【JICA海外協力隊帰国報告】栃木県小山市出身 並木 郁代さん~アフリカ文化とアラブ文化の合流点、心も体もほかほかになれる国スーダンの経験~

並木郁代さん(栃木県小山市出身)
2017月年度2次隊(青年海外協力隊)・2017年10月~2019年10月派遣・スーダン・作業療法士

【1】自己紹介 

自作した道具を使い、コミュニケーションと色の概念を理解してもらおうとしています(活動先施設にて)

栃木県小山市で育ち、大田原市にある国際医療福祉大学卒業まで栃木県で過ごしました。大学生の時に、開発途上国の人たちのお手伝いをしたい、という単純な気持ちで、インドの障害児者施設でボランティアに参加。そのとき、目の前の患者さんに対して、何をしたらいいか分からず、何も出来なかった、という悔しい思いをしました。それからは、いつか自分が胸を張って出来ることを携え再び開発途上国に行きたい、という夢を持っていました。作業療法士としての国家資格を取得後、4年間病院で実務経験を積み、青年海外協力隊に応募しました。

【2】任国・任地の様子について

おもちゃの棒を等間隔に並べ、障害児が視覚的に理解しやすいように工夫して、体の使い方を練習します(活動先施設にて)

アフリカ大陸にあるスーダンはとにかく暑い国。最高気温は50度、雨や曇りの日は年間を通して数日のみの砂漠気候で、常に灼熱の太陽が顔を出しています。雨が降ると、大人も子供も大はしゃぎで学校も休校、会社も当たり前のように休みになります。国内には、水道や電気が通っていない地域もあります。一方、人と人とのつながりが深く、困難に直面している人がいれば、家族、親戚、友人、近所で助け合うのが当たり前。どの家庭でも、庭に置いたベッドに腰掛け、たっぷりの砂糖が入った紅茶を飲みながらお話しする家族団欒の風景が見られ、突然の訪問者に対しても「よく来たね」「あなたの家の様にくつろぎなさい」とあたたかく迎え入れてくれます。また、スーダンは国民の90%以上がイスラム教徒であり、衣食住共にアラブ・イスラム文化が浸透しています。

【3】任国での活動について

現地の先生や障害児をもつ親を対象にしたワークショップの様子(地方都市にて)

私は首都ハルツームの北部、バハリという地区にある「スーダン自閉症協会」で活動しました。3~20歳の自閉症スペクトラム障害・ダウン症候群・注意欠陥多動性障害・学習障害などの発達障害を持つ子どもたちに対し、同僚のスーダン人の先生たちと協力し、作業療法などを実施しました。スーダン人の先生方の知識レベルは、国内にある同様の障害児施設に比べると高い、という印象で、生徒への熱い愛情を感じました。一方で、目標や計画立案をせず、いわば「その場しのぎ」の介入となっている、といった問題がありました。そこで、まず「障害児の生活機能の向上」を目標として設定し、字を書く練習、コミュニケーションの練習、身体の使い方の練習などの作業療法を実施していきました。また、作業療法の実施場面をスーダン人の先生たちに見てもらい、サポートをしてもらうことを通じて、障害児との関わり方についての知識や技術が先生方に伝わるよう、工夫しました。そのほか、近隣地域の大学や地方都市でのワークショップなども実施しました。

【4】帰国後の活動について

障害児と先生と一緒に作った日本とスーダンの国旗の貼り絵(国名がアラビア語で記載)

帰国した現在も、スーダンと関わりながら過ごしています。スーダンは観光資源が乏しく、外国人観光客が少ない国です。また、観光や仕事でスーダンに立ち寄ることがあっても、お土産となるようなものがなく、自分自身も日本に戻った時、困った経験がありました。そのような経験から、スーダンの市場で選んだアフリカ布やビーズを使い、アクセサリーやポーチなどの小物を作っています。自分の作品を通じて、知名度は低いですが「アフリカ文化とアラブ文化の合流点、心も体もほかほかになれる国スーダン」の魅力を発信しています。

【5】今後の抱負

羊市場。出産、快気、イスラム教のお祭りなど、おめでたいことがあれば羊を買い、親族や近所に振るまい、幸せを共有するのがイスラム流(さばきたての羊肉は絶品!)

スーダンで生活した1年半、自分とスーダン人の優先順位が全く違うことに何度も驚かされました。「家族との時間を大切にしたいから」という理由で、当然のように退職していったスーダン人の同僚。頼んだ書類はいつまで経っても持ってきてくれないのに、私に食べさせたい、と仕事の時間を割いてケーキを焼いてきてくれた別の同僚。異文化理解は、頭で考えるよりも、国、地域、人による文化や風習の違いを、実際の生活の中で体験することだ、と実感しました。私の「当たり前」が通じないことを、時としてストレスに感じることもありましたが、スーダンでの経験は、物事の多面性やその背景への理解を深めることにつながりました。既成概念に固執せず、物事を多角的に見ていく視点は、外国人と接する場合に限らず、全ての人と接していく上で今後役立つのではないかと考えています。