私の仕事って、まるでキッチンにいるみたい

2023年3月20日

そう語るのは、JICAセントルシア事務所ナショナルスタッフのアヨデール・ヒポライトさん(通称アヨさん)。今回は、多様な経歴を持つアヨさんに国際協力の現場に入ったきっかけやJICAへの想い、在外事務所での仕事、そして今後の目標についてインタビューさせていただきました。

アヨさんプロフィール

【画像】アヨデール・ヒポライトさん(セントルシア事務所)

ジャマイカ出身。セントルシア人の父とジャマイカ人の母の間に生まれる。16歳の時にセントルシアに移住。以降、2か国を行き来しながら学生時代を過ごす。2つの国籍とアイデンティティを持つ。大学時代はジャマイカの大学でフランス語とスペイン語を学び、大学院修士ではハイチを対象としたフランスカリブ文学、メディアコミュニケーションを専攻。卒業後はフランス語、スペイン語教師、セントルシア公営局のプログラムマネージャー、英国大学院博士課程後期(メディア・コミュニケーション)、CARICOMのプロジェクトオフィサー、英国高等弁務官事務所職員などを経て、現職に至る。

私にとってJICAは目標を叶える場所

JICAの仕事が本当に好きです。国際協力に対するあり方や、「現場」に出向き、現地の人々と共にプロジェクトに取り組むアプローチにとても共感しています。「現場」という言葉は、"GEMBA"として、在外事務所でも日本語のまま使われています。私自身、これまでいろいろなキャリアを歩んできましたが、自分自身の目標に立ち返ったとき、私はセントルシアのような小さな国の市民社会のために働きたいのだと気づいたんです。私にとって、JICAはその目標を叶えるためにある場所です。

草の根の人々のニーズに向き合う協力のあり方に共感

≪これまでいろいろな職種を経験されてきたとおっしゃいましたが、例えば英国高等弁務官事務所の職員とJICAでは、全く異なるアプローチな気がしますが、実際に働かれてみてどうでしたか?≫

間違いなく、まったく異なるアプローチでした。けれども、実際に働いてみて、私は政治や外交の現場ではなく、国際協力の「現場」により近い場所で働きたいと感じたんです。開発途上国の経済開発を促すという意味では、政府機関や本部と比べると私一人が与える影響は小さいかもしれません。それでも現場に入り、自分自身の手でプロジェクトを動かし、それが現地の人々の生活水準向上につながったり、生きるために必要なインフラや技術を提供したりすることこそが、私にとっての開発のあり方なんです。だからこそ、セントルシアという国の開発を一方的に推し進めるのではなく、現地の人々と足並みをそろえて進めていく組織で働きたかったんです。JICAの海外協力隊などの活動については何年も前から知っていましたが、草の根の人々のニーズに真摯に向き合う協力のあり方にずっと共感してきました。

ナショナルスタッフとしての仕事-キッチンと国際協力の第一線を渡り歩く?-

JICAナショナルスタッフとして、私はセントルシアとカリコム10か国におけるプロジェクトの進捗・実施状況の確認やファシリテーションを行っています。例えば、無償案件契約や有償資金協力案件の実施にかかる事務的な手続きを監督し、期限内に完了させることが私の役目です。これだけ聞くと簡単そうに聞こえますよね。でも国や地域をまたがって働くということは、異なる文化とぶつかるという意味でもあり、私も常に頭を悩ませています。実際に、セントルシアを含めたカリブ諸国と日本では、時間の感覚が違います。日本のODAを受けるためには当然ですが日本の提示する期限内に必要なステップを完了する必要があり、そこに至るまで、必要な書類を完成させるだけでもものすごく大変な仕事なんです。書類をかき集め、なんとか期限に間に合わせる。私の仕事って、まるでキッチンにいるみたい。

現場と日本を繋ぐ調整役として

【画像】私のもう一つの仕事は、被援助国であるセントルシアと、その政府関係者、日本政府関係者を繋ぐ調整役であることです。援助国である日本の要望に対応し、プロジェクトが開始できるように調整を行います。また、プロジェクトが開始、または終了した際の取り纏めの役割も担っています。実際に、カルデサック橋梁プロジェクトが完了した際には、15分間の動画を作成しました。これはメディア業界での経験を生かすことができた経験でした。

また、国際協力について、対象国の開発のセクターの優先順位を分析することも私のもう一つの役割です。JICAが強化したい分野や開発に重点を置きたい分野が現地のニーズとどう適合するかを分析し、現地の目線で対象国の開発の優先順位を把握できるようにしています。

国際協力のパートナーとしての日本特有のアプローチとは

他の国際協力のパートナーと比較して、日本の国際協力は、その姿勢に差があると思います。というのも、日本の国際協力はトップダウンではなく、ボトムアップの姿勢を取っていて、実際に島を訪れて現場での調査を行っています。現場に入り、その地域で何が起こっているのかを見て、現地の人々と共にプロジェクトを行っています。自分の手と体を動かし、地域に根差した国際協力を行っていることが、日本特有のアプローチだと思います。

未来に向けて-大事にしていきたいこと-

人々の生活をどれだけよい良いものにできるかで、仕事の価値がわかると思っています。

私は、「一生をかけて、人々の生活をより良いものにする」ために、「誰も取り残されない社会を創る」ために、国や地域を超えた国際協力の現場で働きたいです。「私の仕事は、まるでキッチンにいるみたい」と言いましたが、プロジェクトを開始するまでにも多くの人の努力があることや、細かい段取り、事前準備や確認業務の大切さを知っているからこそ、同時に国際協力の意思決定の第一線にもいたい。そう思って活動しています。

聞き手:
神田 実鈴
JICA 中南米部中米・カリブ課インターン
活動期間:2023年2月~2023年3月