【第9回 太平洋・島サミット(PALM9)開催】サモアから、ごみ処理プロジェクトの“今”を三村悟JICA専門家がレポート!

2021年6月21日

大洋州に点在する国々のごみ処理問題の解決に向けて、JICAの協力がスタートしたのは2000年にさかのぼります。当時、ごみの収集や最終処分が適切にできない状況に陥っていたサモアで、その改善に向けた協力を開始したのが始まりです。その後、この取り組みは、大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクト(J-PRISM※)」に発展し、現在も続いています。

2000年当時、JICAサモア事務所職員でこのプロジェクトの立ち上げから携わってきたのが、今年5月、廃棄物管理分野のJICA専門家として、再度サモアに赴任した三村悟さん。大洋州島嶼国へのサポートを続けてきた三村専門家が、現地からプロジェクトの今を伝えます。

※J-PRISM …Japanese Technical Cooperation Project for Promotion of Regional Initiative on Solid Waste Management

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サモアに再赴任後にタファイガタ処分場を訪れた三村専門家(左)と天然資源環境省処分場担当官のフアラガ・ペミタさん。写真奥の緑に見える場所もかつてごみ処分場でしたが、ごみ分解を促進する「福岡方式」を取り入れたことで、現在は植物が生育しています
(福岡方式とは、福岡大学と福岡市によって開発された埋立方式で、途上国で入手可能な材料や手法を用いて浸出水排水管やガス抜き管を設置でき、低コストで簡易な改善技術。浸出水の速やかな排除、メタンガス排出量の削減など、環境汚染、温暖化への対策としても活用可能な日本の技術)

島の将来を担う人材育成に注力

「ごみは毎日出るものですから、適切な処理を将来にわたり継続していく必要があります。そのため、このプロジェクトでは『島に住み続ける人の手により行える持続可能なごみ処理』を目指し人材育成に注力しました。うれしいことに、共に取り組みを進めてきた現地の人がサモア環境省の幹部になったり、プロジェクトで育った人材が大洋州の国々で行政の中心的なポジションに就いたりという知らせが届いています」

三村専門家はこれまでの歩みを語ります。

左からJ-PRISMII吉田綾子専門家、エスターSPREP副総裁、三村専門家

プロジェクトの拠点となるサモアにある国際機関「太平洋地域環境計画事務局(SPREP)」のエスター・チュシン副総裁もその一人です。「JICA専門家による現場での実践的な指導と日本での技術研修は、日本の技術協力の優れた点です。サモアだけでなく、太平洋地域の廃棄物行政を担う多くの人材が育成されました」と振り返ります。

また、サモアでは、政府、国際機関のほかにも地域の村社会、NGO、民間企業など多種多様な人々がプロジェクトに関わっているのが特徴で、課題に対する多角的なアプローチが実現したと三村専門家は述べます。

「なかでも力を発揮してくれているのが、2018年に設立された『サモア・リサイクル協会』です。協会として発足する以前から、メンバーはリサイクルに関する活動を行っていたのですが、現在はより精力的に、学校での環境教育やスーパーマーケットでのペットボトルの回収活動、街のクリーンアップ活動を実施しています。そんな細やかな活動が、島の人々の意識を変え、ポイ捨ての減少やごみ分別の協力につながってきていると感じています」

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サモア・リサイクル協会の活動。(左)聴覚障害者へのリサイクル作業の研修。作業を通じて社会参加のトレーニングと、報酬も得ることにより彼らの自立を支援しています。(右)街でのクリーンナップキャンペーン

同協会のマリナ・カイル会長も「かつて島の人にとってリサイクルは“アルミなどごく一部の有価物をお金のために分別し集めるもの”でした。しかし現在は、 リサイクルは“環境への配慮”と、認識が変化しました」と言います。

意識の変化は、島民の日々の生活にも如実に表れています。サモアでは2018年に、法律でポリ袋の配布、プラスチックストロー、プラスチック製の使い捨て弁当箱が禁止されました。当初、島の人々にも抵抗がありましたが、今では「使い捨てのプラスチック製品は極力使わない」という行動が当たり前となり、「市場では、袋を持たずに商品を手で持ち帰る人をよく見かけるんですよ」と三村専門家は笑顔で話します。

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(左)「Plastic Ban(プラスチック禁止)」と書かれたラッピングバスは、サモアでの廃棄物戦略を開始した際、啓発に向けサモア天然資源環境省が運行
(右)「魚市場の近くで、カツオの尾を握って持ち帰る人を見かけました」と三村専門家

島の近代化と自然災害の頻発によるごみ問題の変化

サモアの学校では環境教育が重視されています

大洋州でのごみ問題の解決をサポートしてきたこのプロジェクトは現在、軸足を『ごみの管理・処理方法の改善』から『ごみを減らす取り組み』へと移し、大洋州の9カ国で3R(リデュース、リユース、リサイクル)、リターン(資源ごみの輸出)を中心とした取り組みを進めています。その背景には人々の「生活の近代化」があると三村専門家は述べます。

「サモアの人たちは元々自給自足をしていて、ごみを出すような生活様式ではありませんでした。例えば、島で採れるヤシの実は食料、飼料、燃料として利用されごみが出ません。しかし、近年の食品輸入によりごみの量と質に変化が生じ、処分が追いつかなくなり、ごみは野原に山積みに。衛生面、環境面に深刻な影響が現れ始めました」

さらに家電製品や自動車が輸入され、新たなごみが出るようになります。気候変動による自然災害が頻発し、倒木や家屋倒壊による家具、家電といった災害ごみも年々増えるなか、いかにごみを減らすが、大きな課題となっているのです。

日本にとって大洋州島嶼国は南隣の国々、学び合い協力し合うことが必要

プロジェクトでは今、各国の課題に応じた取り組みと、大洋州地域全体の災害ごみ管理ガイドラインの作成を並行して進めています。一方で「課題は山積している」と三村専門家は話します。

「まずは、財源の確保です。大洋州の国々では、廃棄物に関する課題は優先順位が低く、予算が十分とはいえません。そのため、容器の回収を促すデポジット制度や、ごみ処理自体を有料化するといった制度の導入を検討しています。さらに、人材の定着。人材育成が成果を出す一方で、近隣国への転職による人の流出が悩みの種です。粘り強い人材育成が求められます」

また、これまで「ごみを減らす取り組み」の一つとして行ってきたリターンも困難に。輸出先国による輸入制限、関連条約の改定などが理由です。「今後は、島でのリサイクルを模索したい」と三村専門家は続けます。

天然資源環境省のセウマロ・アフェレ・ファーイラギ環境保全局長は、「リサイクルに向けた収集の改善では、GIS(地理情報システム)を利用することで行政府の人員が少ないサモアでも効果的なモニタリングが可能となった。さらに気候変動により頻発する自然災害への対応のため、災害廃棄物管理の取り組みが進むなど、JICAは常に新しい課題やニーズへの取り組みを支援してくれている。マイクロ・プラスチックなど新たな課題への対応を迫られるなか、今後も信頼できるパートナーとしてJICAに期待をしている」と述べます。

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(左)サモアの天然資源環境省スタッフに収集モニタリング手法の指導するJICA専門家(右から2番目)

大洋州島嶼国の抱えるさまざまな課題を日本と各国の首脳が議論する「第9回 太平洋・島サミット(PALM9)」が、来月7月2日にテレビ会議方式で開催されます。三村専門家は、サミットに向けた有識者会合に出席し、大洋州島嶼国と日本の今後のかかわりについて「日本にとって、大洋州島嶼国は南隣の国々です。互いの生活が、互いに影響を与え合うことを忘れずに、学び合い協力し合うことが必要です」と提言しました。

そして、今後に向けて次のように言います。

「これまでの20年以上の取り組みには、専門家やJICAボランティアをはじめ、研修事業に関わった方々など、のべ500人以上の日本人関係者にご協力をいただいてきました。これまでの皆さんの努力に敬意を表し、その思いを引き継いで、大洋州の人々と手を携えていきます」

サモアを拠点に、三村専門家の取り組みはこれからが正念場です。