第26回アフリカ教育学会優秀研究発表賞の受賞とザンビアでのボランティア活動について

2020年11月24日

第26回アフリカ教育学会が9月26日~27日の2日間開催されました。今回は新型コロナウイルス感染予防対策としてZOOMを用いたオンライン学会となり、24名が各自の研究発表を行いました。2019年度2次隊(職種:小学校教育)としてザンビアに派遣されている瀬下岳隊員もザンビアでのボランティア活動を活かして研究発表を行い、優秀研究発表賞を受賞しました。

瀬下隊員は、2019年12月から2年間の予定でザンビアの中央州にあるムオンバ初等学校で活動する予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大のため2020年3月中旬から日本へ避難帰国しました。現在も再びザンビアで活動できる日を心待ちにしながら広島大学大学院国際協力研究科でザンビアの研究を続けており、大学院での学業にも多忙な毎日を過ごしています。

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ムオンバ初等学校での授業風景

青年海外協力隊として配属先の小学校で算数を教えてみて

瀬下隊員は、今年の1月から3月中旬まで約2ヶ月間、小学校6年生に対して、算数を教えてきました。まず赴任して驚いたのは、教室環境だったそうです。日本の小学校より少し小さな教室に約100名の児童が在籍し、机や椅子が足りない中、子どもたちの多くは、床に座りノートと鉛筆1本持って、勉強するという光景でした。1協力隊員としてこの児童数過多の問題は解決が難しく、教室や教師数の確保というインフラ面の課題を、まず初めに感じたそうです。

次に、以前から指摘されてきた『板書を書き写し覚えさせるスタイルの教授方法が主流である』という課題があり、そして、『教員の教授法のバリエーションの低さが生徒の学力向上を妨げる一因である』という根深い課題もあると感じたそうです。そこで、板書を書き写し覚えさせるスタイルではなく、例えば、子どもたちに、『Why』や『How』の発問をし、なぜそうなったのか、どうやって計算したのか等、子どもたちに考えさせることを意識して授業を行いました。その過程で、児童の実態を確認したところ、四則計算において、棒を書いて数えて計算するという児童が大多数を占めることに気がつき、自分の研究では、自然数(整数)と小数の四則計算を中心に、計算方略に着目しながら調査をしたそうです。

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大人数の生徒が詰め込まれた教室内

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のどかな校庭

棒を数えて計算するという問題点

瀬下隊員は、ザンビア小学生の小数概念の習得段階に関する研究をしています。自然数(整数)の概念理解については、広島大学のザンビア特別教育プログラム(注)に参加したボランティア達が棒を数えて計算するという問題点を指摘しています。瀬下隊員も配属先で算数を教えていた小学校6年生を対象に自然数(整数)と小数のテストを実施し、その分析を現在行っています。ザンビアでは、小数は、小学校5年生から習い始めるため、調査対象児童は習い始めてから2年目の6年生です。瀬下隊員が作成したテストの内容は、例えば、7+8が出来る児童が0.7+0.8を出来るのか。15-8が出来る児童が、1.5-0.8を出来るのかという視点を導入しています。多くの児童は、自然数(整数)の7+8や15-8は、棒を書いてから、その棒を数える計算方略を使い正解に至りますが、小数の0.7+0.8、または、1.5-0.8になったとたん出来なくなるそうです。もし棒を書いて数えるという自然数(整数)と同じ計算方略を使ったとしても、棒1本を0.1と見なくてはならない難しさがあります。また、35+56や285+326、36-18や155-126のように、桁数が増え繰り上がりや繰り下がりがある問題については、正答率が著しく下がります。その要因として、まずは、棒を確実に書いて正解できる数を超えていること。そして、繰り上がりや繰り下がりの仕組みが理解できていないという原因が考えられます。また、同様に、小数の3.5+5.6、2.85-3.26、または、3.6-1.8、1.55-1.26は、棒を使用した計算が通用せず、繰り上がりや繰り下がりがある観点から、ザンビアの小学生にとって、難易度が高い問題となったそうです。この研究から、ザンビアの小学生の小数概念の習得が、どの段階にあるのかを明らかにし、今後のザンビア算数教育の改善の為の示唆を得ることができればと考えているそうです。

(注)『ザンビア特別教育プログラム』とは、ザンビアで青年海外協力隊として理科や算数を教えながら広島大学大学院人間社会科学研究科国際教育開発プログラムで修士号を取得するプログラムのこと。広島大学はザンビアでJICAとの連携事業を行うだけでなく、初等算数強化のために、初等算数プロジェクト研究を実施し、棒による教授法からボトルキャップを使って数を10の枠組みで理解させる取り組みを実施しています。

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授業の様子

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たし算 2)11+13=24 正解 11本の棒と13本の棒を書いて、数え足して24本と正解に至ったケース

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たし算小数 2)1.1+1.3=2.8 不正解 棒を書いて数えようと思ったけれど、少数には通用しなく、正解に至らなかったケース

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ひき算 9)169-15=154 正解 棒を169本書いて、15本消して、消していない棒を数えて正解に至ったケース

いつかまたザンビアの子どもたちと

新型コロナウイルス感染拡大のため、現在は退避帰国をしている瀬下隊員ですが、少しでも子供たちの算数学力の向上、及び苦手意識を軽減させたいと思う気持ちは今も変わりません。ザンビアに戻った際は、研究で明らかになった問題点や解決策を活かして更なる良い活動が出来るでしょう。改めて、第26回アフリカ教育学会優秀研究発表賞の受賞、おめでとうございます。