【JICA専門家のカリブ奮闘記(5)】ソカミュージックをまとう給水車の後をつけて

2023年4月4日

新年度がいよいよ始まる時期に本稿を設えているところですが、いかがお過ごしでしょうか。当地は乾季にあたる観光シーズンも終盤に向けて、時折雨が降る、そんな日々が続いています。

奮闘記も紆余曲折を経ながら第5信。カリブ海の孤島、バルバドスに滞在して業務をしているといえども、私はあくまでもカリブ地域の「広域」を担当しているJICA専門家。これまでコロナ禍で各地に出向くことが困難ではあったものの、限定的にいくつかの国に赴く機会もあったところ、さすがに今回からは他のカリブの国々も紹介しなくてはと思い始めつつ、赴くカリブの途上国と比べても「先進国」である当地での滞在が決して天国ではなく奮闘だということを日々感じることがあります。インフラの弱さのことです。

観光にて当地を訪れれば圧倒的な海の青さに魅了されつつ、ビーチライフをメインに過ごそうと思えば、ホテルさえ周辺さえ整っていればあまりインフラの弱さは気が付かないかと思います。また、当地に駐在する国際機関や在外公館(大使館)、大手企業の海外支社などの多くはビーチエリア等に割合アクセスが良い地区にあり、停電などの不運に恵まれない限りバルバドスの弱さに気が付かずに滞在を終えることになるかと思います。一方で、私の職場は不運にもそうした環境にあらず、観光客が決して寄り付くことのないローカルなビジネス街にあり、自宅もさながらイギリスの田舎のような草地が広がる光景の中にあり、ちょっとした買い物でも車を使わなくてはいけない環境。どこに行くにもがたがたとした道を行く必要があります。

歩道があれば積極的に日常生活に歩行を取り入れたいところですが、そもそも歩道がない道が多く、歩くのも命がけです。これが雨季になると、基本的な排水処理もされていないのであちこちに水たまりができ、何ら途上国と変わらない状況に。むしろ、これまでの域内出張の経験では、途上国としての支援の対象となっている周りの国々のほうがむしろ道がきれい、且つ積極的に歩道なども作られている印象があります。これらの国々は、治安が悪いという別の理由で、車移動の生活を余儀なくされることはありますが、せっかく治安のよいバルバドスにいながら、道を歩いたり走ったりできないのが極めて残念です。

車を運転していても、日々チャレンジに遭遇します。これは私が東京(郊外)育ちでこれまでほとんど車に頼る生活をしてこなかった、加えて運転が上手でないというだけではありません。私の家の前はかつて「バルバドスで最もがたがたな幹線道路」との悪名がついており、現在、某国際金融機関の支援を得ながら絶賛工事中(でありながらも、排水がなさそうなのは既定路線でしょうか)。自宅前が不運なのではなく、どの幹線道路も突如垂直にきれいに穴が開いているのを見ることがあり、さながら10数年前に住んでいた東ティモールで見た光景のようです。

そうした環境にありながら、周りの運転マナーには戸惑います。当地は元英国領という環境にあるため、本邦と同じ左側通行というだけではなく、交差点には信号機が設置されるパターンよりはむしろ、ラウンドアバウトと呼ばれる環状交差点が設置され、すべての交差点に入るところは一旦停止、環状部が優先となり、どの車もいったんは道を譲るような交通ルールが制度化されている環境にあります。そうしたこともあり、環状交差点でないところでも、多くの車が一旦停止し、紳士的に道を譲ってくれる人たちにかなりの確率で助けられていますし、私もそうした運転を心がけなくてはと思っています。一方で、時折、車全体からテンポが速く幾分激しい当地のソカ・ミュージックをかき鳴らすような恐ろしいほど陽気な車が乱暴に横入りを来るなど、怖い思いをしています。自分も昨年9月、10月と立て続けに追突や突進の被害を受け、JICA本部の安全担当からは要注意運転者となってしまっているかと思います。少なくとも、当地外で運転するよりも格段にバックミラーを気にしています。

ちなみに、ソカミュージックをかき鳴らす車は、スリリングな運転をして入りる車だけには限りません。インフラが弱いことから、私は当地で断水をかなり頻繁に経験しています。私が住んでいるところが決してひどいわけではなく、水道公社のSNSを見るとバルバドス各地のどこかで常に水道工事をしており住民に案内が出されているような状況、ミャンマーやフィリピン、東ティモールでさえも経験しなかった給水車からの給水を幾度となく経験しています。直接コンパウンドの給水口に水を入れてくれるパターンもあるのですが、実際にバケツをもって給水車に並んだりしました。その時の給水車も「ウォーター、ウォーター」という歌詞を繰り返すソカミュージックをかき鳴らしており、最初に聞いた時には悪夢に出て来るのではと思ったところです。

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在外JICA事業経験10数年にして初めてお世話になった給水車

ところが、この給水車、一度「経験」した後は、ツイていない中でのラッキーアイテムになっているのかもしれません。この原稿を仕上げる直前にも、予告なしの断水があり、それが大規模だったこともあり、給水車も送ってくれず水なしで生活をする経験をしたのですが、「ウォーター、ウォーター」と連呼するソカミュージックを心待ちにする自分がいました。また、JICA本部から、要注意運転者認定を受けてからは、運転が心底怖くなり、通勤のために通らなくてはいけない高速道路は必ず走行車線での通行を心がけているのですが、ここでも給水車はラッキーアイテムです。全身からソカミュージックが流れる暴走車は警戒しつつも、実は水道公社の給水車は高速道路の走行車線をゆっくり進む車の一つで、給水車を見つけると後をつければ、暴走車にあおられながらも合法的にゆっくりと走行車線をいける救世主なのです。

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なかなか安全な歩道や自転車道がない中、中小観光業の有志やランナー・サイクリストのボランティアなどを中心に、安全に走ることのできるバルバドスのトレイル整備の動きもある。将来に期待!