日本が選ばれる国になるために。外国人との共生社会のあり方

2022年7月11日

日本がさらなる経済成長を達成するため、2040年には2020年比で約4倍の外国人労働者が必要——。JICAは今年、そんな試算結果を盛り込んだ研究報告書を発表しました。少子高齢化が進み、労働力不足が深刻化するなか、外国人と共生する社会の実現に向けてJICAは今後、どんな取り組みができるのか。7月11日の世界人口デーを機に、この研究報告書のページをたどります。

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2040年、日本の外国人労働者数は需要に対して42万人不足する

JICA 緒方貞子平和開発研究所が3月に発表した「2030/40 年の外国人との共生社会の実現に向けた取り組み調査・研究報告書」には、主に2つの研究結果が示されています。

ひとつは、将来の外国人受け入れに関するシミュレーションです。日本と、外国人労働者を送り出す国の人口動態と産業構造の変化、労働市場を予測して、2030年と2040年時点の日本における外国人の受け入れ人数などを試算しました。もうひとつは、日本国内における外国人を取り巻く現状と受け入れ人数の予測結果を踏まえ、将来の地方での産業や社会の変化に沿った外国人との共生のあり方についての調査・分析です。

これらの研究結果から、2040年の日本において、「外国人労働者は需要に対して42万人不足する」「9都県において、生産年齢人口に占める外国人労働者の割合が10%を超える」といった数字が浮かび上がりました。

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研究報告書より、外国人の労働者の需給ギャップ。来日外国人労働者数を、送り出し国の将来の人口動態と経済水準、過去の入国者数のトレンドを考慮して推計。2040年、需要量674万人に対し外国人労働者数の供給ポテンシャルは632万人で、42万人が不足すると予測される

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研究報告書より、2040年の外国人労働者数(対生産年齢人口比率)。2030年時点で10%を超えるのは東京のみだが、2040年には東京に加え東海地方などの9都県で10%を超えるとされる。産業における外国人労働者に対する需要は、製造業、卸売業・小売業、建設業の順に高い

これまで、国内の労働需要や国際的な労働力に関する個別の分析はあったものの、このような包括的で具体的な数字を示した調査・研究は初めてとされます。

「さまざまな数字が記載されていますが、この報告書で一番伝えたいことは、これをきっかけに外国人受け入れに関して具体的な数字をもとに議論を始めましょう、ということです」。JICA緒方貞子平和開発研究所の藤家斉上席研究員は、研究報告書の意義について、そのように話します。

外国人労働者の受け入れについては、多様な意見があります。「日本人だけでも成長を達成することができるのではないか」といった声も聞こえてきます。しかし、この研究結果は、日本の女性や高齢者の社会進出も考慮した上で、生産年齢人口が減少し続ける日本が国として成長していくには、日本人と外国人が共に社会を創っていくことが不可欠であるということを、目に見えるデータで示しています。

「本当は、『外国人』という言葉を研究報告書では使いたくありませんでした」と藤家上席研究員は語ります。「日本人と明確に区別することになるからです。外国人は相対する存在ではなく、共に社会を創っていく存在、ということを認識する必要があるのです」

外国人と日本人住民の橋渡しを行うキーパーソンの育成が重要

研究報告書には、外国人労働者を受け入れる自治体の支援体制が十分確立されていないなどの課題も示されています。これらの課題の解決アプローチとして、多文化共生社会を支える外国人、日本人双方の「キーパーソンの育成」が挙げられます。

外国人労働者の長期定住者の多い群馬県大泉町の取り組みは特徴的な事例です。外国人住民と日本人住民との橋渡しを行う「文化の通訳」や外国人ボランティアチームがキーパーソンとなり、情報の伝達やさまざまな支援を効果的に進めることをサポートします。そして今後、外国人住民が支援される側から、積極的にその地域社会に参画し、地域の担い手をなることも期待されます。

JICAは昨年12月、群馬県と包括連携協定を締結し、多文化共生・共創など新たな分野での連携に取り組んでいきます。

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群馬県大泉町の取り組み。(左)和食の基礎といった日本文化や、暮らしのマナーなどを母国語で正しく伝える「文化の通訳」の活動(右)炊き出し訓練をする外国人ボランティアチーム。災害時などに外国人コミュニティのリーダーとなることが期待される

現在、日本で働く外国人労働者の半数は途上国から来ています。途上国の現場での活動を終え帰国したJICA海外協力隊員は、日本での外国人との共生社会実現に向けたサポート役として適任です。

藤家上席研究員は、「これからは、国内だけでなく外国人材の送り出し国においての職業訓練、送り出し機関や政府関係者の人材育成も必要です。これはJICAがこれまで途上国でやってきた得意技。日本が選ばれる国になるための取り組みにおいて、JICAができることはたくさんあると思います」と力強く語ります。

JICA緒方貞子平和開発研究所は、外国人との共生社会の実現に向け、今回の調査・研究報告書に続き、今後、アジア各国の労働力がどの国に移動しているのか、労働移動の要因などについての研究も行う予定です。