漫画で読もう!世界の課題に向き合う人々の熱き挑戦の記録

2023年3月16日

世界には紛争や貧困、災害など、終わりが見えない問題がたくさんありますが、その現場に身を置き、人々に寄り添いながら課題に向き合う日本人がいます。困難の中でたくさんの汗をかき、志を貫いた彼ら・彼女たちの体験をつづったJICAの書籍シリーズ「プロジェクト・ヒストリー」が、このほど漫画になりました。第一弾となる4作品とその制作の裏側をご紹介します。

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きっかけは主人公たちの小さな思い

「プロジェクト・ヒストリー」は、JICAのプロジェクトをけん引した人々の体験や成果を紹介する書籍シリーズで、2010年からこれまでに30冊以上を刊行しています。

漫画化の構想がスタートしたのは2022年夏。日本の途上国支援の意義やJICAの活動を、現場で関わる人たちの思いとともに親しみやすく伝えたい、より多くの人に関心を持っていただきたい、という思いから始まりました。選ばれたテーマは、インドの人々の暮らしを変えた鉄道整備事業から、バングラデシュと日本の地方都市を結ぶIT人材育成プロジェクト、識字率向上で人々の可能性を広げるパキスタンのノンフォーマル教育、隣国の南スーダンから大量の難民を受け入れるウガンダへの支援まで、国も分野もさまざま。

どれも事業として大きく発展したプロジェクトですが、漫画を読み進めると、きっかけはある日本人の小さな思いから始まっていることに気付きます。「目の前で困っている人をなんとか助けたい」という情熱の雫が、周囲の人を巻き込みながら波紋となって広がり、やがて大きな波となり社会を変えていく——その様子を追体験できるのは、イラストで見せる漫画ならでは。どのストーリーも、成果が見えるまでには大変な苦労がありますが、目の前に立ちはだかる壁をどう乗り越えたのか、主人公として登場する日本人の視点だけでなく、途上国の人々の視点からも描かれています。

途上国の人々や暮らしに思いを馳せて

漫画づくりを担当したのは、デザイン会社ROOM810の鈴木友子さんと「びるじろうず」「uwabami」という2組の漫画家ユニット。脚本担当の鈴木さんと、イラスト担当の齋藤悠さんと住田葉子さん(びるじろうず)に制作の裏側を伺いました。

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左から住田さん、鈴木さん、齋藤さん。東北の復興やウクライナを支援する活動にも取り組んでおり、「困っている人たちのニーズを全身でキャッチしようとする主人公たちの姿に共感した」と話す

1冊200ページ近くに及ぶ書籍を、30ページの漫画版に仕立て直した鈴木さん。あらためて取材やリサーチを重ね、各プロジェクトや国際協力への理解を深めていったと言います。心掛けたのは、その国の人たちの考えにできる限り寄り添うことだったそう。「物語では主人公が現地の人たちの言動に戸惑うシーンが度々出てきますが、それを日本の常識に当てはめて描写すると、間違ったメッセージになりかねません。世界には多様な価値観があることを常に意識するようにしていました」。

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言葉の表現から現地の描写、人物の表情まで、一コマずつ丹念に検討を重ねていく

齋藤さんは、絵で表現する漫画ならではの発見があったと言います。「例えば、ムスリムの女性が被るヒジャブも、若い人には明るい色目や柄ものなどファッション性のあるものが好まれる一方で、スラム街の女性は色が地味だったり、経済的な理由で着用していない人もいることを知りました。絵にすることで、その国の様子がより鮮明に見えてくるんです」。

漫画の良さについて住田さんは「難しいコンセプトを図解したり、複雑な問題を分かりやすく可視化できること、そして何より‟人“にクローズアップすることで物語を体感できること」だと言います。「私は人物をメインに担当したのですが、物語が進むにつれ、表情もイキイキと変わっていくので、その変化にも注目してほしい」と話してくれました。

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細やかな色使いや表情豊かなキャラクターも、漫画の魅力の一つ

制作の皆さんの胸に最も響いたのが、物語に登場する途上国の人たちの真っすぐな心だと言います。「彼らの心に動かされた人たちが、その思いを形にしていくプロセスはどの物語にも共通しているように思います。途上国について学ぶ資料としてだけでなく、そこに暮らす人たちの良さまで伝わったら嬉しいですね」(鈴木さん)。

選りすぐりの4作品、それぞれの見どころ

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2023年、人口が世界1位になると予測されるインド。人口の急激な増加に対応するため、公共交通機関の整備が課題でしたが、2002年に開業したデリー高速輸送システム建設事業(通称:デリー・メトロ)の成功を皮切りに、現在は東京メトロをも凌ぐ「世界最大級の地下鉄網」が整備されています。国をあげた大規模プロジェクトのキーパーソンこそが、本書の主人公・阿部玲子さんです。土木技術者として、デリーメトロの工事現場の安全対策や人づくりに尽力しました。漫画ではプロジェクトの成功だけでなく、性別や偏見にとらわれず「やりたいこと」を諦めなかった主人公の生き様が描かれています。

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世界中でデジタル化が進む中、優秀なIT人材がいながら就職難のバングラデシュと、デジタル人材の不足に悩む日本の地方都市。遠く離れた2つの国の人々を結ぶきっかけは、青年海外協力隊が始めたある取り組みでした。それはやがてバングラデシュにIT国家資格をもたらし、若きエンジニアたちが日本で活躍する道を開くことに…。14年という長い年月をかけて発展したこのプロジェクトは、支援する側・される側の双方のニーズを直接的につなぐ新しい国際協力モデルを生んだことでも注目されています。

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識字率60%のパキスタン。貧しくて子どもの頃から働きに出たり、学校がない地域に住んでいたり、理由はそれぞれですが、読み書きができないことで様々な苦労を強いられています。漫画に登場する「ノンフォーマル教育」とは、柔軟で多様性に富んだ教育を通じて、どんな境遇の人も学べる環境を整えること。識字率向上のために奮闘するたくさんの人たちに加え、読み書きを身に付けて人生が大きく変わった人々のストーリーも丁寧に描かれ、学齢期を過ぎても学び続けることの意義が伝わってきます。

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2011年に独立を果たした南スーダン。ほどなく内戦が勃発し、多くの人が隣国ウガンダへ逃れました。しかし避難民が押し寄せた地域 はもともと開発が遅れており、地元住民も支援が必要な状態。難民支援はJICAが行う開発援助とは異なりますが、紛争が長引く中、「JICAならではの協力ができるのではないか」と主人公たちが立ち上がります。今も世界中で難民・避難民が増え続けるなか、日本の難民支援や共生社会のあり方も考えさせられる物語です。

漫画はすべてJICAのウェブサイト上でお読みいただけるほか、全国のJICA事務所や東京にあるJICA地球ひろばでは冊子版を無料で配布しています。今後さらに2作品が登場しますので、ぜひご期待ください。