子どもたちの学びを止めない!:一時帰国中の日本人専門家が遠隔で教育プロジェクトの継続に奮闘

2020年8月14日

新型コロナウイルスの影響により、JICAの技術協力プロジェクトに取り組む日本人専門家は途上国の現場に足を運ぶことができなくなっています。そんななか、教育分野のプロジェクトに携わる一時帰国中の日本人専門家は、さまざまな工夫を凝らし、遠隔でのサポートを続けています。ミャンマー、ラオス、エジプトでのプロジェクトの継続に向け、奮闘する日本人専門家の姿を追います。

ミャンマー:定期的なオンライン会議で教材開発を予定通り進める

JICAはミャンマーで、小学校全学年(1年生から5年生)の教科書・教師用指導書開発、現職教員に対する研修と、2019年12月に2年制から4年制に移行した教員養成校の新しいカリキュラムの作成と研修をサポートするプロジェクトを実施しています。新しいカリキュラムでは、子どもたちが自ら体験し、考え、これからの時代を生きる力を身につけることを目指しています。

日本人専門家とオンライン会議をするミャンマー人スタッフら

新型コロナウイルスの感染拡大で日本人専門家の渡航が全面的に見合わせとなり、4月から5月の2ヵ月は、ミャンマー教育省の関係者も在宅勤務となりました。この間、日本人専門家は、データ共有やオンライン会議の設定など、全関係者との定期的な進捗確認が取れるよう体制を整備しました。

それにより、新5年生10科目の教科書や教師用指導書の開発と、教員養成校カリキュラムに資する教材の開発が滞ることなく行われています。また、プロジェクトでは、コロナ下の教育への支援として、教育省の要請を受け、授業時数の減少や感染予防対策をふまえたカリキュラムの調整やガイドラインの策定を実施中です。感染対策を講じながら学びをどう実現していくか、先生や保護者にわかりやすく伝える広報ビデオも制作。日本人、現地スタッフが一丸となって、子どもたちの学びの継続のため、日々活動しています。

再開に向けた準備が進むミャンマーの小学校

ミャンマーでは、例年3月から5月までの正月・暑季休暇の後、6月1日に新学年が始まりますが、今年の小学校の開校は8月中旬以降となることが発表されました。外出制限は段階的に解除された一方、マスク着用の義務化など厳しい措置も続くなか、教育省や学校関係者は開校にむけ、児童数に応じた通学パターンを設定するなど、緊張感をもって感染予防策の準備を進めています。

ラオス:新教科書の原稿執筆を遠隔指導

ラオス政府とJICAは2016年より、教科書・指導書開発や教員養成校のカリキュラム改訂と教材開発、現職教員への研修を通じた小学校の算数教育の質の改善に取り組んでいます。ラオスでは新型コロナウイルス感染拡大防止のための約2ヵ月間の休校期間を経て5月から学年ごとに学校が再開。しかし、日本人専門家は渡航できない状況が続いており、遠隔でプロジェクトの準備指導や研修を行っています。

これまで毎年6月、9月、12月に、ラオス教育スポーツ省の職員を日本に一週間招聘して新教科書原稿の執筆研修が行われていましたが、新型コロナの影響を受け、今年6月は、JICA本部(東京都)とラオス事務所を計7回つなぎ、遠隔でのワークショップを実施しました。

JICA本部で、通常の研修と同じようにホワイトボードを使って解説する日本人専門家

日本人専門家が執筆する各単元の内容を解説し、特に丁寧に考えるべき箇所や注意点について説明します。その後、ラオス側の担当者がそれぞれ担当する単元の執筆を開始。進捗状況に合わせて内容の検討や疑問点があれば質問し、最終化に向けて、日本人専門家ときめ細かい協議を行いました。遠隔での実施は初めての試みで、通常より倍の時間がかかりましたが、無事に原稿が完成しました。

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オンライン会議の様子。右側はラオス事務所で研修を受けるラオス教育スポーツ省の職員

遠隔指導を行った教育開発コンサルタント会社パデコの西原梨緒専門家は「今回のワークショップでは、JICAラオス事務所でTV会議部屋とは別途作業部屋を準備し、日本での研修さながらの環境づくりの再現に取り組みました。研修の受講者からは、自分たちのオフィスを離れることで他の業務で邪魔が入ることもなく、受講者一同作業に集中することができてよかったとの声があがっています」と語ります。

日本人専門家が不在でもコロナ前と変わらないサポートができるよう、他の活動についても引き続き遠隔での指導方法について検討していきます。

エジプト:オンラインワークショップで教育のモチベーションを維持

エジプトでは技術教育(日本の高等学校職業学科に相当)の改善を目的として、実習、安全管理、整理・整頓・清掃などを重視した日本式技術教育を導入するプロジェクトを進めています。パイロット4校、新規モデル校1校にて、産業界が求めるスキルを生徒が習得できるよう、日本式の実習授業の特徴である「繰り返し指導」を中心に取り組んでいます。

プロジェクトでは、各校の改善状況を半期毎に確認し、学校とともに改善計画を立てるためのワークショップを実施してきました。しかし、エジプトは、3月15日から全国で臨時休校となり、日本人専門家も一時帰国を余儀なくされました。ワークショップの開催が困難となるなか、日本人専門家は教員のモチベーション維持に向け、オンラインでの実施を企画。参加する教員の満足度を高めるために、進行方法や主に通信環境に関するテクニカルサポート体制の整備など入念に準備を進めました。

これまでに4校でオンラインワークショップが開催され、参加した教員は取り組みの成果を発表すると同時に、課題の解決に向けデータを用いて説明。各校は9月に予定される授業再開に備えて改善計画を検討し、日本人専門家は引き続き遠隔でサポートします。今回の危機を機会と捉え、オンラインを活用したセミナーも今後、実施される予定です。