過去最高の水準で検定を突破!国際緊急援助隊・救助チームのあくなき挑戦

2022年12月7日

地震や台風などの自然災害が多発する日本。その救援経験や豊富なノウハウを生かし、主に途上国での災害救援を担っているのが、国際緊急援助隊(Japan Disaster Relief Team、以下JDR)です。11月8日から11日にかけ、JDRの救助チーム75名がその技術や能力を試す国際的な評価検定に挑み、最高レベルの評価「ヘビー(重)」に再認定されました。災害の現場で目の前の命を救うため、どのような訓練を重ねてきたのでしょうか——JDRの一員であり、他国の検定評価員も務めるJICA国際協力専門員の勝部司さんに聞きました。

【画像】

災害大国日本、その経験を途上国で生かす

世界各地で大規模な自然災害が相次ぐ中、特に経済・社会基盤がぜい弱な開発途上国では、発災時に十分な救援活動を行えず、多くの命が犠牲になっています。自然災害の多い日本は、これまで蓄積してきた豊富な救助経験と技術的なノウハウを途上国でも生かそうと、1979年から政府ベースの国際緊急援助活動を開始。1987年にはJDRが発足し、被災者の捜索・救助、医療、専門性を生かした協議・助言など、160回以上の派遣を行ってきました。

「災害大国日本から派遣する支援では、技術的な面だけでなく、相手に寄り添うという感覚を大事にしています」と話す勝部さん。これまでに国連災害評価調整(UNDAC)チームやJDRの隊員として、2013年のフィリピン・レイテ島の台風被害、2015年のバヌアツサイクロンやネパール地震、2017年のメキシコ中部地震など、数々の被災現場を経験してきました。「被災者は弱者と思われがちですが、実は被災者こそが、今何が最も必要かを知っているものです。ですから、支援者はその活動を向上させつつも、被災者の求めに耳を傾け、いかに助力できるかというマインドで臨む必要があります。この感覚は自らが被災者となった経験があるからこそ、真に理解できるのです」。

【画像】

JICA国際協力専門員の勝部司さん

JICAが事務局を務めるJDRは、救助チーム、医療チーム、感染症対策チーム、専門家チーム、自衛隊部隊から成り、このうち救助チームは、外務省、警察庁、消防庁、海上保安庁、JICAに登録している医療班、構造評価専門家、業務調整員など、多様な分野の第一人者で構成され、世界トップレベルの能力を有しています。

【画像】

国際派遣に欠かせない「INSARAG」の認定

今回救助チームが受検したのは、国際捜索救助チームのネットワーク「INSARAG(International Search and Rescue Advisory Group)」が行う「IER(INSARAG External Reclassification)」という検定試験。INSARAGは、1988年のアルメニア地震の際、各国から派遣された救助チームの調整不足により被災国に負担をかけた反省から、1991年に設立され、世界共通のルールづくりを通じて、効率的な国際捜索救助活動を目指しています。

INSARAGの認定制度では、各国の国際捜索救助チームの能力を、高い順に「ヘビー(重)」「ミディアム(中)」「ライト(軽)」に分類します。検定試験ではチームの能力が170以上のチェック項目で評価され、グリーン、イエロー、レッドの3段階評価のうち、ひとつでもレッド判定があると不合格という厳しいもの。「他方でヘビーの認定を受けると、迅速な派遣、自己完結型の活動、高度で安全な救助、被災国政府との調整ができるなど、高い能力を有するチームとして認められたことになります」(勝部さん)。

【画像】

JDR救助チームの海外派遣回数は過去20回に上る(写真は2017年メキシコ中部地震での活動)

2005年に検定試験が開始されてから今年10月までに、世界60を超えるチームが受検。日本チームは2010年に初めて臨んだ「IEC(INSARAG External Classification)」で「ヘビー」を取得、その後2015年に再びヘビー級に認定され、今回は新型コロナの影響で7年ぶりに2度目の更新検定に挑みました。

「IEC/IERはJDR救助チームの技術力を確認する場であると同時に、国際捜索救助活動を円滑に実施でき、信頼に足るチームかを見定めようと、各国チームが注目する場。我々としては絶対に落としてはならない試験です」。自身も評価員として多くのチームの検定に関わってきた勝部さんはそう強調します。

「イエロー」から「グリーン」へ 重ねた訓練の賜物

今回の検定は、仮想トリニア国で地震が発生、被災国の空港到着から30時間以内に6つの被災サイトで捜索・救助を行うという設定で行われました。倒壊しかけた建物やガレキなど被災地の状況がリアルに再現され、2つの部隊が要救助者の捜索や救助にあたります。例えば、サイト6の「ブルーバードパーク」と呼ばれる広場では、建物倒壊時に公園の作業員や親子が巻き込まれた状況を聞き取り、救助犬や地中音響探査機などの機材も使いながら倒壊した建物に進入、要救助者の捜索・特定とともに救出ができるか、救助犬が負傷するという不測の事態にも迅速に対応できるかが問われました。

【画像】

サイト6に再現された地震被災地の様子

【画像】

広場の施設が倒壊し、ガレキ内に閉じ込められた要救助者を救い出すという想定

前回の検定で「イエロー判定」を受けたのは、わずか4項目。JDRの救助チームは、さらなる改善に力点をおき、実践的な訓練を重ねてきました。「特に注力したのが、安全管理の徹底です。国内とは異なる環境の中、救助現場はもちろんのこと、宿営地や移動中の安全も確保できるよう、隊員の動きを把握するシステムを刷新し、担当者も増員しました」と勝部さんは振り返ります。

捜索・救助の現場を支える後方支援も重要なポイントです。救助チームに所属するJICAの業務調整員たちによって、今回は救助隊の宿営地となるキャンプの水・衛生面が大きく改善されました。「それまで隊員はウェットティッシュで体を拭くなどして衛生状態を確保していましたが、日本企業による排水リサイクル技術を取り入れた温水シャワーシステムを採用し、水の使用が限られる災害現場でも隊員が快適に過ごせるよう工夫しました」。

【画像】

隊員が負傷した想定など、限られた時間内に様々な演習が組み込まれた

いち早く被災地へ入り、調整役を担う責務

もうひとつ、JDRがレベルを上げたのが「国際調整」の能力です。今回の検定シナリオでは、JDRが他国に先駆けて被災地へ入るという前提で、後から駆けつけた多数の支援チームを取りまとめる交渉調整力が試されました。

被災現場における調整の重要性について勝部さんはこう語ります。「INSARAGの調整の仕組みを知らない被災国もあり、まずはより多くの人命を救うために救助チーム間の調整が重要であること、またそれを我々が担えることを説明するところから始まります。調整役は各国チームへの情報伝達の方法や手順を決めて、後から入ってきたチームがスムーズに支援活動を進められるようにすることで、被災国の負担を軽減する役割を担うのです」。

前回の「イエロー」をすべて「グリーン」へと前進させたJDR。評価員から「ベストプラクティス」と評された数も過去最多となりました。

災害時に力を最大限発揮するために

国際緊急援助活動の現場に立ち続けているのは「東日本大震災で世界中に応援していただいたことの恩返しでもある」という勝部さん。「再認定を受けることは重要です。ただ、それはあくまで国際派遣のための最低限の水準をクリアしたと評価されたにすぎず、人命を救助できると約束されたわけではありません。実際に派遣されて命を救うには、被災地で最大限の力を発揮できるよう、不断の努力が求められます。災害はいつ発生するかわかりません。ひとたび支援を求められたら、迅速に現地に入り、ガレキの下で助けを待つ人たちを救えるよう万全に備えておくこと、これこそまさに恩返しだと思うのです」。

ヘビー認定チームとして、今後ますますの活躍が期待されるJDR救助チーム。一人でも多くの命を助けるため、これからもあくなき挑戦を続けます。

【画像】

今回の検定に参加した救助チームほか、海外からの指導者や評価員、運営者など総勢約200人