【11月19日は世界トイレの日】途上国でトイレ革命を進める!:トイレの大切さを改めて考えてみよう

2020年11月19日

トイレのない生活を想像できますか?

世界中では、いまだ約20億人が基本的な衛生施設(トイレ)を使用することができません。これは世界の総人口の約26%に相当します。そして、そのうち約6.7億人が野外で排せつを行っており、排せつ物からハエを媒介して病原菌が伝播し、感染症などが拡大する要因にもなります。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、今、「手洗い」の大切さが改めて注目されていますが、手洗い、安全な水の確保に並んで、トイレの整備は、感染症を防ぐだけでなく公衆衛生の向上には欠かせません。

11月19日は「世界トイレの日」。トイレに関する問題を世界中で考えていこうと国連が2013年に制定しました。JICAは、トイレの普及に向け、途上国で上下水道の整備から地域に適した環境配慮型トイレの導入、そして住民に対する衛生・環境意識の向上など、さまざまな取り組みを進めています。

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出典:WHO/UNICEF JMP (2019) Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000-2017. Special focus on inequalities

JICAがセネガルに設置した足場付きピットトイレ
写真提供/日本テクノ(株)

基本的な衛生施設(トイレ)とは、他の世帯と共有していない、改善された衛生施設(トイレ)と定義されます。日本の水洗トイレや、開発途上国では多くみられる、ピット(穴)に排せつ物をためて無機化し無害になってから除去する足場付きピットトイレなどが当てはまります。

ではなぜ、途上国ではこの基本的な衛生施設(トイレ)の普及が遅れているのでしょうか?

その背景には、野外での排せつが一般的で、トイレ建設に必要な資金を確保できないことをはじめ、そもそもトイレの必要性が認識されていないことや、排せつは不浄なものとみなす宗教的な考え方など、各国・地域によってさまざまな理由が考えられます。そのため、資金を準備してトイレの数を増やすだけでは解決できない問題が山積しています。

トイレ普及の遅れは不衛生な生活環境をもたらし、下痢などの疾病を引き起こします。途上国では下痢も致命傷になる疾病で、世界で年間約52万5000人の5歳未満乳幼児が下痢によって死亡しています。さらに、世界中で、3億6700万人が通う学校にはトイレがなく、あるいはあっても男女共同で、女の子は特に生理中に学校に行きづらい状況が生まれています。つまり、トイレの普及は、保健・衛生面の向上だけでなく、教育、ジェンダー平等にもつながっていると言えるのです。

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出典:WHO/UNICEF JMP (2019) Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000-2017. Special focus on inequalities.
https://www.unicef.org/reports/progress-on-drinking-water-sanitation-and-hygiene-2019
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/diarrhoeal-disease

トイレの普及に向けたJICAの取り組みを、インドを例にみてみましょう。

WHOとUNICEFによる調査報告(注)で、インドでは基本的なトイレにアクセスできる人口の割合は、2000年の16%から2017年は約60%と大きく改善しています。これは、インド政府が2014年から、特に地方部でトイレの普及を推し進めていることが背景にあるとされます。

(注)WHO/UNICEF JMP (2019) Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000-2017. Special focus on inequalities.

それでも、まだ人口の約4分の1が基本的な衛生施設(トイレ)にアクセスすることができないなか、JICAはインドで、1,500個以上の公衆トイレの設置に貢献。さらに、下水処理の必要性や重要性について住民に認識してもらい、トイレを使用する習慣を社会で定着させるため、NGOを通じた公衆衛生キャンペーンや、学校での衛生教育などさまざまな取り組みを進めています。

また、下水道の整備が遅れている地域でもトイレを設置できるよう、日本の民間企業が手掛ける汚水を流さない環境配慮型トイレをインドに導入。日本の技術を活用し、インドでのトイレ普及を後押しています。

JICAインド事務所の赤嶺剣悟次長は、トイレ普及に向けた現状や課題について「トイレを作るだけでは十分でなく、女性やさまざまな住民のニーズに応え、安全性や維持管理の容易さに配慮することも大切です。また、トイレに関する一般の人々の意識向上を促進するため、下水処理事業を実施する際は、住民や学生への啓発活動を含めるようにしています」と述べます。

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出典:WHO/UNICEF JMP (2019) Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000-2017. Special focus on inequalities.

世界中でトイレ普及に向けた動きは進んでいるものの、サブサハラアフリカでは、依然として約70%の人々(2017年)が基本的な衛生施設(トイレ)にアクセスできない状況です。このようななか、JICAはモザンビークやセネガルなどでトイレ普及をサポートしています。

モザンビークの学校でのトイレ建設では、障害者や女子生徒もトイレに行きやすいよう設置場所を考慮し、手洗い施設も併設しました。安全で安定した水へのアクセスのしやすさにも配慮して、学校に井戸がない場合、トイレと同時に新規の井戸も建設しました。

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モザンビークの学校でトイレの使い方を学ぶ女の子(左)と新しいトイレの完成を喜ぶ男の子(右)
写真提供/日本テクノ(株)

しかし、現地に派遣された海外協力隊員からは「トイレの清掃が行き届いていない」「手洗い施設の蛇口が盗まれた」など、維持管理の難しさが指摘されています。

このように、トイレの普及はトイレの建設にとどまりません。生活にトイレを根付かせることや、整備されたトイレが適切に使用されるよう、維持管理体制を構築することが重要です。

トイレの使用が習慣化すれば、野外での排せつが原因となる下痢疾患が減少し、栄養不良の改善にもつながります。そのため今後、現地の人々と協力し、トイレの普及が栄養面にも関連するという点も含めて、啓発活動を進めていきます。

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出典:WHO/UNICEF JMP (2019) Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000-2017. Special focus on inequalities.