(ただ・のりお)さん

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多田憲生さん

1970年生まれ。岐阜多田精機代表取締役社長。同社はプラスチック射出成形用金型、ダイカスト鋳造用金型の専業メーカーとして、自動車部品や水栓関連製品などの金型を設計・製造。アジア、ヨーロッパの企業とも取引し、グローバルな事業を幅広く推進している。

コラム モジュール金型

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卒業生が作ったモジュール金型。

金型とは製品や部品を成形加工するために使われる、おもに金属製の型のこと。たとえば自動車のスイッチ部品やコネクターには欠かせない。一般的には一つの塊として設計されるが、岐阜多田精機が指導するモジュール金型は土台となるベースユニットと、高度な技術が集約されたコアユニットに分割できるように設計。ユニットの組み合わせで複雑かつ高精度な成形加工が可能で、加えて、金型の破損が生じた場合は、その部分だけを修理・交換すればよいという利点もある。