JICA筑波 芳賀克彦所長 〜学生インターンによるインタビュー〜

【写真】所長 芳賀克彦 JICA筑波国際センター 
所長 芳賀克彦 

プロフィール紹介
1983年に旧国際協力事業団(現JICA)に入団。1986年から4年間外務省に出向し、経済協力局無償資金協力課(当時)、在エクアドル日本大使館に勤務。また、1993年より2年間米国ピッツバーグ大学公共政策・国際問題大学院に留学。ブラジル事務所長等を歴任し、現在JICA筑波国際センター所長。

インターン
出越歩:大学3年。専攻は国際法。貧困問題に興味あり。
花田優子:大学3年。専攻は国際機構。卒業後は、紛争解決学を学ぶため大学院進学を予定。

2人は本年2月、JICA筑波の研修業務課で1ヶ月間のインターンシップを経験。

Q1. 大学時代は何をされていましたか?

図書情報室での対談の様子(左よりインターン生の花田、出越と芳賀所長)

あっという間の4年間でした。1年生の時、とにかく体を鍛えたいと思い、3つの体育会を経験しましたが、その中で一番興味を持った競技ダンス部を4年の秋まで続けました。3年生になると技術部長として練習会のメニューを考えたり、カップル(ダンスのペア)を組ませることが私の役割でした。男女の人間関係も配慮しながら、体格的にカップルバランスのとれたペアをつくることが難しかったですね。個人では、最終的に全日本学生選手権でタンゴの部門で8位の結果を残すことができ、達成感と自信がつきました。勉強というよりは部活に打ち込んでいた学生生活で、時間が過ぎるのがとても速かったです。

Q2. 所長がJICAに入られたきっかけは何ですか?

もともとは英語教師を目指して文学部英文科に入学したのですが、時間が経つにつれ、教える側ではなく、自分自身が海外のことを学びたいと思うようになりました。あるとき、青年海外協力隊のポスターを見て、自分にも何かできたら格好良いなぁと漠然と思ったことを覚えています。その後、JICAの職員の仕事を知り、憧れを抱きながら応募しました。

Q3. 仕事の場で、一番印象に残っていることは何ですか?

JICA筑波実習棟での農業機械体験

初めての海外赴任の在エクアドル日本大使館での経験ですね。当時は冷戦終結間際であったため、国際情勢が著しく変化する真っ只中でした。私は中級レベルのスペイン語を勉強してから現地入りしたのですが、経済協力担当書記官としてエクアドル政府との様々な2国間交渉を任されました。合意に至るまでの過程で、仕事外での時間を含め、いかに信頼関係を築き上げるか、相手が交渉において重視していることは何か、など、“舞台裏のシナリオ作り”を学びました。自分のもつ語学力で重要な交渉をする機会を得て、5つもの合意書の締結に関わったことで、大きな自信につながりました。

Q4. 国際協力の視点から、私たちは就職先の候補として民間企業やNGO(非政府組織)も考えています。これらの組織が果たす役割、またJICAとの繋がりについてどうお考えですか?

JICAだけでは国際協力は不可能です。JICAの活動は、コンサルタントや民間企業を含む外部の方々との協働で成り立っています。その点で、シビルソサイエティ(市民社会)との連携の重要性は大きいですね。まず、NGOについて。会費と寄付収入だけで社会貢献事業を行っているNGOの方々の活動は本当に素晴らしいと思います。NGOの活動は、まさに成熟した社会のバロメーターと言われています。欧米の社会では従来からNGO活動が活発です。JICAとNGO間の協議会の場では、年中いろいろなイシューについて意見交換を行っています。協働事業も少しずつ増えています。また、民間企業は、例えばインフラ整備等の技術面で大きな役割を果たしていますね。その他の多くの民間企業も直接投資や海外進出を通じ途上国の開発に参画するようになってきています。このような状況を踏まえ、大学生が企業やNGOを選択するのは良いことだと思いますね。今後、ますますJICAは、これらの組織とのパートナーシップが求められています。

Q5. 国際協力をするにあたって、専門性を身に付けるために大学院へ進学することについて、どうお考えですか?

国際協力を行うほとんどの国際機関では、修士号が必須とされていますね。JICAでも、修士号を持った学生を積極的に採用しています。私もJICAに入って10年目の時期に、海外長期研修のチャンスを頂き、アメリカの大学院で2年間、経済社会開発に必要な様々な専門知識を学びました。しかしながら、知識はもちろん大事ですが、現場に出ると座学では得られないものがたくさんあります。例えば、学問の世界では、仮説を立ててからそれを論証していくことが重要。けれども現実世界では、実際にある問題を解決することが最優先。全く逆の考え方ですね。JICAでも職員研修を行っていますが、実務経験を通していかに学んだことを応用していくか、それが非常に大事になってきます。

Q6. おすすめの本がありましたら教えてください。

1冊目は、Paul Kennedyの『Preparing for the Twenty-First Century』。これはアメリカ留学時代に読みました。2冊目は、司馬遼太郎の『坂の上の雲』です。2冊とも、現在抱える問題のためにいかに歴史から学ぶか、という視点で、日本人に読んでもらいたいですね。日本は今後ますます少子高齢化が進み、税収の減少や地方の過疎化の悪化など、日本の将来は明るいとは言えないかもしれません。しかし、“沈む夕日を眺める”のではなく、過去の歴史から学び、どのように未来へ生かせるか、これを考えることが大事です。国際協力においても、その視点は非常に重要です。

Q7. 国際協力を行う上で、一番大事なことは何だと思われますか?

三人の集合写真(JICA筑波正面)

“人を好きになること”です。何事も、結局最後は“人”だと思います。エコノミストなど、一見格好良いように見えますが、論理だけで仕事をしていては限界があります。国際協力の世界では、「お前のために何でもやってやる」と思ってくれるような人間関係を構築することが非常に重要です。「JICAの人間だから」ではなく、「この人だから」という信頼を得ることで、毎日の仕事が楽しくなるし、自分自身、それで救われた経験があります。私たちは俗人的な世界に住んでいます。物事を動かすのは国や組織ではなく、最後は“人が人を動かす”のです。そういった考え方が、困難な仕事をやり遂げる支えになると私は思います。

—本日は貴重なお話をありがとうございました。(出越・花田)

—ありがとうございました。(芳賀所長)