SICA-JICA地域セミナー「人間的出産」の開催-SICA加盟8カ国における産科ケアの質の向上について経験を共有-

2022年9月7日

JICAとSICAにエルサルバドル保健省が協力する形で、8月25~26日の2日間にわたりエルサルバドルの首都サンサルバドルにて「人間的出産」をテーマにしたセミナーが開催されました。セミナーには、SICA加盟国であるベリーズ、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマ、ドミニカ共和国から保健省の母子保健担当者らが参加し、それぞれの国の産科ケアにおける課題やケアの質向上のための取り組みなどが発表され、情報の共有とともに参加者の間で活発な意見交換が行われました。本セミナーには、当国で現在実施中の草の根技術協力事業「エルサルバドル国立女性病院における科学的根拠に基づいた人間的出産プロジェクト」の日本とブラジルの専門家も参加し、プロジェクト概要に加えて、1990年代からJICAがブラジルを含むラテンアメリカ、アジア、アフリカで展開してきた、人間的出産をテーマとしたプロジェクトや研修が紹介されました。

参加者による発表では、まずエルサルバドルから、2022年2月に制定された出産時のケアの質を向上するための法律によって大きく変わりつつある国内の医療施設の様子が紹介されました。正しい診断をすることにより過度な医療介入を予防し、不要なルーチンケアを行わないこと、そして妊婦を尊重したケア-人間的出産-を実践するために、産科ケアに関わる医療者の能力強化と、施設や設備の整備について説明されました。法律という点においては、ホンジュラスでも医療施設において妊産婦が尊重されるケアが行われるように法整備が進んでいること、そしてドミニカ共和国からは2019年に人間的出産ケアを行うためのマニュアルが作成され、使用されていると報告されました。中米ならではの取り組みとしては、グアテマラ、ニカラグア、パナマからは伝統的産婆を保健システムに組み込むことで文化的に尊重した産科ケアとコミュニケーションを実現することにより、妊産婦が感じる医療へのアクセスのハードルを下げる組織的な取り組みが紹介され、安全な産科ケアを安心して受けられるような工夫が説明されました。加えてグアテマラでは、地域によっては未だに自宅で出産するケースが多いことから、自宅分娩の産後出血予防のための薬剤が紹介されました。これはWHOの推奨でもあり、より入手しやすく保存しやすい産後出血予防の選択肢であるといえます。最後に、コスタリカからは人間的出産の取り組みのひとつとして流産や死産で赤ちゃんを失った母親と家族に対し、その深い悲しみに寄り添うグリーフケアやピアグループの取り組みが紹介され、「誰ひとり取り残さない」という強いメッセージが伝えられました。

以上のように、2日間にわたり各国で取り組まれている質の高い産科ケアが紹介され、参加者全員がお互いに学び合う機会を得ることができました。世界では76%の出産は医療施設で実施されていると報告されており(UNICEF, 2021)、施設分娩への移行で妊産婦と新生児の死亡は減少したものの、期待されていたほどの大幅な改善には至っていません(WHO, 2018)。また、施設分娩への移行の裏では産科暴力も報告されています。そういった課題を解決するのは「ケアの質」であり、医療者の知識と技術の向上とともに、対象者を尊重する意識の向上が求められています。

JICAが1990年代から取り組みを続けている「人間的出産」をテーマに実施した今回のセミナーにおいて、各国からの参加者は今後も繋がり情報共有をしながら、さらに産科ケアの質を高めていくことを約束した上で、本地域セミナーを閉会しました。

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