所長あいさつ

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今日、タイは世銀の定義によると上位中所得国に位置づけられます。そして、近隣国に公的援助や民間投資を活発に行うようになってきたタイの現状から見ても、タイは明らかに従来的な意味での途上国援助の対象ではなくなってきています。一方、タイの有する地政学的な重要性や日本経済との関係性を鑑みるに、タイの場合は、わが国の行う国際協力のあり方を従来のものとは変える必要があるものの、今後も積極的に協力活動を展開しなければならない国であると考えています。今後のタイにおけるJICAを通じた協力における重要な視点は以下の2つに集約されるのではないでしょうか。

一つには、タイの地政学的、経済的な意味での重要性です。つまり大メコン地域(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム、タイ;CLMVT)において、タイはまさに扇の要のような場所に位置し、2億人を優に超す人口を擁するこの地域の経済開発を考える上では、タイ経済とのリンクを念頭においた戦略作りが不可欠だと言うことです。特に5万人以上の在留邦人が住み、日本人商工会議所の会員企業だけでも1700社を超え、数千社は企業活動をしているといわれる日系企業の動向は非常に重要です。さらには、これからの発展や投資拡大が期待されるミャンマーやカンボジアをはじめとする周辺国の経済開発を考える上でも、この日系企業群を中心とするタイの産業集積とのリンクを前提にした経済開発戦略が必要となっています。加えて、タイにおいては、1960年代からの長年の協力の歴史があり、その協力のアセットとも言うべき人的・組織的なネットワークや知識蓄積が存在しています。例えば40年以上にわたり協力してきたモンクット王工科大学(KMITL)や有償資金協力と技術協力を通じ組織整備強化に協力してきたタイ国家計量標準機関(NIMT)など、その組織自体がまさに日本のタイに対す協力の一大成果、アセットと言えるでしょう。またタイはすでに国際開発協力庁(TICA)や周辺国経済開発庁(NEDA)を通じ、技術協力や資金協力を他の開発途上国に実施することを積極的に開始しており、TICAやNEDAとも協力しつつ、過去のタイへの協力アセットを有効活用して、CLMVはもとより、それ以外の途上国に対する協働を模索したいと思います。

もう一つの重要な視点は、中進国タイがわが国と共通する課題に直面しているということです。例えばタイ社会は、日本が経験したものより早いペースで高齢化社会から高齢社会に移行すると予測されており、周辺国に比べ一足先にこの課題に直面しつつあります。また、気候変動対策や環境配慮型経済社会の形成などの地球規模的課題に対してタイは日本と対等な立場でその解決策を探っていくことが可能であり、そのような関係を望んでいる国と言えます。

このようにタイは、日本にとって国際協力を世界に展開していく上で非常に重要な要素を有する国の一つであり、今後ともますます重要な開発パートナーとなっていくものと考えています。

タイ事務所長 田中啓生