現地に根づく Case2

積み重ねた成果を生かす ザンビア/ケニア

感染症対策の分野で長年途上国への協力を続けてきた長崎大学と北海道大学。
現地に根づいた制度や人材が、協力の選択肢を広げることにつながっている。

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ザンビア大学獣医学部における作業の様子。

長年にわたって続く交流

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ケニア 首都:ナイロビ

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ナイロビにある長崎大学のケニア拠点にて、ケニア中央医学研究所(KEMRI)への新型コロナウイルス検査試薬の供給と、KEMRIスタッフへのリアルタイムRT-PCR(検査方法)の研修の様子。

JICAは長く国内の大学と、アフリカのケニア中央医学研究所やザンビア大学獣医学部、ガーナ野口記念医学研究所、アジアのベトナム国立衛生疫学研究所など世界各地の機関と連携して感染症対策に取り組んできた。

たとえば現在ケニア保健省で採用されているmSOS(情報システム)。これは携帯電話を使って感染症の発生を調査監視するもので、長崎大学と共同で行ったプロジェクトで開発された。また、研究開発の分野では、ザンビアで北海道大学と行われた研究の成果から、エボラウイルスの感染拡大の防止に有効な迅速診断キットが開発された。

両大学は人材の育成にも力を入れている。長崎大学による「熱帯病・新興感染症制御プログラム」では、現地の医師や研究者が感染症に関する日本の技術を学び、新しい情報を得て、帰国後現場でリーダーシップを発揮することが期待されている。北海道大学は、人獣に共通する感染症対策の専門家を養成するため、国際感染症学院を2017年に開講し「人獣共通感染症対策専門家認定プログラム」を実施している。さらに2018年からは、こうした専門家養成コースを修了した人や研究者、行政官など、すでにある程度の知識や技術を持った人を対象にした「人獣共通感染症対策グローバルエキスパート養成コース」も始めている。

緊急時の対応を支えたもの

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ザンビア 首都:ルサカ

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ザンビアでのBSL(注)3実験室における作業風景。
(注)バイオセーフティ・レベル。微生物・病原体等を取り扱う施設の格付け。1~4のレベルがあり、数字が大きいほどリスクの高い病原体などを扱うことができる。

積み上げてきた成果は、現在も世界で猛威を振るっている新型コロナウイルスへの対策にも生かされている。

「ザンビアでは本学に留学していた4名が、現在新型コロナ対策の中核人材として活躍しています」と語るのは、北海道大学人獣共通リサーチセンターの梶原将大さんだ。同センターではザンビア大学からの要請を受けて、日本で採用されている新型コロナの検出法を現地に導入した。ザンビア拠点メンバーの絆も強い。30年以上続く共同研究の中で整備が進んだ検査室があったからこそ、この状況でも日本と同様の検査ができるのだと梶原さんは言う。

また、「現地の状況に合わせたより効果的な検査方法を模索しています」と語るのは長崎大学熱帯医学研究所の森田公一さん。同大学の研究で開発された、従来よりも手順が簡単で10分ほどで結果の出る迅速な新型コロナの検出法は、今後日本だけでなく国外への展開も視野に入れている。この検査機器は電力消費が少なくバッテリーで稼働する。停電が頻発し、交通インフラに課題を抱え患者や検体が検査機関のある都市部へ移動するのに時間がかかる途上国にこそ必要だ。

途上国側に専門性の高い知識と技術を持つ人材がいること、感染力が強い危険な病原体を扱うことができる設備の整った施設があること、日本側が相手の国の事情を理解していること。一時的な協力でなく、継続した協力の中で現地に根づいたものが、今回の新型コロナへの対策を支える土壌をつくったと、人獣共通感染症リサーチセンターのザンビア拠点長である澤洋文さんは話す。

長期にわたる協力によって現地とのあいだに築かれた信頼関係は、日本の財産でもある。日本国内の大学や研究所が、海外研究拠点で蓄積された検体や情報を利用し、現地での研究成果や研究ネットワークを活用することで、日本国内の感染症研究基盤の強化や充実などにつながる相乗効果も生んでいる。

長崎大学 熱帯医学研究所教授 森田公一(もりた・こういち)さん

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森田公一さん

北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター ザンビア拠点

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写真右から 澤 洋文(さわ・ひろふみ)さん、梶原将大(かじはら・まさひろ)さん、邱 永晋(ちゅう・よんじん)さん、中村千夏(なかむら・ちなつ)さん、林田京子(はやしだ・きょうこ)さん、播磨勇人(はりま・はやと)さん、山岸潤也(やまぎし・じゅんや)さん

アフリカにおける感染症対策拠点ラボ

アフリカにおける感染症対策の一環としてJICAはこれまで、無償資金協力による施設整備と技術協力による人材育成や研究協力を組み合わせながら各拠点と連携してきた。各拠点は高度で安全なラボや高い技術を持つ人材を備え、地域を代表する感染症対策拠点に成長している。

ナイジェリア ナイジェリア疾病管理センター(NCDC)
ケニア ケニア中央医学研究所(KEMRI)
ガーナ 野口記念医学研究所(NMIMR)
コンゴ民主共和国 国立生物医学研究所(INRB)
ザンビア ザンビア大学獣医学部(UNZA-SVM)

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アフリカにおける感染症対策拠点ラボ

映画で見る 日本から海外へ届く「希望」のバトン

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『風に立つライオン』
2015年/日本/139分/監督:三池崇史/配給:東宝
©2015「風に立つライオン」製作委員会

さだまさしさんが1987年に発表した楽曲『風に立つライオン』。アフリカ・ケニアでOTCA(現JICA)の国際医療活動に従事した実在の日本人医師・柴田紘一郎さんをモデルに作られた同曲を、曲のファンである大沢たかおさんが企画から携わり映画化。主演も務めた。長崎の大学病院からケニアの研究施設・熱帯医学研究所に派遣された一人の日本人医師がもたらす、人種も時間も超えた他人を思う心の奇跡を描いた作品。