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食料危機問題: 西アフリカの現状から考える、これからの支援と協力のあり方——津村康博・国連WFP ガンビア事務所⾧×天目石慎二郎・JICA 経済開発部次⾧

2022年9月15日

異常気象、新型コロナウイルス、ウクライナ侵攻。地球規模の大問題が立て続けに起きている今、世界で飢餓人口が急増しています。なかでも深刻な食料危機に直面しているのが西アフリカです。さまざまな要因で深刻さを増す、西アフリカの食料危機の現状とは。そして問題の解決に向け、これから取り組むべきこととは。アフリカで長年食料支援活動を続けている国連世界食糧計画(WFP)ガンビア事務所長の津村康博さんと、JICAで農業・農村開発を担当する経済開発部次長の天目石慎二郎さんが意見を交わします。日本にも食料価格高騰の影響が及んでいます。食料危機は、決して遠い国の話ではないのです。

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飢餓人口は過去最悪のレベルで増加している

——新型コロナウイルスの蔓延に加え、ロシアによるウクライナ侵攻が続いています。この影響を受け、世界中で深刻な食料危機に直面し、飢餓に苦しむ人々が増加しています。現在の状況をどのように受け止めていらっしゃいますか?


国連WFPガンビア事務所長、津村康博さん(以下、津村さん):国連WFPの発表によると、生命や生活に差し迫った危険を及ぼし、緊急の支援が必要とされる深刻な飢餓(急性食料不安)に苦しむ人々の数は、2022年、世界82カ国で3億4500万人に達します。新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年と比べて、約2億人の増加です。この増加率はかつてない最悪の数字です。まず、コロナ禍の移動制限や国境封鎖により物流が大きな打撃を受けた影響が大きかった。そしてようやくコロナが少し収まったかと思ったときに、ロシアによるウクライナ侵攻です。食料の供給事情は悪化し続けており、世界中を巻き込む食料危機の状況が長く続くのではないかと懸念しています。

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津村康博(つむら・やすひろ):国連WFPガンビア事務所長。民間企業・団体を経て、1998年より国連世界食糧計画に勤務。ローマ本部で政策調整や給食事業、日本事務所で対政府連携を担当するほか、コソボ、ケニア、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、在セネガル西アフリカ地域統括事務所、モーリタニア、シエラレオネ、そして現在はガンビアで、食料支援に取り組む。本対談にはガンビアからオンラインで参加

 

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国連WFPより

JICA経済開発部次長、天目石慎二郎さん(以下、天目石さん):私たちも大変厳しい状況だと重く受け止めています。JICAは発展途上国の持続的な開発に向け、飢餓の撲滅や農業開発、栄養改善といった分野での取り組みを長年進めてきました。2000年頃から低栄養人口の割合は徐々に低下してきましたが、残念ながら2014年頃から、経済情勢や異常気象、政情不安などによって、特にアフリカを中心にその割合が上昇に転じました。そこに新型コロナウイルスの感染拡大が大きな打撃を加えました。さらに、国連WFPでも指摘されているように、昨年の飢餓の要因に紛争が挙げられます。アフリカは複合的なリスクに直面し、難しい状況だと認識しています。

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天目石慎二郎(あまめいし・しんじろう):JICA経済開発部(農業・農村開発第二グループ)次長。1994年JICA入構。ラオス専門家、FAOアジア太平洋地域事務所(長期研修)、JICAタンザニア事務所を経て、2016年~2020年はJICAケニア事務所で農業関連事業などを担当。現在は、主にアフリカ及び中東欧州地域の農業開発に携わる

——世界でも特に食料危機が深刻な問題となっている西アフリカの現状やその要因について、教えて下さい


津村さん:西アフリカでは、気候変動で天候不順が悪化しており、干ばつや洪水が頻発し、食料の確保が難しくなっています。慢性的な貧困がある上にガバナンスが脆弱な国が多いため、食料価格が上がるとすぐにデモが発生し、政情不安を引き起こします。軍事クーデター(未遂も含め)も数か国で発生しています。また、気候変動による天候不順で水や牧草などの自然資源が少なくなると、争いが起こり、住んでいる場所を追われ、移民が不安定要因になると、また別の場所で紛争が起こります。天候不順や、不安定な経済や政情不安、紛争といったさまざまな要因はつながっており、食料危機もそこに大きく関係しているのです。ちなみにガンビアでは現在、過去35年で一番の豪雨により洪水が各地で起こっており、被災者に緊急食料支援を行っています。

また、西アフリカは農業生産に必要な肥料の多くをロシアやウクライナからの輸入に依存しています。今年は必要量の4割を確保できておらず、次の収穫量がさらに大きく下がる恐れがあります。

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西アフリカ・モーリタニア。干ばつで干からびた家畜の死骸の傍らに立つ津村さん

 

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コロナ禍の貧困対策として、津村さん(中央)はガンビアの政府関係者と緊急食料支援について協議した

ケニア駐在中、北部トゥルカナ郡の乾燥地に設置された井戸を視察する天目石さん(中央奥)

天目石さん:まさにアフリカがさまざまなショックに弱いことが、この深刻な食料危機を招いているのだと思います。私が3年半ほどケニアにいた時、毎年のように干ばつや豪雨といった異常気象に直面しましたが、十分な策は講じられていませんでした。アフリカの国々がショックに対応できる能力を身につけていくことができるかが、今後、問われていくと考えます。

ショックへの対応能力向上に向けた、中長期的な取り組みが不可欠

——さまざまな要因が絡み合う西アフリカでの未曽有の食料危機に対処するため、今後、どのような取り組みが必要なのでしょうか?


津村さん:これまで国連WFPの職員としてアフリカで14年間、そのうち西アフリカでは、セネガル、モーリタニア、シエラレオネ、そしてガンビアで支援活動に携わってきました。国連WFPは、紛争や自然災害などの被災者に向け、食料の配布や食料を購入するための現金の支給といった緊急時の支援をしています。同時に、災害などに対応できる能力を高め、強靭な国づくりに向けた自立開発支援も担っています。特に西アフリカは、さまざまなショックに弱い国が多く、中長期的な開発支援が不可欠です。

ガンビアでは現在、地産地消の学校給食の普及プログラムを進めています。地元の小規模農家から購入した食材で学校給食を作る取り組みです。子どもたちの栄養改善を図ると共に、自立した地域社会をつくることで貧困の悪循環を断つことを目指します。また、シエラレオネではJICAと連携し、稲作やかんがい設備の技術の普及を進めてきました。

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ガンビアの小学校で給食を食べる子どもたち

天目石さん: JICAはアフリカで、生産者が「儲かる」農業を目指すSHEP(市場志向型農業振興)アプローチや稲作振興のための共同体(CARD)を推進しています。農業分野では長期的な視野から農家の能力開発を通じて対応能力を高められるように協力に取り組んでいます。国連WFPは緊急人道支援とともに開発支援にも携わっており、ぜひ互いの強みを生かし、脆弱な国々の強靭性を高めていければと思っています。

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JICAが進めるSHEP(市場志向型農業振興)アプローチを実践し、市場で売れる野菜を栽培するケニアの農家

津村さん:食料危機の問題が複雑となっているなか、さまざまな組織とお互いに補完し合いながら取り組んでいくことが重要です。なかでも、学校現場では、地産地消型の給食をはじめ、保健、栄養、教育など、さまざまな分野での取り組みがあります。ぜひ他の機関とも連携していきたいです。

アフリカの農業を、魅力あるビジネスに変える

——将来また起こりうる食料危機に備え、今後必要な支援の方向性について教えて下さい


津村さん:食料の安全保障を包括的にみる必要があります。生産、収穫、加工、流通、販売、消費をフードシステムとしてとらえ、そこに関わる官民すべてのアクターを巻き込み、支援に取り組むことが大切。食料の備蓄体制の整備も課題です。

西アフリカのなかでも特にガンビアでは、農業が儲からないという理由から、農村から都市部への若者の人口流出が続いています。もし、農業が儲かり、魅力があるビジネスであれば、やりたいという人は多いのです。フードシステムのなかで、単に食べるためではなく、ビジネスにつながるプロジェクトをつくっていきたい。従来の貧困支援にはもう限界があると感じています。民間セクターとの連携も実現させたいです。

天目石さん:国家から個人レベルまで、食料・農業セクターの強化が不可欠です。2003年にアフリカ連合(AU)は国家予算の10%を農業や農村開発に充てるよう宣言しました。しかし、その後、開発課題の多様化もあり、多くの国々で達成されていません。食料の確保は、人間が尊厳を持って生きていくために必要です。アフリカ各国と開発援助機関は今回の食料危機を教訓に、再度、農業セクターに目を向けるべきだと考えます。そして、小規模農家などに対する現場レベルの取り組みを強化していくことが必要です。

力のない国にしわ寄せがいく現実に、問題意識を持つ

——日本でも食料価格が上昇するなど、コロナ禍やウクライナ侵攻によって引き起こされた食料危機は、遠い国の話ではありません。現在、世界が直面する食料危機を誰もが自分事として認識する必要性について、どのようにお考えでしょうか?

天目石さん:世界全体の食料の生産量は増え続けるなか、なぜ一部の地域で食料危機が起こるのか。それは、力のある、ショックへの対応能力がある国は食料を確保できる一方で、力のないショックに弱い国にしわ寄せがいくからです。日本でも食品価格が上がりつつありますが、世界には食料へのアクセス自体が脅かされている国々、人々が増えています。食料危機に注目が集まっている今こそ、私たちはまずはこの現実に対する問題意識を持たなければいけません。

津村さん:コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻で、誰もが世界的な問題を身近に感じたのではないでしょうか。日本にいてもアフリカにいても、同じ問題に直面し、相互に依存している。そのことを、まずはしっかりと認識し、理解して、それぞれがアクションを起こす気持ちになってくれれば。SDGs目標2である「飢餓をゼロに」に向け、目標である2030年には間に合わないかもしれませんが、少しでもゴールに近づけていきたい。これからも西アフリカから、現場の声を発信していきます。

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