起業家の想いを実現するプロジェクトNINJA、いよいよ始動!:不破直伸専門家に聞きました

2021年1月6日

エチオピア北部の地方都市にあるメケレ大学で、起業に向けた研修をする不破専門家

「なぜやりたいのか、その情熱とやりきる力があれば、世界中のどこでも誰でも起業家になれます」

そう強く言い切るのは、JICAで起業家支援の取り組みを進める不破直伸専門家です。

途上国の国づくりを支えるため、ビジネスとして社会課題の解決を図り、質の高い雇用創出のきっかけとなる起業家の育成に向け、JICAは昨年、起業家支援のプラットフォームとなる「プロジェクトNINJA(NINJA = Next Innovation with Japan)」を立ち上げました。その一環として、アフリカ19ヵ国を対象に、ポストコロナに向けたビジネスプランコンテストを開催。今年2月26日には、厳しい審査を勝ち抜いた決勝大会が10社のプレゼンテーションを盛り込んでオンラインで行われます(※)。

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プロジェクトNINJA

途上国の課題解決に向けた一つの手段として、JICAが起業家支援に取り組むその意義を不破専門家に聞きました。

多数の応募、アフリカで起業への関心は高い

プロジェクトNINJAのロゴマーク。「NINJAというネーミングには、スピード感を持って起業家支援をしていきたいという願いも込めています」

この「NINJAビジネスプランコンテスト」への応募総数は2713社に上りました。「実は応募要項を厳しくして、応募数を押さえようと思ったのですが、予想を超え、応募者の熱意に驚きました」

審査を経て絞り込まれた10社のビジネスモデルは、どれも運輸、医療などアフリカの開発課題の解決に直結しています。「起業したばかりでこれからの可能性を感じる企業を選びました。今後、日本の企業とのマッチングも期待しています」

「NINJAプロジェクト」での起業家支援は、起業の啓発やアイデアをプロトタイプ(試作品)にするといった初期段階から、企業登記、今回のようなコンテストの実施などビジネスモデルの成長をサポート、さらに海外企業とのマッチングを図るなど、起業の段階に寄り添った包括的な取り組みで、JICAにとっても初めての試みです。

起業家と同じ視線で、常に学び合う気持ちを持つ

不破専門家はこれまで、エチオピアで中小企業の経営指導をしながら、現地の起業家の育成に取り組んできました。エチオピア国内15都市を対象に社会問題をビジネスとして解決することをテーマにした起業アイデアコンテストには合計で約2000人が参加。さらに、ビジネスを立ち上げたばかりの起業家たちには、マンツーマンで、ノウハウだけでなく心理的なサポートを行うなど丁寧に向き合います。

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エチオピアでの起業家アイデアコンテストに向けたイベントで。このコンテストの対象者は18~28歳の若者たち

「起業家支援と言いながらも起業家から学ぶことも多く、自分自身、成長させてもらっています」。現地の起業家自身が痛みを感じている課題だからこそ、その課題をよく知っているし、何とかしたい強い思いがあります。「起業家は自分が知らないアイデアをたくさん持っていて、それは場所によって、考え方もさまざま。こちらは支援の枠組みを提供し、プレゼンの方法といった実務を伝えますが、一方的に何かを教えるというのではなく、同じ目線で学び合うという気持ちです」

時には、起業家を自宅に招いて日本食をふるまい、また、起業家の家族に招かれることも。お互いに腹を割って想いを語り合うことで信頼が生まれます。大事にするのは「同じ目線」です。

現地で学び、課題を知る起業家を支えたい

支援する起業家のなかには、妊婦の子宮収縮を図る検査装置を開発する女子医学生たちがいます。「エチオピアの地方部では必要な検査装置がなく、亡くなる妊婦や赤ちゃんがいます。自分たちで開発した検査装置は、輸入品の4分の1以下の価格で提供でき、これなら地方部の診療所でも活用してもらえると彼女らは言います。そんな熱い思いを持った起業家の取り組みを応援していきたいです」

エチオピアにも海外留学を経験し、外資大手ベンチャーキャピタルと組む起業家もいますが、JICAが組むのは現地で学び、現地の課題解決を図る大衆的な起業家が中心です。

起業を促進するためには既存産業の底上げは不可欠。中小企業の経営指導と起業家の育成、その双方に取り組みながら「新しいアイデアが既存産業と起業家の間で競争を生み出し、相乗効果を生み出すようなwin winの関係が築けるいいですね。そのためにも、今、何が必要とされ、そのためにはどうしたらいいのか、現場をよく知り、現場で学ぶことを大切にしています」

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エチオピア西部の地方都市ガンベラでは、起業コンテストの説明を大学の敷地内で実施。学生らは熱心にメモを取っていました

JICAのさまざまな技術協力と起業家支援の連携を図る

不破専門家は、大学卒業後、日本で金融機関に勤務し、企業の資金調達などを担当しながら、プライベートではアプリ開発で起業にも関わってきました。妻のウガンダ転勤に主夫として同伴。現地のサッカー仲間との出会いから、JICAウガンダ事務所で職業訓練校の業務調整を手伝ったことがきっかけとなり、その後、日本でJICAの民間セクターの経済開発に携わり、2018年にエチオピアへ渡りました。

「アフリカは今、リープフロッグ(かえる跳び)現象といった言葉で象徴されるように、ITなど新しい技術で革命的な進歩を遂げるきらきらした一面がクローズアップされています。しかし一方で、地方に目を向けると、あふれる難民、改善しない治安や経済の停滞、失業率の悪化といった現実がまだまだあります。今後、人口が増え続けることが予測されるなか、国の底上げを図るには、雇用創出が大きな鍵。教育や保健分野での協力などとともに、低賃金な単純労働ではなく質の高い雇用を生み出すために起業を支援することは、途上国の課題を解決するための、一つの手段になると考えています」

エチオピアでは、中小企業の支援で派遣された青年海外協力隊員とも連携し、新たな起業アイデアコンテストを企画中に、コロナ禍で日本への帰国を余儀なくされました。

エチオピアで実施した起業ビジネスコンテストで、プレゼンテーションする参加者たち。ビジネスアイデアへ思いを熱心に発表

「AIを使って農作物の病気を診断するといったビジネスモデルを進める起業家もいます。例えば、JICAがエチオピアで実施しているコメなど農業分野での技術協力とこの起業家が連携すれば、また新しいビジネスモデルが生まれるかもしれません。起業家支援の分野に限りはありませんから、JICAのさまざまなセクターとの連携も模索したいです」

アフリカをはじめ、途上国での起業家への期待はますます高まっています。「人と人がつながって、そこから生まれるワクワク感が仕事を進める原動力です」。何とかしたいという起業家たちの熱い思いをサポートする日々はさらに続きます。

【画像】不破 直伸(ふわ なおのぶ)
大学卒業後、金融機関で企業の資金調達などを担当。並行して友人とアプリ開発で起業にも関わった経験のいずれも、「現在の起業家支援の現場でも役立っています」。2018年からはJICA専門家としてエチオピアで中小企業への経営指導や政府機関職員の能力向上などに携わると同時に、起業家支援に取り組んでいる。三重県出身。