スポーツを通じて人を育てる

【写真】千頭 佐和子さん(高知)2017年度2次隊/スーダン共和国/青少年活動
千頭 佐和子さん(高知)

 私は2017年10月から2019年4月までアフリカ北部のスーダン共和国で青少年を対象にスポーツ振興を行う活動していました。アラビア語、イスラム教、砂漠、そしてスーダン人の優しさと強さ、スーダンの全てが温かい思い出になっています。

協力隊に応募したきっかけ

 幼い時に湾岸戦争が勃発し、私と同じ子どもたちが生まれながらに理不尽な状況に置かれているということに「世界はなんて不平等なのだろう、日本に生まれたことが申し訳ない」と感じるようになりました。子どもたちへの支援に興味が湧き、子どもたちがいつでもどこでも安全に思いっきり遊ぶことができる平和な世界を作りたいと考えるようになりました。
 私がスポーツに親しんで成長して来たように、スポーツを通じて子どもたちの自立や社会性を育むお手伝いをすることで、世界の平和に繋げられたらと思ったのが協力隊に応募したきっかけです。

活動について

特別支援学校にて
バレーボールを教えているようす

特別支援学校にて
ダウン症クラスの運動の時間のようす

スーダンサッカー協会のアカデミーが終わったあと

 要請内容は青年スポーツ省の管轄する地域のユースセンターに所属し、青少年に向けてスポーツ振興を行うというものでした。ユースセンターでの活動を中心に『ひとりでも多くの子どもに安全にスポーツができる環境・機会を提供する』ことを目標に、特に女子・女性に対するスポーツ振興、女子サッカー普及に携わりたいと考えていました。
 しかし、いざユースセンターに配属をされてみるとカウンターパート(技術移転する相手)がいない、文化的・宗教的な背景から女子・女性がユースセンターに来ないなど、想定外なことがつぎつぎと起こり、配属後すぐにセンター長からも「自由にしていいよ」と、何もわからない状態で放置されることになりましたが、これが私にとってはラッキーでした。
 ユースセンターを利用するバレーボールチームのコーチに「ユースセンターに女子が来ないので学校に行ってスポーツを教えたい、もっとたくさんの子どもたちにスポーツの素晴らしさを伝えたい」と話をすると、知り合いの校長先生やコーチを紹介してくれました。そこからまた別の繋がりが広がっていき、最終的に3か所のユースセンターに加え、学校5か所、特別支援学校1か所、スーダンサッカー協会、合わせて10か所約700人の子どもたちと一緒にスポーツを楽しむことができました。
 JICAスーダン事務所の担当スタッフも、ユースセンターの活動にこだわることなく、私の目標を応援・協力してくれ、現状に合わせて活動することができました。
 組織に属さずに活動することで、自由に動けるというプラス面があった一方で、活動の規模が限られてしまうというマイナス面もあり、効果を最大限に引き出せたとは言えません。もっとできたこともあった、こうすればよかった、と反省していることがたくさんあります。
 ただ、『ひとりでも多くの子どもに安全にスポーツができる環境・機会を提供する』という目標は貫けたと思っています。

スーダンがわたしにくれたもの

スーダンサッカー協会主催の女子チーム巡回指導のようす

女子校での体育の時間のようす

 言葉もろくにしゃべれない、何ができるかもわからない外国人に対して、積極的に(時にはおせっかいなほど)手助けができる日本人がどれだけいるでしょうか。ボランティアに行ったつもりが、スーダン人の温かさに触れて、私の方が助けられ、学び、成長することができました。
たくさんのスーダンの友人に支えられ、子どもたちの笑顔に囲まれて活動を行なっていた中、2019年4月にスーダンで起こった政変によって私の活動は残り半年を残して任期短縮、というほろ苦い終わりを迎えることになりました。お世話になった先生や子どもたちに感謝の気持ちを伝えられず、活動も中途半端に帰国することになってしまった悔しさばかりで、楽しかった日々を思い返すたびに、スーダンに行くべきだったのかとさえ考えることもありました。そんな、前に進めない私の背中を押し、一歩を踏み出す勇気をくれたのもスーダンでした。
 2018年12月から当時の政府へ毎日のように平和的なデモンストレーションを行い、たくさんの犠牲を出しても自分たちの目指す姿を求めて戦い続け、2019年7月についに民主主義への第一歩を踏み出したスーダン。
 優しくて穏やかなスーダン人のどこにこんなに強さがあったのだろうと感じ「強く想うこと、行動すること、それを続けること」の大切さを教えられました。
 この経験は、これからの私の人生にとって、大きな意味を持つものになることは間違いありません。同じ世界に住む友人として、世界の平和のために、いま自分にできることをしていきます。

これからの目標

ユースセンターが主催するサマーキャンプのバレー教室のようす

 スポーツはオリンピックやワールドカップなど世界的なビッグイベントを持つと同時に、生きることが優先される土地にも存在する社会的慣習の一つです。難民キャンプや紛争地、スラムなどの貧困層にある子どもたちにとって世界との唯一のつながりであると言えます。
 これからもスポーツの環境・機会をひとりでも多くの子どもに提供することで、夢を持つことの大切さを伝え、技術の向上だけでなく、子どもたちの自立・決断力・社会性などを養い、一人の自立した人間として、強く優しく生きていく人間力をつけるお手伝いをしたいと考えています。