教育

子どもたちに質の高い学びの機会を カンボジア

貢献するSDGs 4:質の高い教育をみんなに、5:ジェンダー平等を実現しよう

カンボジアでは、学校教育のさらなる質の向上が求められている。
学習の基礎となる思考力を育てるアプリ教材を用いて、公平で質の高い学びの機会を広げる取り組みが始まった。

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効果測定を行った小学校の児童たち。配られたタブレットを手にしている。

子どもたちの可能性を広げるアプリ教材

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わくわくするよ!

「世界中の子どもが本来持っている知的なわくわくを引き出す」-この言葉を掲げて、日本だけでなく世界に向けてIT技術を用いた教材やコンテンツの開発・運営を行うワンダーラボ(旧・花まるラボ)は、JICA民間連携事業(注1)を活用し学校教育における子どもたちの習熟度の低さや不十分な教育環境などの課題があるカンボジアを拠点に新たな事業に取り組んでいる。その鍵となるのが、「思考力の向上」に重点をおいて開発したアプリ教材「シンクシンク(Think!Think!)」だ。「カンボジアの教育現場にこのアプリ教材を広めて教育の質の向上に貢献し、ビジネス化していくことを目指しています」と、同社のグローバル事業開発マネジャーの金 成東(キム ソンドン)さんは語る。

今回の事業を始める前に行った案件化調査(注2)では、慶應義塾大学教授・中室牧子さんの協力のもとに、1年生から4年生までの約800名にタブレットを渡してシンクシンクを使ってもらう3か月の効果測定を行った。すると、シンクシンクを使った児童はそうでない児童と比べて、算数の学力テストとIQテストの結果が偏差値換算で約6ポイント高いことがわかった。

さらに大きな特徴として性別、学年、保護者の学歴には関係なく効果が表れていたという。「子どもの習熟度や学習効果は、保護者の学歴に左右されることが多いのですが、シンクシンクの場合は差異がありませんでした」と、同社のカンボジア法人代表を務める渡邉大貴さんは話す。シンクシンクは、画面を見ただけで直感的に問題のルールを理解できるように見た目を工夫したり、楽しく取り組めるように効果音や動きを入れるなどデザイン性も重視している。そうした配慮もこの結果につながっているのだろう。

ワンダーラボ カンボジア法人代表 渡邉大貴(わたなべ・だいき)さん

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渡邉大貴さん

長年にわたりカンボジアの教育再生に携わっている。「実際に学校に行ってみると、子どもたちが本当に楽しそうにシンクシンクをやっているんです。その笑顔が何よりうれしかったです」。

柔軟な対応で、オンライン授業を配信

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オンライン授業の実施を正式合意した際の渡邉さん(写真左)とカンボジア教育省の大臣。

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オンライン授業を行った先生は一躍人気者に。

2020年の2月から本格的に事業を始動した矢先、新型コロナウイルスの影響でカンボジア国内の学校も休校を余儀なくされ、授業ができなくなってしまった。

渡邉さんたちは子どもたちのために、企業としてすぐに利益とならなくても貢献できることはないかと、対面でなく利用できるアプリを使うことを考えた。そして教育省との話し合いを経て、通常は学校や塾に有償で提供している「スクール版シンクシンク」を4月からの約3か月間、無料開放したのだ。同時に現地にいるワンダーラボのインストラクターによるシンクシンクを用いたオンライン授業を、教育省が運営するフェイスブックページとユーチューブチャンネル、さらに国営放送で配信。視聴者数は毎回2万人ほどあり、結果的に多くの人に受け入れられることとなった。「これは私たちの力だけではできませんでした。カンボジア政府、教育省、JICAをはじめ関係者のみなさんがアイデアを出し、柔軟に対応してくださったおかげです」と金さんはふり返る。

今後ワンダーラボは教育省とも連携して、公立学校へのシンクシンクの導入に向けた活動を行い、私立学校や一般家庭にも広げていく予定だ。「これからも、子どもたちに学ぶ楽しさを伝えていきたいと思います」と、渡邉さんは未来に向けて語ってくれた。

JICA担当者 中上亜紀(なかがみ・あき)さん

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中上亜紀さん

シンクシンクはゲーム感覚で誰でも取り組めるアプリでありながら、偏差値の上昇などの効果が表れている教材です。多くの子どもたちに楽しみながら質の高い教育を提供できると期待しています。

Think!Think!とは?

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集中してシンクシンクに取り組む子どもたち。

図形やパズル、迷路などの問題を解きながら思考力を育てるアプリ教材。「空間認識」「平面認識」「試行錯誤」「論理」「数的処理」の5分野で展開している。現在世界150か国に100万人以上のユーザーを持つ。

問題例

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試行錯誤

試行錯誤

ワニに見つからないようにゴールを目指す問題。あたりをつけて進む力などが育つ。

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平面認識

平面認識

点の中から正方形になる頂点を探す問題。目に見えない補助線をイメージする力が育つ。

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空間認識

空間認識

立体の背後にできる影の形を考える問題。空間認識力のひとつ「投影」の力が育つ。

カンボジア

【画像】国名:カンボジア王国
通貨:リエル
人口:1,630万人(2018年、IMF推定値)
公用語:カンボジア語

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首都:プノンペン

ポルポト政権時代に多くの学校が破壊または閉鎖され、教員をはじめとする知識人の命が奪われた過去を持つ。現在、教育環境は改善傾向にあるが十分とはいえず、多様な教育支援が必要とされている。