相互に深まる信頼とともに 上水から下水へと広がる協力の形 カンボジア

20年以上前から、カンボジアで上水道事業の支援を行ってきた北九州市とJICA。
実績と信頼による確かな協力関係がいま、下水道の分野へと広がっている。

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市民啓発の一環として、ポンプ場の仕組みなどを紹介する場を小学校でもうけた。

環境について知ることから始めよう

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ポイ捨てなどが原因でごみにあふれているプノンペンの水路。

北九州市は、内戦によって国内が疲弊していたカンボジアに対して、1999年よりJICAと連携して、長期専門家を派遣するなど水道事業の分野で協力を実施してきた。「プノンペンで浄水場の管理や機械トラブルの対処の仕方など北九州市と同レベルの上水技術を提供してきました。地道に活動を続けた結果、北九州市はカンボジア政府から水道事業における協力について高い評価を受け、2016年には姉妹都市になりました」と、2019年から下水道の専門家として関わっている北九州市上下水道局職員の平野哲さんは語る。

北九州市が水道事業の協力を始めてから20年以上が過ぎたいま、カンボジア国内の状況も変化してきている。とくにプノンペンでは、目覚ましい経済発展とともに急激に人口が増加。もともと下水処理場がなく、これまで汚水を近くの湖に流して自然浄化の形で処理していたが、それでは間に合わなくなってきている。開発事業にともなう湖沼・湿地帯の埋め立てによって自然浄化機能が低下したこともあり、湖や河川の汚染は進む一方だ。さらに雨季になると多発するメコン川の増水や、集中豪雨による浸水被害も問題になっている。

こうした背景から上水だけでなく、生活排水処理や雨水排水に関わる下水道事業への協力の必要性も感じた北九州市は、JICAの委託を受けてプノンペンにおける下水道整備基本計画の策定に参画。2017年からはJICAの草の根技術協力を通し、現地の人たちに向けて、雨水を排水するためのポンプ場の維持・管理能力の向上を目指した指導と、下水道や水環境に関する市民の啓発活動や環境教育に取り組んだ。「プノンペンでは、路地だけでなく水路にもごみがあふれています。それはこれまでポイ捨てが当たり前だったからです。水環境を改善していくには、まず住民一人ひとりの意識を変えていくことが重要だと感じました。環境教育を受けた小学生が『環境のことをもっと勉強したい』と言ってくれたことがうれしく、いまでも心に残っています」と平野さんはふり返る。

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プノンペンにある浄水場。北九州市は維持・管理面で技術協力を行った。

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きれいな水が飲めるようになりました。

下水道の管理体制をともにつくる

カンボジアは今後下水道事業に力を入れていくことを決めており、JICAの協力を得ながらプノンペンで初となる下水処理場も整備していく予定だ。だが、下水処理場ができてもそこを管理する体制と人員が整っていなければ意味がない。重要なのはできた施設を現地の人たちが適切に維持・管理していくことだ。

そこで北九州市は現在、JICAのプロジェクトに専門家を派遣し下水道の管理に関する制度の構築支援や、下水処理場の建設運用に必要な技術協力も行っている。カンボジア政府とプノンペン都の両方が関わるプロジェクトで、運営と維持・管理の組織体制の構築だけでなく、法律や条例の整備といった部分にも関わっていく。「下水道に関する国の法律やプノンペンの条例の整備を含めて、国と地方自治体の役割分担をしっかり行うことが大切です。また下水処理場を維持していくための運営資金として、下水道の料金を徴収する仕組みもつくらなければなりません」と、平野さんは多岐にわたる活動について説明する。こうした枠組みを決めるために平野さんは2週間に1度、カンボジア政府とプノンペン都の担当者たちと会議を行い話し合っているという。

北九州市とカンボジアが紡いできた絆はさらに進化しながら続いていく。

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カンボジア政府とプノンペン都の担当者に知見を伝え、ともに理解を深めていく。

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下水処理場の建設予定地。現在、湖には処理されていない排水が流れ込んでいる。

北九州市職員 平野 哲(ひらの・さとし)さん

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平野 哲さん

2019年からカンボジアに下水道事業の専門家として関わっています。活動を行うには、まず現地の人たちの意識を変えていくことが大切です。

「プノンペンの奇跡」を生んだ自治体 福岡県北九州市

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福岡県北九州市

北九州市は上下水道事業の技術と経験を生かして、さまざまな国で技術協力を行っている。カンボジア・プノンペンへの支援は1999年から始まり、1993年と2006年での比較では水道普及率を25%から90%に引き上げ、給水時間を10時間から24時間可能にし、無収水量率(注)を72%から8%までに引き下げた。この成果は「プノンペンの奇跡」と呼ばれ世界を驚かせた。

(注)水道管からの漏水と盗水で料金が徴収できなかった水量の割合。

カンボジア

【画像】国名:カンボジア王国
通貨:リエル
人口:1,630万人(2018年、IMF推定値)
公用語:カンボジア語

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首都:プノンペン

1970年代に大きな内戦を経験したが、そこから経済は大きく発展し、2011年以降は7%の経済成長を続けている。一方で、都市化や人口増加による新たな問題も表面化してきている。