防災
貢献するSDGs 11:住み続けられるまちづくりを、13:気候変動に具体的な対策を
東南アジア有数の大都市バンコクで多発する浸水被害を抑えるため、日本企業が持つプラスチック技術の導入が始まろうとしている。
約800万人が暮らすタイの首都バンコクは、経済発展とともに今も都市化が進んでいる。しかし、市内の排水設備はまだ不十分で、大雨による冠水・浸水が市民の生活を脅かしている。
秩父ケミカルが開発したプラスチック製雨水貯留構造体(PRSS)は、プラスチックのブロックを地下に多数組み合わせ、それをシートで覆うことで雨水の貯水タンクを作るというもの。都市部に土地の余裕が少ない日本では、すでに多くの駐車場や学校のグラウンドなどに埋設されている。局所的な浸水被害を軽減するとともに、一時的に雨水をためることで、下水道や河川に水が一気に流れ込むことによる洪水を防ぐ役割も果たす。コンクリートの貯水槽よりも低コスト・短期間で施工できる。
2015年に同社はJICA民間連携事業(注1)を利用して、インドネシアで公共施設内の駐車場2か所にプラスチック貯留浸透槽を試験的に設置した。これによって浸水被害が軽減され、海外市場開拓につながるかと思われた。しかし当時のインドネシアは限られた政府予算を雨水対策に配分できず、普及にはいたらなかった。
そこで新たな進出先としてタイに注目し、2017年にふたたび民間連携事業(注2)を活用して調査を開始。秩父ケミカルの尾崎昂嗣さんは、「タイにはもともとモンキーチークと言って猿が頬に食べ物をためるように、雨水を一時的にためる調整池などを整備する考え方があります。これは前国王ラーマ9世の助言によるもので、タイの治水関係者の間で基本的な洪水対策の考え方として定着しています。私たちのプラスチック貯留槽もそのひとつであると受け入れてもらえました」と語る。
2019年12月、タイ工業団地公社の敷地内で同国初となるプラスチック貯留槽が完成した。施工完了式典には多くの現地メディアが取材に集まるなどして注目を高めた。
しかし、貯水量や降雨量の計測を始めようという段階になって、新型コロナウイルスの影響により作業はストップ。新規に工事を行う計画も中断している。
「これまでスピード感を持ってできていたので残念です。それでもオンラインで話し合いを進め、タイ側の人たちの協力で計測機器が設置され、モニタリングを始められる兆しが見えてきました」
秩父ケミカルはプラスチック製の雨水貯留浸透施設と、それに関わる維持管理製品の開発・施工・販売を手がける。日本国内でのシェアは10%強。吉田さんと尾崎さんは海外市場の開拓にも目を向け、インドネシアやタイでの施工にも尽力した。
尾崎さんにとって、同社の技術がSDGsの達成にも貢献できることは活動の励みになっている。
「"住み続けられるまちづくり"を担っていると考えると、いっそうやりがいを感じます。PRSSは土中で50年間は変わらず交換なく機能を維持できるので、今後は"ためた雨水をどう使うか"なども考えていきたいです」
また、現地ではプラスチック製品の利用に対して環境面を懸念する声を聞くこともある。それに対しては、PRSSはリサイクルしたプラスチックを使っていること、日本の技術指針に準拠し、化学的な耐久性を満たしていることなども丁寧に説いて回っている。
「プラスチック貯留槽は日本でも実用化から30年ぐらいとまだ歴史が浅く、これから発展していく技術です。タイに合ったものを開発し、コストを下げるために現地生産もしていきたいです。私はこの活動で、技術が確かだとわかればタイの人は認めてくれると肌で学びました。『一緒にいろんな研究をしよう』とおたがいに前を向いています」
浸水被害をなくすことはSDGs11に、また地球温暖化による豪雨被害の対策としてSDGs13にも貢献します。汚染された水による感染症を防ぐことにも期待できるので、SDGs3の「すべての人に健康と福祉を」にもつながる活動だと思います。
国名:タイ王国
通貨:バーツ
人口:6,891万人(2017年、タイ国勢調査)
公用語:タイ語
熱帯地方にあるタイは、近年の気候変動の影響もあって水害が頻発している。2011年の大洪水では首都バンコクをはじめ多くの地域が甚大な被害を受けた。