“女性の視点に立った防災”が必要 : 藤原しおり(元ブルゾンちえみ)さんたちと考える

2021年4月8日

自然災害は世界中で、年齢や性別、宗教を問わず、すべての人々に突然襲いかかります。しかし、その被害状況に目を向けると、男性よりも女性のほうが被害に遭いやすいことが多くの調査からわかっています。災害時から復興、そして防災において、女性が被害を受けるリスクをなくしていくためには、まず、防災にジェンダー視点を取り入れることが必要です。

東日本大震災から10年という節目を迎えた3月、JICAは災害時のジェンダー視点をテーマに、西日本豪雨の際に被災地でのボランティアを経験した元ブルゾンちえみこと藤原しおりさんたちと初のTwitterライブを配信。番組は延べ60万回以上視聴されました(3月18日時点)。関連ツイートは3千件以上にのぼり、テーマへの関心の高さがうかがえました。

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トークライブで体験談を語る藤原しおり(元ブルゾンちえみ)さん

女性視点の不安の声にも耳を傾けて

「子どもがいる友人は『オムツなど衛生用品が買い占められるのでは』という不安がストレスになっていたようです」と、元ブルゾンちえみこと藤原しおりさんは話します。2018年の西日本豪雨の際、岡山県にある実家が浸水。被災地でのボランティア活動を通して、被災した地元の友人から、災害時に見過ごされがちな母親の立場からの不安の声を聞いたと言います。

国内外での災害取材経験が豊富なハフポスト日本版編集主幹の長野智子さんは、「東日本大震災の際は、避難所のリーダーが男性で、膀胱炎など女性がかかりやすい病気について相談できない」という女性の声を取材したことなど、さまざまな場面で女性が困難を感じていたことを紹介しました。

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東日本大震災で被災したイラストレーターのアベナオミさんによる「被災体験を基にしたイラスト」で女性視点の防災の必要性が紹介されました

左:田中由美子さん(城西国際大学教授・JICAジェンダー・アドバイザー)と右:長野智子さん(ハフポスト日本版編集主幹)

女性が被害に遭うのは避難所だけではありません。「阪神・淡路大震災の直後には、男性のストレスによる家庭内暴力が増加したり、街中が暗く、がれきばかりになったことで女性や少女が暴力・性犯罪に遭いやすくなったりということがありました。同じようなことは、東日本大震災の際にも起きており、言葉による暴力や、義援金を妻に渡さないという事例もあったと聞いています」とJICAジェンダー・アドバイザーの田中由美子さんは言います。

このように災害のたびに女性がつらい思いをすることがわかっていながらも状況が改善されない背景には、防災対策や災害復興に関わる担当者、特に意思決定者に女性が少ないことがあると考えられます。もし避難所のリーダーや復興に関わる委員会の男女比率が平等であれば、女性の声は今まで以上に吸い上げられやすくなるはずです。

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防災、復興ともに、リーダーになりうるメンバーの中に女性が少ないという、日本の現状がわかります

女性リーダーの増加で防災の意識が変化した国も

1991年にサイクロンが上陸したバングラデシュでは、約14万人の死亡者数のうち約9割が女性と子どもだったという報告があります。(JICA(2016)「災害リスク削減と女性の参画・エンパワメント—フィリピン及びスリランカの災害復興支援を事例として—」より)

田中さんは、このような数字になった要因として、女性の識字率が低くて避難情報などを伝えきれないこと、女性は泳いだり木に登ったりしてはいけないという慣習、一部のムスリム社会では、パルダ(男女隔離)という社会規範やさまざまな慣習により、男性が多い避難所には女性が入れないことなど、ジェンダーによる不都合な条件が重なったことにあると指摘します。

そして、「このような経験を経てバングラデシュの防災は大きく変わってきています。ジェンダーの視点に立った防災のガイドラインができ、地域の防災委員会の役員にも女性が入るようになりました。国連や国際NGOの支援により防災訓練も頻繁に行われ、その中で地域の防災リーダーとして女性が活躍しつつあります」と途上国における防災の意識が変化し始めた事例を述べました。

また、東日本大震災の際、東松島市職員として復興事業に尽力した、宮城県議会議員の高橋宗也さんは、2013年に、巨大台風で大きな被害を受けたフィリピンの復興に向け、JICAの支援プロジェクトの調査団として現地を訪れた時の印象を次のように語りました。

東松島市での取り組みを語る高橋宗也・宮城県議会議員

「フィリピンでは、避難所の運営側に女性が必ず入っていました。地方へ行くと活躍しているのは女性の方が多かったのではないでしょうか。管理職や政府関係者にも女性が多く、男女参画という点では、日本がフィリピンに一歩遅れを取っていると感じました。一方で、被災地の治安については日本の方が圧倒的に維持できていました」

東松島市とフィリピンの防災と復興を通じた交流はその後も続きます。東松島市が復興支援協力でフィリピンからの研修員を受け入れた際、メンバーの女性比率が高く、活発な意見交換が交わされ、その様子に刺激を受けたと高橋さんは述べました。

仙台市では女性の防災リーダーが200人以上誕生  

現在、日本の防災、復興におけるジェンダー視点に立った取り組みも変わりつつあります。高橋さんは、「宮城県内の女性消防団員数は増加傾向であるほか、仙台市内では女性を対象とした防災リーダー養成講座が行われ、200人以上の女性防災リーダーが誕生しています。さらに日本での状況を変えていくためには、より多くの人が普段からジェンダーや防災への意識を変えていく必要があります」と語りました。そして、「自分が助かることは、自分が周りの人を助けることになる。明日地震が来たら、今日来たら、と思って備えてほしい」とその言葉に力を込めます。

「行政や国任せにしない。自分は何ができるのか、考えないと」「女性の一人暮らしなので、災害時の不安は大きいです。日頃からのご近所づきあいが大切だと感じています」「身を守るための準備だけが防災ではなく、ジェンダーギャップの課題について考え行動することも防災につながるんだと勉強になりました」

番組終了後のTwitter には、このように多くの投稿が寄せられました。いつ起こるかわからない災害時に、誰もが取り残されないようにするため、防災の取り組みにどんな視点が必要なのか、視聴者誰もが考えるきっかけになりました。

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番組のアーカイブ映像は、ハフポストLIVEのYouTubeから視聴できます