【数字で見るJICA】新型コロナ対策にも欠かせない「安全な水」を供給する

2020年6月25日

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、有効な対策の一つとされる石鹸を使った手洗いに欠かせないのが安全な水です。JICAは途上国で、この安全な水の供給に向けた取り組みを続けています。水へのアクセスは人間の基本的人権であり、安全な水を安定して供給することは、公衆衛生や医療・保健、さらにジェンダー、教育、経済活動など、さまざまな分野の課題解決につながります。

安全な水を自由に使えない人々はまだまだ多い

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出典:Progress on household drinking water, sanitation and hygiene, 2000-2017(2019 UNICEF/WHO)。第4回アジア地域上水道事業幹部フォーラムにおける東京大学大学院滝沢智教授の基調講演資料

「安全な水」とは、しっかりと管理された上水道や井戸、きれいな湧き水など飲用に適している水のことです(注1)。この安全な水を供給するには、自宅の敷地内で1 日12時間以上、必要なときに入手できる体制の構築が必要です。

しかし、途上国の都市部などでは水道システムが整っていると言っても、水道管の老朽化などで水が漏れていたり、不法に誰かが水を引いたりと、安全な水がきちんと人々に届いていません。しかも、約6割の水道料金が徴収できていない国もあり、水道事業の成長を妨げる大きな課題となっています。

(注1)WHO/UNICEが行っているSDGsモニタリングにおける「安全な水」(safely managed drinking water supply service)の定義は「改善された水源(水道、深井戸、保護された浅井戸、湧水、雨水)で、敷地内にあり、必要な時に入手可能で( 1日12時間以上利用可能)、糞便性指標や優先度の高い化学物質指標(砒素、フッ素)の汚染がない飲料水供給サービス」であり、accessibility、availability、qualityの3つの要素から成り立っています。

人材育成と事業支援の両輪で協力を進める  

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日本の上水道の普及率は約98%で、24時間給水が達成されており、無収水率(注2)は約10%です。JICAはこれまで日本が培ってきた高度な水道整備技術を活用し、水インフラの整備・拡張に加え、水道事業体の経営・財務改善やその運転・維持管理など、ハード面とソフト面の双方で途上国での水道供給体制の整備に向けた支援を行っています。

(注2)無収水率: 水道システムに投入されたが水道料金の請求対象とならなかった水量の割合。漏水、盗水、水道メーター不良などが主な原因。ちなみに、途上国の無収水率は30~60%(UN-Water、GLAAS 2016/2017 country survey(2017)、水道技術研究センター水道ホットニュース2020年台697号より)

日本の浄水場を視察するスリランカの水道行政官ら

JICAが水道事業を支援する国々は世界約40ヵ国におよび(2019年)、2014~2018年のJICAの協力事業により、年間およそ 280万の人々が安全な水にアクセスできるようになりました。また、日本や現地での水道事業関連の研修などを通し、年間約 1万1000人の技術者や行政官らが育ち、自国や周辺国において水分野のフロントランナーとして活躍しています。

プノンペンでの成功例が各国に広がる  

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配水管の敷設作業を行うプノンペン水道公社の作業員

JICAは北九州市と協力し、カンボジアの首都プノンペンの水道整備を1999年から続けています。1993 年と2006年の比較で、プノンペンの水道普及率は25%から90%となり、給水時間は10 時間から24 時間可能となりました。また、無収水率は72%から8%にまで改善しており、これらの成果は「プノンペンの奇跡」と呼ばれ、世界を驚かせました。

水道事業における日本の国際協力の大きな特徴は、北九州市のような高い技術力と管理運営能力を持つ地方自治体の協力体制があることです。水道事業で築き上げたプノンペンと北九州市の信頼関係はさらに発展し、近年は人口増加や経済発展によって顕在化してきた下水道システムの課題解決へと新たな取り組みも始まっています。

そして、カンボジアの上水道分野の成功事例は、「アジア地域上水道事業幹部フォーラム」を通じて、アジア12ヵ国に共有されています。また、他国の水道事業体の関係者が独自にプノンペンを視察訪問する例もあり、JICAの協力で育ったプノンペン水道公社の人材が講師として活躍するなど、第三国へのノウハウ共有が大きなうねりを見せています。

自立して成長できる水道事業体を増やしていく  

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水道事業、ひいては水資源分野の協力は、人口や経済だけでなく、その国の気候や地理などの自然条件、さらには人々の水に対する意識など文化的な背景なども踏まえ、相手国の事情や要望に寄り添い、中・長期的に続けていかなければなりません。

JICAは、日本がこれまで培ってきた水資源分野の知見・経験・技術をとりまとめ、水道事業における豊富なノウハウを持つ地方自治体や民間企業、さらには大学・研究機関などとの連携をいっそう強化しています。さらに今後は、途上国で、自立的に資金を調達して水道サービスの拡張と改善を進めることができる「成長する水道事業体」を増やしていくことを目標としています。