日本の技術でウクライナの地雷除去へ! カンボジアで日本製の地雷探知機の研修を実施

2023年3月3日

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2023年1月、カンボジア。気温30度超えの強い日差しが照りつける平原に、地雷探知機の甲高い電子音が響き渡ります。ここは、カンボジア地雷対策センター(CMAC)の研修施設。日本政府はJICAを通して、ウクライナ非常事態庁(SESU)の地雷除去専門職員8人を同地に招き、最新の日本製地雷探知機を使った研修を実施しました。
ロシアの侵略により、現在、ウクライナの国土のおよそ30%が地雷や不発弾などの爆発物に汚染されている可能性があり、その除去には少なくとも10年を要するといわれています。戦後復興を見据え、ウクライナの地雷・不発弾のできるだけ早く安全な除去を目指すJICAの協力プロジェクトに迫ります。

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ぬいぐるみにも爆弾、500万人が危険にさらされている

「危険物を除去し、人々が危険にさらされるリスクを取り除く必要があります。我々は、多くの人道的支援を必要としています」。ウクライナ非常事態庁(SESU)の首席専門官、アルセニー・ディアディチェンコさんは、そう訴えます。

ロシアの侵略開始から1年。ロシア軍が撤退した場所には、地雷やロケット弾などの爆発物が屋内外問わず設置・放置されており、時には、家の中のぬいぐるみに爆弾が仕掛けられていることもあるといいます。こうした危険地域は国土の30%に及び、その周辺には、約500万人が暮らしています。人々が安心・安全に暮らしていくためには、爆発物を一つも取り残さず、100%除去する必要があります。

ウクライナで地雷や不発弾の除去にあたるのが、SESUの地雷除去専門職員です。ロシアの侵略後は人員を増員し、金属探知機を使用しながら爆発物の除去に当たっていますが、その作業は難航しています。そもそも金属探知機はあらゆる金属に反応するため、探知した全ての金属片を掘り出して地雷か否かを判別する必要があり、地雷の除去には膨大な時間を要するのです。

金属探知機+レーダーで地雷を画像化、迅速・効率的な除去へ

そこで、ウクライナの地雷除去を迅速に進めるため、日本製の地雷探知機「ALIS(エーリス)」の活用が期待されています。「Advanced Landmine Imaging System(先進的な地雷の画像化システム)」を略したALISは、金属探知機と地中レーダーを組み合わせた地雷探知機です。金属探知機が検知した物体を、地中レーダーが画像化。付属端末のモニターでその形状を目視することができるため、迅速かつ効率的に地雷か否かを判別できます。

「従来の金属探知機と比較して、格段に早く効率よく地雷を検知することができるため、ウクライナの人々の安全を守るという、差し迫った課題に役に立つはずです」。そう話すのは、ALISの開発者、東北大学の佐藤源之教授です。今回の研修では、佐藤教授自らカンボジアに赴き、SESUの職員にALISの操作方法を指導しました。

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(上)カンボジアでALISの操作方法を説明する佐藤教授。手に持つのがALIS。大きさは従来の金属探知機と大差なく、重さも約3kgと同程度(下)探知した地中の物体の形状が端末の画面上で確認できる

戦時下のウクライナから研修に参加したSESUの職員は、一様に緊張した面持ちで研修をスタートさせました。また、研修中も、これまで使ってきた金属探知機の操作に習熟している人ほど、ALISの操作に戸惑う様子が見られました。「ALISの操作にはコツがいる」と佐藤教授が話すように、SESUのメンバーらは操作を何度も繰り返して、コツを掴んでいきます。「うまく操作できて画面上に地雷の丸い形がきちんと表示されると、うれしそうな反応を見せてくれました」と話す佐藤教授。そして実機研修の最終日には、SESUのメンバーにもリラックスした笑顔が見られるように。プロジェクトの参加者全員にワンチームとしての絆が生まれているようでした。

「研修は非常に素晴らしいものでした。今回習得した技術を、ウクライナで地雷処理を進めるすべての仲間に伝えたい。ALISの操作を説明するのは非常に難しい作業ですが、実際の現場でトレーニングすることで理解が進むはずです」。SESUのディアディチェンコさんはそう話します。

「ウクライナでは特に都市部に多くの地雷などの爆発物が放置され、建物のがれきに即席爆弾が仕掛けられている可能性もあります。従来の金属探知機ではコンクリートなどに含まれる鉄筋に反応し、十分な機能を果たしませんが、ALISが、そのような場面での迅速な地雷除去に貢献することを期待しています」(佐藤教授)

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(上)インタビューに応えるウクライナ非常事態庁(SESU)の首席専門官、アルセニー・ディアディチェンコさん(下)検知した地中の物体の画像が、佐藤教授が持つ端末画面に表示されると、SESUの職員たちがそれを覗き込む

カンボジアに受け継がれている日本の地雷対策技術

今回の研修では、カンボジア地雷対策センター(CMAC)のALIS部隊も大きな役割を果たしています。JICAはカンボジアに対し、内戦終了後から20年以上にわたり、機材の供与や技術支援、またCMACの組織能力強化などを通じて地雷対策に協力してきました。その中で、地雷対策に継続的に力を発揮できる人材の育成にも力を入れてきました。ALIS部隊はALISの技術に習熟した人材で構成されており、今回の研修で佐藤教授とともに講師を務めました。
「私がこれまで直接指導したのは10人ほどですが、それから2、3代目くらいまでの人材が育成されており、トレーニングの体系も構築されている。CMACの中で技術がきちんと育っていると感じます」と佐藤教授。

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講師を務めるCMACのALIS部隊のメンバー

ポーランドでフォローアップ、研修は継続

ALISの操作技術のさらなる習得を目指すため、今後、ポーランドでのフォローアップ研修を予定しています。「できるだけ多くのウクライナの人たちに研修を行うためには、隣国のポーランドでの研修が有効です。次回はポーランドの私たちが、落ち着いた安全な環境でトレーニングを提供できるように準備したい」。今回の研修にオブザーバーとして参加したポーランド国家警察・テロ対策部隊のマレク・サドースキさんは、そう話します。

ウクライナの地雷や不発弾の除去は、10年単位で腰を据えて取り組む必要がある課題です。人々が安心・安全に暮らせるように、広大な地域で一つも取り残さず爆発物を除去するために、継続したサポートが必要です。日本、カンボジアとポーランドの3か国が連携した研修は続きます。そして今後も、ウクライナの戦後を見据えた強靭な国づくりのため、地雷・不発弾対策においてこれまで日本が蓄積してきたノウハウや技術力、培ってきた各国とのネットワークを生かした協力が求められます。

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