マラウイの水を守る:水源林から家庭まで、持続的に水を届ける仕組みを整備する

2021年7月15日

アフリカ大陸南東部に位置するマラウイで、水資源を守りながら、人々に安全な水を届ける仕組みづくりが始まっています。

首都リロングウェでは、都市化に伴う人口増で水需要が供給量を大きく上回り、さらに配水管の老朽化による漏水なども課題となっています。また、首都圏の水源となるザラニヤマ森林保護区では、薪炭生産のための違法伐採などにより深刻な森林減少・劣化が進行しています。JICAは、都市部での水道事業とともに、水源林(注)の環境保全に向けたサポートを行い、水源から家庭の蛇口まで、マラウイで水を守る取り組みを進めています。

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リロングウェ市浄水場施設で小学生たちに水道の仕組みを説明する板谷秀史JICA専門家(左端)。マラウイで水を守る取り組みが進んでいます

(注)水源林とは、森林の水源かん養機能(土壌がゆっくりと保水する機能)に着目して整備される森林(林野庁HP「水源の森をつくり育てる」)

日本で積み上げてきた知見を活かし水道事業をサポート

「無収水とは、配水管からの漏水や盗水により料金徴収ができない水道水のことです。現在、リロングウェの浄水場で作られる水の約40%が漏水や盗水で料金徴収ができていません」と話すのは、リロングウェ水道公社(LWB)で無収水対策の能力強化に取り組む板谷秀史専門家です。横浜市水道局で約20年、水道事業に従事するエキスパートです。

2019年6月にマラウイに赴任した板谷専門家は、リロングウェ市無収水対策能力強化プロジェクトのチーフアドバイザーとして、無収水削減のための計画策定をはじめ、地下漏水探知機の導入や配水管の整備などをリロングウェ水道公社(LWB)の職員らと進めています。新型コロナの影響で2020年3月に一時帰国を余儀なくされましたが、2021年5月に再赴任して現地での協力活動を再開しました。

「無収水は、率が低いほど水道事業の経営状態が良いとされ、LWBも2025年に無収水率を28%まで下げることを目標に掲げています。現在の横浜市の無収水率は7~8%ですが、今から70~80年前の横浜市の無収水率は現在のリロングウェ市と同じような状況でした。日本の自治体は、数十年をかけて無収水率を低減させてきたのです。日本の地方自治体が積み上げてきた知見は、途上国での技術指導や提言の裏付けになると実感しています」と言葉に力を込めます。

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水道メータの設置作業(左)や無収水削減計画の改訂(右)など、日本の水道事業のノウハウをいかしてLWBの能力向上に協力しています

水道事業と水源林保全が連携する意義 

持続的に水を届ける仕組みづくりは、配水管の設置や漏水・盗水対策といった都市部での水道事業にとどまりません。リロングウェ市の水は、ほぼザラニヤマ水源林からきています。つまり、安定した水量を確保するためにはザラニヤマ水源林を保全することが必要です。

しかし、水源林であるザラニヤマ森林保護区では、薪炭生産のための違法伐採などにより森林減少・劣化が進んでいます。JICAは、この森林保護区の持続的な保全管理体制の確立にも取り組むなか、森林保全(水源地)と水道事業(都市部)といった両面から、住民へ安全に水を届けることができるようサポートを進めています。

板谷専門家は「水源林で作られた水が浄水場などを経由して生活水になっていることや、水という資源には限りがあることを住民に伝える活動が大切です。水道事業に関するいろいろな施設を紹介しながら“水の循環”を説明することで、自分たちが使う水のために環境を保全する大切さを伝えることは極めて重要な取り組みだと考えています」と、水道と環境保全が相互に連携する意義について話します。

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水源林がある地域では植樹祭が開催され、地元の小学生が植栽を体験

住民の水への意識を聴き、行動を見直す啓発活動 

利用者家庭を訪問して水道利用の啓発対話をする吉永さん(背中)

水の大切さを住民に伝えるため、大きな役割を果たしていたのが、2018年1月から2020年3月までの約1年9カ月間、JICA海外協力隊員としてマラウイで活動していた吉永沙季さんです。静岡県庁で森林・林業部署に勤務していた吉永さんは、治山事業に携わるほか、森づくりのボランティア団体とともに森林を守る大切さを伝えるイベントを開催するなどの業務経験があります。そのノウハウを活かし、マラウイでもザラニヤマ森林保護区の水源保全活動に取り組むほか、市内の小学校で水の大切さを伝える環境教育を実施しました。

さらに、「水道利用者の家庭を直接訪問して節水の普及啓発を行っていました」と話す吉永さん。板谷専門家らが導入した漏水探知機を使い、各家庭の敷地内にある漏水を発見して対策することはできないかという調査活動を検討中だった矢先に、新型コロナの影響で、今年3月、後ろ髪をひかれる思いで帰国しましたと振り返ります。

そんな吉永さんらの活動について、板谷専門家は、「エリアごとの使用状況や、住民目線の話を吉永さんから聞くことで、水道公社内の情報だけでは見えにくいリロングウェ市の水道の状況を全体的に把握して活動することができました」と、専門家と隊員で立場やアプローチは異なるものの、同じ目標に向かって進むための情報共有が役立ったと語ります。

また、環境教育の一環として、吉永さんたちが企画した小学生のための水資源の重要ポイント視察ツアー(水源林、ダム、浄水場など)では、板谷専門家をはじめとする関係者が協力して解説を担当。現場で専門家の解説を聞くことで、「家庭の水が水源林からきていることや、違法伐採により減少・劣化が進んでいる水源林を守らないと自分たちの水が危ないこと。上流の水源林保全から下流の家庭内まで、住人みんなで水を大切にするということを子どもたちに伝えることができました」と吉永さんは話します。

日本の知見を活かした水道事業の整備、環境保全、草の根レベルの隊員の活動がともに協力しあうことで、水源林から家庭まで「水資源全体を守る協力活動」がマラウイで実現しつつあります。

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水源林ツアーで子どもたちに説明する吉永さん(右中央)。環境教育は市内の5校で行われ、先生や保護者からも「継続していってほしい」との声があがっていました