医療

誰もが健康診断を受けられる社会に バングラデシュ

貢献するSDGs 3:すべての人に健康と福祉を

ベンチャー企業のmiup(ミュープ)が、安価かつ精度を保った健康診断の開発をコニカミノルタの医療機器提供を受けて、バングラデシュで行っている。

文:松井 健太郎

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現地の病院と協力して行われた健康診断の様子。

安価で確かな健康診断を

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首都:ダッカ

バングラデシュの2019年度の経済成長率は8.1パーセントと高く、中間所得者層の割合も増えている。しかし、経済成長とともに生活習慣病などによる死亡者の割合が急増している。医療インフラの整備が追いつかず、公的保険制度もない。そのため、貧困層の家庭はもちろん、中間層の家庭でも医療・保健サービスが受けにくいという状況が続いている。

そこで、医療機器を製造するコニカミノルタと東京大学の卒業生を中心としたベンチャー企業のmiupは、日本の技術を生かして同国の保健状況改善に貢献しつつ、またビジネス機会も広がると判断。共同でJICA民間連携事業(注)を活用して、2018年2月からバングラデシュにおいて調査を開始した。首都ダッカ郊外のガジブール県にある病院のスペースを借りて近隣住民の健康診断を行い、データ収集を実施している。「これまでに約5000人の健康診断を実施し、データを収集しました。これからは収集したデータをAI(人工知能)で解析し、健康診断の項目を精査します」とmiupの森田知宏さんは話す。

実施している健康診断のおもな項目は、問診、バイタル(血圧、心拍数、身長、体重など)、尿検査、血液検査、心電図検査、腹部超音波検査、胸部X線検査。通常、検査項目が多くなるほど受診者の費用負担は上がっていく。しかし、ある病気のリスクが少ない人にとっては必要のない検査項目があるかもしれない。そこで、収集したデータをもとに、個々人の健康状態に合わせて項目を選択できるより自由度の高い健康診断のパッケージを作ろうとしているのだ。項目を省くことによって発生するリスクは数値で示し、受診者が項目を選択しやすくするなど、より幅広い層の国民が健康維持に安価にアクセスできるよう工夫を凝らす。

コニカミノルタ ヘルスケア事業本部ヘルスケア事業部エリア統括部 細川 明(ほそかわ・あきら)さん、miup 取締役、森田知宏(もりた・ともひろ)さん

「幅広い所得層の人が自身の状況に合った健康診断を選べる-そんな健康診断サービスの実現に向けて、今後も協力していきます」

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細川 明さん

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森田知宏さん

健康に投資する価値観そこにビジネスチャンスが

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バングラデシュでは多くの病院でX線画像の管理にフィルムを使用していたが、本事業ではコニカミノルタのデジタルX線画像診断システム導入により、データ管理が簡単になった。

本事業の健康診断に欠かせない医療機器であるデジタルX線画像診断システムと超音波画像診断装置を提供するコニカミノルタの細川明さんは、「ウィズコロナ、アフターコロナの世界で、遠隔医療診断はますます注目されていく技術だと確信しています」と話す。「途上国の農村に暮らす人たちが、わざわざ都市の病院まで健康診断を受けに行くのは大変です。地方の診療所でX線撮影を行い、画像データをクラウドに上げて、都市の医師が診断するという遠隔診断の仕組みは、すでに日本でも広がってきています。日本でも、オンライン診療で薬まで受け取れるように制度が変わりました。これからは遠隔診療があたりまえの社会になると言っても過言ではありません」。さらに、「1次スクリーニングをAIが行うことは、健康診断のコストを下げると同時に、医療従事者の働き方も変えることができるでしょう。そういう技術や知見は日本でも生かせそうです」と期待する。

森田さんは、日本で言う"福利厚生"の概念がバングラデシュの企業にも少しずつ生まれてきていると話す。「健康に投資するという価値観も広がりを見せるはずで、そこにビジネスチャンスが生まれると考えています」と、新たな健康診断サービスのビジネス化も視野に入れつつ、調査を継続している。

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現地で健康診断を実施した医療スタッフのメンバー。

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データ解析中!

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デジタルX線画像診断システム。画像の管理、共有が簡単に。

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超音波画像診断装置。

JICA担当者 関 智子(せき・ともこ)さん

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関 智子さん

遠隔診断とAI(人工知能)を組み合わせた、貧困層にも利用可能な安価な健康診断サービスにより、コロナ禍下における世界のSDGsにも貢献するものと期待しています。