ウクライナ農業の復興支援のため、ヒマワリ・トウモロコシの種子を供与

2023.04.27

厳しい冬が終わりをつげ、大地が芽吹き始める4月ころー。ウクライナの農家も、忙しくなります。気温の上昇と共に土が柔らかくなるのを待って、トラクターで土を起こしていく。「農家にとって畑は生活のすべて。土に触れるだけで大地は生きるチカラを与えてくれるし、時に収入ももたらしてくれる」。FAO(国連食糧農業機関)ウクライナ事務所で政策・プログラムアドバイザーを務める、ミハイロ・マルコフさんはにっこりほほ笑みます。

 今月23日、G7宮崎農相会合が終了し、強じんで持続可能な農業・食料システムの達成や生産性の向上について議論されたほか、ウクライナの農業の復興支援についても声明が発表されました。

 ロシアによる侵略が始まる前まで、ウクライナは「ヨーロッパの穀物庫」とも呼ばれる世界屈指の穀物生産国でした。ヒマワリ油の生産量は世界一位で、中でも北東部ハルキウ州は国内有数のヒマワリの産地として知られています。

 2022年2月に侵略が始まった際、同州は激しい戦場となりました。ロシアとの国境地帯に位置していることもあり、自宅を破壊されただけでなく、農機具などの生活道具を奪われた住民も多いといいます。治安が著しく悪化したこともあり、自らの土地に近寄りたがらない農家もいます。「希望も何もかも奪われた。土地があってもタネを買うお金がない。サプライチェーンも機能しなくなり、農家は何もできなくなってしまった」。

 ハルキウ州のヒマワリの作付面積は約573,000haで州全体の農地の約3割を誇っていましたが、侵略によって半減しました。世界銀行が2023年3月に発表した「RAPID DAMAGE AND NEEDS ASSESSMENT」によると、ロシアによるウクライナ侵略で受けたウクライナ農業の被害・損失額は推定402億米ドル。ハルキウ州は3番目に被害額が大きい州でした。

 JICAは今年3月、ウクライナ農業政策・食料省とFAOを通じて、ハルキウ州の農家に向けてヒマワリとトウモロコシの種子を配布しました。ヒマワリが約31トン、トウモロコシは約64トン、作付面積に換算すると約10,000haです。マルコフさんは「何もかも失った農家にとって、非常に大きなインパクトがあった」と意義を語ってくれました。

到着した種子の配布準備の様子
Photo taken by Svitlana Haponyk, Kharkiv regional center of advice public association

 マルコフさんは4月16日から22日まで、JICAが招いたウクライナの農業政策・食糧省の高官ら5人と共に、東日本大震災の被災地を視察しました。震災で甚大な被害を受けた灌漑施設を訪問したり、住民と直接対話を重ねたりして、復興にかける情熱に心を打たれたと振り返ります。

 特に津波で家族を亡くした男性から、当時の様子を聞いたことが忘れられないと語ってくれました。地図を広げ「ここに自宅があった」と示された場所に、その面影は何もありません。自身もウクライナ人であるマルコフさんは、「すべてを失った姿はいまのウクライナと重なる。住民たちが生まれ育った土地を愛し、復興のために一生懸命努力する姿は非常に励みになった」と言葉に力を込めます。

 ただ、話を聞いた人の中に、今も“震災前”の暮らしを送っている人は一人もいませんでした。誰もが東日本大震災を経験し、それを乗り越えて新しい暮らしを築いているのです。「ウクライナも同様に、人々の暮らしを侵略前に戻すことはできない」。辛い経験をしたからこそ、人々が強く生きている。災いを生き抜き、更に住みやすい地域づくりを目指す「Build Back Better」の精神を、この目で見ることができたと振り返ります。

 ウクライナ人として、そして国際機関の職員として。「これからのウクライナは多くの支援が必要になるはず」とし、「今回のタネは小さな一歩だが、確実に希望の一歩」と感謝を述べてくれました。

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