ベトナム初の地下鉄整備が進む:鉄道建設から会社運営、駅ナカ事業までサポート

2020年9月29日

ベトナムの最大都市ホーチミン市で、2021年末開業予定の都市鉄道の運転士講習が、この7月から始まっています。ホーチミン市都市鉄道は、巨大都市に成長したホーチミン市の渋滞緩和を目的としてJICAの協力により整備されており、2012年から建設工事が進んでいます。

現地では鉄道建設に加えて、運転士の採用や安全管理部門などの人材育成、組織管理や営業規約の策定など、鉄道運営会社の能力強化プロジェクトが実施されており、JICAはハードとソフトの両面で開業をサポートしています。

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運転士講習開講式の様子。運転士候補生59名と関係機関の代表者などが参加しました

ホーチミン市初の鉄道運転士講習がスタート

「発展を続ける都市開発と人々の安全輸送に貢献できることを、私たち自身とても誇りに思っています」

運転士講習開講式でスピーチに立つファム ティー ツー タオさん

運転士講習の開講式でそう語るのは、今回唯一の女性運転士候補生ファム ティー ツー タオさんです。今回、運転士候補生として選ばれたのは59名。募集にあたっては、学歴や身体条件のほか、道徳・規範意識の高さや、責任感、自律性の高さなども条件となっていて、いずれもクリアした人たちが集まりました。候補生たちは、今後約1年に及ぶ鉄道学校での授業を受け、その後、実技訓練や国家試験を経て、晴れて運転士として業務にあたることになります。

ホーチミン市の様々な課題をクリアする都市交通システム整備  

この都市鉄道整備の背景には、ホーチミン市の人口急増問題があります。ベトナム最大の都市として約900万人(2019年4月時点)が暮らすホーチミン市は、2009年からの10年間で約180万人の人口増加があり、道路整備とバス活用による都市交通整備はもはや限界に達しています。現在はバイクで移動する住民が多く、また今後は経済成長に比例して自動車利用が増加していくと考えられています。今回の都市鉄道整備事業は、慢性化した交通渋滞を回避し、大気汚染緩和、地域経済発展など、巨大都市ホーチミンが抱える多くの課題を解消するものとして期待を集めています。

1号線の路線計画図。ホーチミンの中心部から郊外を結ぶ都市鉄道です

現在、全部で8つの鉄道路線が計画されおり、今回JICAの協力によって建設が進んでいるのは、その中の「都市鉄道1号線」とよばれる、ベンタイン-スオイティエン間を結ぶ19.7kmの路線です。ホーチミン最大の繁華街である都心部2.5kmは地下を走り、郊外の17.2kmは高架で、最高時速は100kmを超えるという、ベトナムでは初めての地下鉄です。

建設中の駅間シールドトンネル部分。都心部の2.5kmはベトナム初の地下区間となります

この1号線は、ホーチミン都市整備の優先区間と位置づけられており、2021年12月の開業に向け、工事が進められています。開業に向けては建設工事とは別に、鉄道職員の育成や、安全認証の取得など、鉄道運営会社が果たすべき課題はたくさんあり、JICAは、運営会社であるホーチミン市都市鉄道運営会社の運営維持管理能力を高める協力も進めています。

鉄道運営会社の能力強化プロジェクトに携わっている東京メトロの谷坂隆博さんは、1号線の有用性について「都心部の1区、発展著しい2区・9区を結ぶ路線で、1号線が成功すれば洗練された交通手段として都市鉄道が市民に浸透します。今後整備される他路線含めた都市鉄道普及の契機としてふさわしい路線です」と語ります。

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1号線最初の列車が10月に車両基地に到着しました

ハード・ソフト一体となった整備・運営・維持管理支援 

今回のプロジェクトで注目されているのは、東京メトロを中心とした協力のもと、鉄道利用を促進するモビリティ・マネジメント活動や、駅ナカ事業の取り組みといった非鉄道事業の整備も合わせて行っている点です。

モビリティ・マネジメントとは、交通渋滞や環境課題、あるいは個人の健康問題に配慮して、過度に自動車に頼る状態から、公共交通や自転車などを『かしこく』使う方向へと自発的に転換することを促す取り組みのことで、一般の人々やさまざまな組織・地域を対象としています。途上国の都市交通開発では、このモビリティ・マネジメントに類する活動はまだほとんど例がなく、都市鉄道整備とセットで取り組んでいる協力は日本独自のスタイルといえます。

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都市鉄道建設現場には、ベトナムのファム・ビン・ミン副首相(写真前列左から2人目)も視察におとずれました

また、駅ナカ事業については、コンビニなどの商業施設だけにとどまらず、行政機関や、保育園など、地域社会向けの公共サービスが提供されるなど、日本独自の発展をとげてきた分野です。このようなノウハウを提供することにより、駅を単なる交通機関としてとらえるのではなく、市民生活に密着した場所として活用することができるようになるのです。

東京メトロをはじめとした日本の技術と知見により、ハード建設とソフト運営が一体となった協力をすることで、日本式の都市鉄道運営が、ベトナムでも大きな成果を上げることと期待されます。

開業へと準備が進む都市鉄道について、JICA社会基盤部の柿本恭志職員は、「都市鉄道の安全・安心な運行には、決められたルールをしっかりと守ることに加えて、異常時に適切な判断をして即座に行動できるように普段から訓練しておくことが重要です。今後は運営会社の人材育成とともに1号線開業のための重要なプロセスである安全認証取得の協力にも力を入れていきたいと思います」と語ります。