エネルギー

“見える化”でエネルギー効率を改善 バングラデシュ

貢献するSDGs 7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに、9:産業と技術革新の基盤をつくろう、11:住み続けられるまちづくりを

ヘリオス・ホールディングスが一般家庭に設置した日本製のガスメーターによって、バングラデシュの社会が変わり始めている。

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バングラデシュでのプリベイド式ガスメーターの設置風景。

ガスメーターが変えた国民の意識

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精密機器であるガスメーター。設置後の維持管理も手がけている。

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ダッカ支店のメンバー。そろいのユニホームは、研修を修了した社員だけが着ることができる。

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現地スタッフには、整理整頓の大切さや部外者の立ち入り禁止の徹底など、安全な作業環境のための指導が行われた。

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非常時の対応のため、現地には日本人スタッフも常駐している。

暖房代わりにガスコンロの火を点けっぱなしにする、煙草に火を点けるにもマッチではなくガスコンロを使う-バングラデシュではガスメーターが設置されておらず、一般家庭のガスは定額制の使い放題で、同じ金額なら使わなくてはもったいないという考えが国民の主流だった。その結果、国内で天然ガスを産出するにもかかわらず、バングラデシュではガスの供給が追いつかずに輸入せざるをえなくなった。同国政府にとって、ガスを利用した量に応じて課金する従量課金制への移行と、それをかなえるガスメーターの設置は重要な目標だった。

愛知県豊橋市に本社を置くヘリオス・ホールディングス社長の小野田成良さんは、現地の状況をビジネスチャンスととらえ、アジア開発銀行(注1)が発注したプリペイドガスメーター試験設置の入札に参加した。「国際的な入札に参加するのは初めてで、地方の中小企業では信頼を得るのも難しく、書類のルールなどもわかりませんでした。結局、そのときは失注してしまったんです」と小野田さんは当時をふり返る。そこでJICA民間連携事業に応募し、2014年に「一般家庭向けプリペイドガスメーター普及促進事業(注2)」が採択された。試験導入を経て、その効果が広く認知された。その結果、JICAの円借款事業「天然ガス効率化事業」の一部であるプリペイドガスメーター設置事業(2017年1月受注)につながり、2017年から2020年にかけてダッカに20万台、チッタゴンに6万台のプリペイド式ガスメーターを設置した。それによりガス使用量は大幅に減り、現在、追加で12万台の設置を予定している。

プリペイド式ガスメーターは、ICカードFeliCaに前もって入金した分だけガスを利用できる仕組みで、ガスの使用量が目に見える形になったことで、住民に節約意識が生まれた。同社は設置工事の際にガス漏れの修繕も行った。その結果、機器を設置した地域の天然ガスの使用量はおよそ4割低減した。節約を始めた住民のガス料金は定額制より安くなり、ガス会社は浮いたガスを商業施設や工場に売ることで収益が上がっている。

「商業施設や工場に対してガスの供給量が増えることは、経済活動にもプラスに働きます。エネルギーの配分が効率化しただけではなく、ガス漏れの心配がないしっかりとしたインフラ整備という意味では、現地の住み続けられる町づくりや、産業の基盤づくりにも貢献できたと思っています」と、同社で国際事業に関わる今泉優介さんはその意義を語る。

現地からの信頼を勝ち得たのは、日本製ガスメーターの性能に加え、現地人スタッフの育成に力を入れた結果でもある。技術的な指導だけではなく、危険物を扱っていることを自覚してもらい、設置の現場では5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)をはじめとする意識改革を行った。研修で認められた証しであるそろいのユニホームは現地人スタッフにとって一つのステータスであり、勤労意欲の向上にも一役買っている。

(注1)アジア・太平洋地域を対象とする国際開発金融機関。日本やアメリカを含む67か国が出資する。

ヘリオス・ホールディングス 代表取締役、小野田成良(おのだ・しげよし)さん、社長室室長 今泉優介(いまいずみ・ゆうすけ)さん

「新型コロナウイルスの影響で外出制限があるなか、インフラ設備が整っていることがいかに大切かをあらためて感じます。一般家庭のガスメーターという末端の要素からですが、着実に現地社会に貢献していきます」と小野田さん。

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小野田成良さん

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今泉優介さん

広がる海外展開

バングラデシュへの事業進出で、同社はこれまで以上に現地の需要に合わせた提案を意識するようになった。その経験はJICA民間連携事業(注3)を活用したインドネシアなどでの次の海外展開にも生きている。「地震が多い日本のガスメーターは感震遮断機能がついていて、同じく地震の多い国では重宝されます。インドネシアでも、現地の実情に合わせた仕様を開発しています」と小野田さんは説明する。メーターの設置作業を通じて現地の住民や企業とのあいだに築いた信頼関係を生かして、同社はさらにビジネスを充実させていく。

JICA担当者 木村有里(きむら・ゆり)さん

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木村有里さん

JICA中部のなごや地球ひろばでは、本事業で導入されたガスメーターを常設展示しています。このガスメーターの普及は人々の意識を変え、資源の節約につながりました。また、余ったガスを商業施設などに回すことで経済の下支えにも貢献しています。今後全国的に導入されれば、その影響はさらに大きなものになっていくでしょう。

バングラデシュ

【画像】国名:バングラデシュ人民共和国
通貨:タカ
人口:1億6,365万人(2018年1月、バングラデシュ統計局)
公用語:ベンガル語

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首都:ダッカ

年率平均で6%の経済成長を続けるバングラデシュは、投資先・成長市場として近年注目されている。一方で、いまだ人口の24%(2017年)の貧困層を抱え、経済インフラの未整備に加え、サイクロンや洪水といった自然災害に脆弱で気候変動による影響を受けやすい国でもある。