森 温子さん「派遣地、フィジーにて」

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派遣国
フィジー
職種
栄養士
派遣期間
2015年1月〜2017年1月(26年度3次隊)
経歴
大学を卒業後、栄養士として病院、老人保健施設、地方自治体で勤務。

協力隊への志望動機

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村の様子

子供のころ、私の青年海外協力隊へのイメージは「資格がなくても、特別な人間でなくても、困っている人のために何かができる」というものでした。漠然と「私も何かをしたい」と思い、大人になってからも「自分の持っている能力を活かして開発途上国の人々の幸せのために支援がしたい」という思いは変わらず応募に至りました。

ただ、管理栄養士としてまだまだ未熟なため「経験を積んで自信が出来たら、いつか…」と思っていました。そんな私の背中を押してくれたのはOG隊員の方の「いつか…と思っていたら結局やらないままで終わってしまう。やってみたい、と思っている今挑戦してみたらどう?」という言葉でした。
フィジーに来てからも「Let's just try!」という言葉は好きな言葉で、フィジーの方に運動や食事などの生活習慣改善を促進する際にも使っています。

活動内容

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学校での栄養教育の様子。 3色食品群を示して、バランスのとれた食事の大切さを伝えています。

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村でのワークショップの様子

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子供たちに好きな野菜の絵を描いてもらうとフィジーの野菜オタ(山菜のような味)を描いてくれました。

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National Nutrition Monthの様子

私は現在、国家食糧栄養センター(National Food and Nutrition Centre)という保健省管轄のセンターでNCD(Non Communicable Disease:非感染性疾患、日本でいう生活習慣病)予防対策に取り組んでいます。国家食糧栄養センターは、国民の食生活・栄養問題に取り組む機関として、フィジー国民の健康を強化するために、フィジーの食品・栄養状況の定期的なモニタリングと評価を行い、根拠に基づいた方針を作成します。2014年には10年に一度の国家栄養調査が実施され、その結果をもとに、国として政策の見直しや新たな立案をし、具体的な取組み内容の提案や実施が求められています。
大洋州諸国では近年、NCDが問題となっており、フィジーでは特に肥満による高血圧や糖尿病疾患が深刻な問題です。

フィジーの方と一緒に食事をすると、その量の多さ、特に主食の量に目を奪われます。新鮮な野菜が手に入りやすい環境ですが、野菜の摂取量は必要量を下回っており、バランスのとれた食生活改善指導が求められています。
そのため、私の大きな取り組みの一つとして、「フィジーの人々の野菜・果物の摂取の向上」があります。
小学校や村で子供たちに栄養教育を行ったり、国民に対して野菜栽培を促進したりしています。

そのほか、ガイドラインやパンフレットの見直し、栄養イベントの企画・実施等、国民に向けて健康や栄養に関する情報を提供しています。8月のNational Nutrition Monthには、JICA栄養士隊員共同で、フィジーの栄養士とともにお母さん方に離乳食のデモンストレーションと栄養講話を行いました。

任地での生活(食事、家etc.)

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フィジー料理 主食のダロ芋、魚、ダロの葉のココナッツクリーム煮など

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インド料理のロティとカレー、横に巻きずしを添えて

フィジーの気候や国民性は少し高知と通じるところがあるように思います。例えば、むし暑い夏の気候や新鮮な野菜がおいしいところ、市場で知らないおんちゃん(注)やおばちゃんと仲良くなれるところなどなど。フィジーの人々は朗らかで明るく親切です。道端やバスの中での会話から友達になることもあります。

任地のスバは、フィジーの首都であり、街中はビルが並び、交通量が多く車や人々が行き交います。徒歩よりもバスやタクシーでの移動を好み、運動不足の成人が多く、肥満を招く一つの要因であると考えられます。リゾートのイメージのあるフィジーですが、都市と村での生活には格差があり、近代的な生活をしている人がいる一方、村ではほぼ自給自足の生活をしている人もいます。村で出会った人々が「お金はないけど私たちは毎日幸せ」と笑って話されていたのが印象的です。

フィジーは、フィジー系6割弱、インド系4割弱、その他の人種が同じ国で生活しており、言葉も文化も宗教もさまざま、もちろん食事もフィジー料理、インド料理とあり中華料理もよく食べられています。スバには日本食レストランもあります。配属先で巻きずしを振舞うととても喜んでもらえました。

私の生活は、平日は6時頃起床し、30分程度の距離を歩いて配属先へ、8時から4時半まで活動、お昼休みは1時から2時と日本に比べて遅いですが、みんな午前中にモーニングティーを楽しむのでお腹が空いて大変、ということにはなりません。夕方帰宅後は自炊、時々フィジー料理やインド料理にも挑戦します。夜は10時頃にはベッドに入るという健康的な生活を送っています。

(注)おんちゃん:高知の方言でおじちゃんのことです。

モーニングティーについてご説明

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同僚の栄養士。減塩推進イベントにて。

フィジーの方々、紅茶などに砂糖やミルクをたっぷり入れて飲むのが大好きです。配属先で1杯のお茶もしくはコーヒーに使用する砂糖の量を調べたところ、平均小さじ5杯(25g)という驚くべき結果でした。そしてお茶請けはパン+バターたっぷりなど。砂糖の摂取量が多いことは大きな問題です。また、家庭での食事、外食ともに食塩、油脂の使用が多く、インスタントラーメンや食パン、ツナ缶など安価で簡単に食べることのできる食材を利用する傾向も見られ、NCDを招く原因となっていると感じます。
イベントの際には飲み物と軽食を用意し参加者に振舞います。減塩推進のイベントを実施した時のモーニングティーは紅茶とフルーツ、野菜サンドイッチなどヘルシーなものにしました。

嬉しかったこと

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おりがみを折るこどもたち

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配属先でのエクササイズ

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National Nutrition Month:早朝ウォーキングイベント

村で子供たちにワークショップを行った際、保護者の方も参加してくれていました。後日、ワークショップの参加者であったタクシードライバーの男性が、JICAボランティアの関係者をタクシーに乗せたところ「子供たちにとって野菜の摂取やジャンクフードを控えることはとても重要だ。良いワークショップをしてくれた。自分も楽しかった!」とタクシー代を受け取らずに感謝の気持ちを伝えてくれました。実際にワークショップを行ったボランティアだけでなく、その関係者にまで感謝してくれたその気持ちとワークショップの内容が彼の心に響いたことがとてもうれしかったです。

写真右上は子供たちに折り紙のワークショップをした時のもの。フィジーの子供たちは物を作ることが大好きです。彼らのうれしそうな笑顔を見ると私もうれしくなります。

配属先で週1回エクササイズの日を設けスタッフに運動を呼びかけています。初めは20%程度の参加率でしたが、最近は50%程度に上がっています。毎週水曜日はコミュニケーションを取りながら運動を楽しんでいます。

8月National Nutrition Monthに行った「早朝ウォーキングイベント」には約250人という多くの方が参加してくれ、運動やヘルシーブレックファーストを楽しんでいただけ、一緒に気持ちの良い1日を過ごすことができました。

残りの活動でしたいこと

NCDを予防するには、子供の時から生涯にわたっての健康な生活習慣をつくる事が大切です。そして、子供たちの食事を握っているのは大人です。今後は、子供たちへの栄養教育とともに保護者に対して栄養講話や調理実習なども行っていく予定です。
フィジーの人々も健康や栄養に興味を持っています。しかし、人によってその知識に差があり、正しい知識の普及が必要であると感じます。現地の新鮮な食材を活かし伝統料理や文化を尊重しながら、人々が健康で幸せな生活が送れるようサポートしていきたいです。

高知の方々へのメッセージ

今、フィジーで健康に笑顔で活動できているのは、高知の家族や友人、お世話になった栄養士の先輩方やたくさんの方々のおかげです。学校に通い勉強ができ、おいしい食事を食べることができる、自分の望む仕事に就き、高知で健やかに過ごしてこれたことに感謝しています。皆さんの毎日が笑顔であふれるようフィジーから願っています。フィジーでの活動を全うし、高知で再会できる時を楽しみにしています!