【隊員たちのイマ】アートの力で切り開く「新しいアフリカ」を目指して!【前編】

鈴木掌さん(すずき つかさ) 画家/アートプロデューサー
(茨城県つくばみらい市出身 元青年海外協力隊/服飾/ルワンダ)

【画像】生命力に満ち溢れたビビットな色彩のアフリカンアートを次々と生み出している鈴木さん。現在画家として活躍する傍ら、2019年よりアフリカのルワンダと日本を行き来し、子どもたちに絵画指導を開始。その後、ルワンダの教え子たちの作品を販売するプロジェクト「heART(ヒ—アート)」を立ち上げ、ルワンダの子どもたちの生活環境改善や教育支援活動を展開中。2011年から2013年のJICA海外協力隊参加を機に今もなお続くルワンダとの「縁」。鈴木さんにこれまでの歩みを伺いました。

「『掌』(てのひら)と書いて『掌』(つかさ)」

鈴木さんの名前、「掌」。その名の由来は、「社会のために何かを成し、人々を掌(つかさどる)る存在になってほしい」という両親の願いを込めつけられたという。鈴木さんは、先祖に即身仏を持つ家系に生まれ、幼少期からその想いを語り継がれ育った影響で、自然と世の中のために自分には何ができるかという考えを持つようになった。

思春期にはヒップホップなど様々な音楽に魅せられた。そのルーツをたどってみると、ブルース、ジャズ、レゲエ、どれも全てアフリカの文化や歴史につながっていた。「アフリカには多様な文化を生む潜在的な力があるのではないか?」そう思い、鈴木さんのアフリカへの想いが徐々に募っていった。

JICA海外協力隊参加のきっかけ、ルワンダとの出会い

もともと手先が器用だったという鈴木さん。誰に習うわけでもなく、様々な創作活動をしていた。美容師として働く母の影響で自らヘアカットするのも朝飯前だった。
唯一服作りについては基礎だけはしっかり習ってみようと、ファッションの専門学校へ進学し技術を習得。その後、同学校から教員として働いてほしいと声がかかり、指導者としての経験を積んだ。そして、自分自身のアフリカへの想いとキャリアにマッチしたのが「JICA海外協力隊」だった。鈴木さんはJICA海外協力隊へ応募し、2011年から2年間、ルワンダで服作りの指導の活動をする。

ルワンダでみたファッションを取り巻く人々の環境と鈴木さんの服作り指導

隊員時代シングルマザーに服作りを指導する鈴木さん(写真中央)

鈴木さんはJICA海外協力隊としてルワンダ北部に位置するギチュンビ郡キバリ村のキバリ職業訓練センターに配属。職業訓練校で生徒への服作りの指導や指導者育成の活動をする傍ら、頻繁にルワンダの街に出て市場や縫製工房の様子を見て回った。
そこで目にしたのは、先進国から渡ってきて安価に売られている山積みの古着。劣悪な環境で働く縫製工房の人々。そこで作られる服はクオリティが低く、先進国の古着より安価に販売され、それでも多くの在庫を抱えていた。ルワンダのファッションを取り巻く人々の生活は豊かさとは程遠いものだった。

「低賃金で服作りできる人材が増えたところでルワンダの人々の生活は何も変わらない、せっかくルワンダにきたのだから意味があることをしたい」
そう考えていた鈴木さん、ルワンダの人々と接する中で彼らが持つ特性を感じていた。
「ルワンダの人は『カッコイイ』コト、モノが大好き。それなら、クオリティが高く『とびきりカッコイイ服が作れる人』を育てよう。」と決意した。

鈴木さんは服作りを学びたいという希望者を募り、一から服作りの指導を行った。時には教え子らが鈴木さんの自宅に泊まり込みで学ぶ日もあった。寝食を共にする中で、鈴木さん自身もルワンダの人々の生活スタイルや価値観を学ぶ日々となったと振り返る。

技術専門家として、再びルワンダへ

技術専門家時代の服作りの指導風景。

教え子のデオ、自身で仕立てたスーツを着て

JICA海外協力隊の活動を終え日本に帰国するも、3ヶ月後には再びルワンダへ渡った。今度は外務省の日本NGO連携無償資金協力「高度な洋裁技術習得によるライフ・エンパワーメント・プロジェクト」に参加。NPO法人リーボン・京都の技術専門家として2年間、首都キガリで若者やシングルマザーへ服づくりの指導を行った。
JICA海外協力隊時代に指導した教え子たちも、鈴木さんの活動を支えるスタッフとしてキガリに集まった。協力隊としての活動を含め、ルワンダ滞在中に育てた仕立屋は200名以上。教え子の多くは外資系の縫製工房に就職することができ、「日本人(鈴木さん)から技術指導を受けた証明書のおかげで通常よりも好条件で採用された。」と喜びの声をもらった。

協力隊時代からの教え子である「デオ」という名の青年は、首都キガリで鈴木さんの活動を支えた後、自身の仕立屋を開業した。大量生産型の工房ではなく、客側のニーズに合わせオーダーメイドでハイクオリティな縫製が施された高品質の仕立屋だ。デオは鈴木さんが目指した「とびきりカッコイイ服」が作れる人材として成長していた。この店では、無駄に在庫を抱えることもない。月に数着のオーダーに集中して価値のあるものを作るというスタイルだ。デオの店ではスーツ1着当たり2~300ドルと他の店と比較すると高額ではあるが富裕層や外国人らに人気を集め、デオや工房の従業員である鈴木さんの教え子たちは安定した収入を得られるようになった。立派に育った教え子たちの姿に喜びを感じながら、鈴木さんはミッションを終えた。次週公開の【後編】へ続く→ルワンダでまさかの挫折!?