【JICA筑波の研修を動かす!支える!人たち】元研修指導員 長谷川 繁弥さん(国際耕種株式会社)

【写真】長谷川 繁弥さん元研修指導員
長谷川 繁弥さん

JICA筑波にはさまざま経歴の方が集まり、研修コースの運営に関わっています。そんな皆さんをご紹介する本コーナー、今回はJICA筑波で長年研修指導にあたり、2018年国際耕種株式会社を退職された長谷川繁弥さんに、「JICA筑波での19年間を振り返って」というテーマでお話をうかがいました。
Mr. Hasegawa, who has been an instructor of JICA Tsukuba courses on vegetable cultivation for 19 years, has retired from Appropriate Agriculture International Co., Ltd. He has a message to the ex-participants of his course! Please see at the bottom of the page.

1.まずは自己紹介をお願いします。

初研修、日本国際協力センター指導員のタジキスタン国別2000年

私は新潟の小規模農家の次男として生まれました。鹿島石油株式会社に入社後、システム農業開発班でアラブ首長国連邦(UAE)での砂栽培適用試験事業に参加。アブダビ首長国アルアイン政府農場にて、試験農場“鹿島アブダビファーム(KAF)”の開設および運営に携わりました。その後国内開発部に戻り、農業・緑化の事業化調査を行いました。同社を退職後、日本国際協力センター(JICE)の研修指導員となりました。2001年国際耕種株式会社に入社し、退職する2018年までJICA筑波の野菜、畑作物栽培技術の指導員として研修業務を行うこととなりました。

2.JICA筑波で関わられたお仕事について聞かせてください。

2008年度の研修員との花見

国際耕種株式会社は、農業農村開発分野の調査研究、コンサルティング、乾燥地帯における作物生産に係る専門家派遣などを行う会社です。専門家派遣等では会社設立当初から在外JICAプロジェクトとの繋がりが深かったのですが、国内では2001年のJICA筑波研修コースが最初の受託業務でした。このコースでは、日本の主要野菜栽培技術習得のための講義・実習演習・見学を計画するとともに、経費の見積りを立て、栽培指導と研修運営を行います。そして研修終了後には、これまでかかった経費を精算し、JICAに業務完了報告書を提出します。この一連の業務のうち、研修の柱である栽培指導では、研修員たちが帰国後に日本で学んだ野菜栽培技術を応用し、生産技術を伝えることができるよう支援していく必要があります。そのためにも毎年研修内容を検討し、教え方を工夫していかねばならず、大変やりがいのある仕事でした。

3.長谷川さんが国際協力に携わったきっかけを教えてください。

KAF試験農場のパキスタン人作業員とスーダン人カウンターパート

私がそもそも国際協力に関心を持ったのは、最初の会社で産油国に技術者として派遣された先輩の話を聞いたことです。実際に携わるようになったのは、前述のKAF野菜栽培プロジェクトで、冷却装置付きハウスや砂栽培装置をパキスタン人の農場作業者と共に建設し、砂栽培技術を政府農場の技術者に移転したときからです。プロジェクト終了の際に収穫したキュウリは、予想以上に良くできていてとても嬉しかったです。さらに十数年後に再訪すると、設備の作り方や栽培管理を伝えたパキスタン人達がフォアマン(主任)に昇進しており、頼もしく思ったものです。

1981年UAEで大沼洋康(右)さんと初めて出会ったころ

国際協力に携われたもう一つのきっかけは人の縁です。一つめの縁は、私が鹿島石油株式会社の社員としてUAEに居た時、のちに入社する国際耕種の社長である大沼洋康さんが、日本沙漠開発協会のプロジェクトに参加し、その後もUAE農水省で働いていたことです。そして、私が研修指導員を始めた時、同じくそのプロジェクトに参加していた利光浩三さんが、JICA筑波におられたことです。

4.JICA筑波で研修を実施するにあたって役立ったこれまでのご経験について教えてください。

実家の飯豊連峰二王子山裾野の田圃とアスパラガス栽培

1980年システム農業開発班農場と砂栽培によるトマトの育苗・栽培演習(1)

1980年システム農業開発班農場と砂栽培によるトマトの育苗・栽培演習(2)

JICA筑波での研修業務に役立った経験は、幼少期の生い立ちに遡ります。実家のある飯豊連峰二王子山の裾野一帯は、米作りを中心とした典型的な農村です。農耕機械の無い時代、子どもたちは、農繁期に家の手伝いをするのが当たり前で、大きくなると一人前の人手として動員され、腰が痛くなるまで田植えを手伝わされました。秋は、稲を天日乾燥するための “はざかけ” や “稲下ろし”の手伝いで、細かい稲藁がチクチク首回りを刺す嫌な作業でした。地域のほとんどの農家は乳牛を飼い安定収入を図っていました。我が家も多いときで7、8頭の搾乳牛を飼っていました。その頃は糞尿混じりの敷料を田圃の一角に積んで堆肥を作っていました。野菜栽培研修で堆肥を活用する実習を組み込んでいるのは、こんな経験が基になっているのです。生計向上のため、父親は米作りに加え、酪農、野菜採種、缶詰用イチジク、アスパラガス栽培等と色々と挑戦していました。農業は大変な割に儲からないなとの思いから、私は別の進路を選択しましたが、稲作、野菜、果樹、畜産の手伝いの経験は、その後の実践的農業技術習得の土台となったように思います。

石油会社での28年間は、JICA筑波での野菜栽培研修に活かせる多くの経験を得た時代でした。最初に配属された職場でのQCサークル活動(注1)やOJT(注2)による後輩への指導経験は、研修員と農作業を一緒にしながら実践的な技術を伝える研修指導に役立ちました。野菜栽培に関わるきっかけは、入社8年目に砂栽培を産油国で実証する社内企画に応募したことです。以来、野菜栽培技術の勉強と実験設備作りの毎日でしたが、国内とUAEでの試験場の設置作業、葉菜、果菜類を中心とした20年の栽培経験があったおかげで、途上国の普及員に野菜栽培を教える仕事に挑戦することができたように思います。

5.20年近く携わられた研修を実施するにあたって、長谷川さんが心がけていらっしゃったことは何ですか。

自ら工夫した直売実習、2013年販売促進ポスターとユニフォーム

育った国、環境が違っていても人の気持ちは同じだと思っています。また、自分が良い気持ちになれる時は他者にも同様であると考えています。そのため、他者へ心からの敬意を払う姿勢が一番大切と考えています。加えて、互いに考えていることを伝え、理解を得ること、認識を共有するためのコミュニケーションを大切にしてきました。

研修の際は、「記憶に残る満足した時間、知識経験がアップした研修だった」と研修員から評価されるコース運営に努め、研修員の習得したい技術をアンケートや日常の会話から探り出すよう心掛けていました。個別栽培実験などでは、期待した結果にならない場合もありますが、この様な時は原因分析を研修員とともに繰り返し行い、考察を深めるようにしました。また、自発的な取り組みにより「自分でやり遂げた」、「目的達成の道筋を理解出来た」などの経験が得られるよう気付きを促すアプローチを行いました。

19年間、200名以上の研修員に指導をされた中で、特に印象に残っている年や、研修員はいますか。

2001年タジキスタン国別、踊りを披露する研修員

タジキスタン共和国国別特設コースでは、2001年のグループが印象深いです。35歳前後の10名は、朝早くから圃場を見回り、見学先では的確な質問で相手先を感心させるだけでなく、気軽に踊りを披露するなど、人間性豊かなグループでした。数年後のフォローアップでは、彼等がタジク語で作った日本の野菜栽培冊子を受け取り、自国で活かされていることを嬉しく思いました。

2011年家族のようにまとまったグループ、パプリカの養液栽培

野菜栽培技術コースでは、13か国16名を受け入れ、研修期間も1月30日から11月17日迄と長く、一番きつかった2007年のグループが印象に残っています。様々な国の研修員の個別実験に対応するには大いに苦労しました。また、東日本大震災のあった2011年は、栽培基礎知識とモチベーションの高い6ヵ国8名の人達で、良くまとまったファミリーのようでした。このグループは、来日1ヶ月後に地震に遭い、2週間JICA東京で合宿研修をしなければならなくなりました。JICA筑波に戻って、相互に助け合い、敬意を払う態度が実習等で多く見られたのは、こうした機会を経たからではないかと思われました。

7.長谷川さんのこれからの目標や抱負をお聞かせください。

これだけ多くの研修員と共に野菜作りを学んだ巡り会いに感謝して、自分なりにできるだけフォローアップをしたいと考えています。先ずは窓口の告知をしながらネットワークを再構築し、問い合わせに応えていければと思っています。

8.最後に、帰国研修員へメッセージをお願いします!

Dear returnees participants of JICA Tsukuba-Vegetable Cultivation Technology Course. How are you?

 I have been in charge of course management and technical guidance since 2000 and it was 19 years, but last year's training was the last, and retired from AAI at the same time. I am grateful that I have met 208 trainees from 47 countries. I thank JICA Tsukuba and AAI for giving me such opportunities. I remember what the participants at that time are doing now, but I would like to start making the network of 208 people now.
 Unlike when we grow vegetables together on training, I think that everyone's countries are developing greatly. How is that? However, if the situation changes, new issues also arise, but I would like to answer any questions as much as possible. Of course I think that it is an uncontrollable task, but lecturers who met in training and their experts are also asking for their support.
I learned that communication is important during training, but I still think like that. So, from now on I would like to communicate up-to-date with you, let's build up this network with everyone.
Regards,
Hasegawa Shigeya

長谷川さん、19年もの長い間研修員への「熱血指導」誠にありがとうございました!長谷川さんの研修員への向き合い方や研修にあたっての心がけは、時代を超えて研修事業に関わる私たちが持たなくてはいけないものですね。長谷川さんがこれからも大切な帰国研修員とのつながりを保ちながらご活躍されることをお祈りしています!
Dear participants, if you would like know the current email address of Mr. Hasegawa, please contact JICA Tsukuba.

注1:QC(Quality Control品質管理)サークル活動とは、企業などの品質管理活動をQCサークルというグループ単位で行うものです。
注2:OJT(On-the-Job Training)とは実際の職務現場で業務を通して上司や先輩社員が部下の指導を行う教育訓練のことです。