サイドイベント「アフリカの開発に果たすスポーツの役割」

アフリカの開発にスポーツの力を

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女性の地位向上を目指してJICAが開催に協力したタンザニア初の女子陸上競技会 
写真:JICAタンザニア事務所

オリンピック・パラリンピック開催を1年後に控えて、日本ではスポーツの持つ力に注目が集まっています。2019年8月27日、JICAは開発途上国支援のパートナーとして連携してきた世界銀行、フランス開発庁(ADF)と共に、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)のサイドイベント「アフリカの開発に果たすスポーツの役割」を開催しました。

世界的に著名なアスリートである、ケニア出身の元女子マラソン世界記録保持者テグラ・ロルーペ氏、2000年シドニー五輪の女子マラソン金メダリスト高橋尚子氏の二人が披露した、スポーツによって世界を変える試みは、会場から大きな拍手をもって迎えられました。

アフリカの人々にとってのスポーツ像や、JICAによるアフリカでのスポーツ分野の活動も紹介され、健康、教育、弱い立場にある人も社会に取り込もうという社会包摂的目標への貢献と同様、女性や若者、個人やコミュニティの能力強化など、スポーツがアフリカの開発に大きく貢献することを再確認したイベントとなりました。

SDGsでも認められたスポーツの力

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スーダンでレスリングの指導に当たる青年海外協力隊員
写真:JICAスーダン事務所

「開発」と「スポーツ」。一見関連のなさそうな二つのトピックが、今、注目を集めています。スポーツが社会の進歩に果たす役割が認められ、開発におけるスポーツの力が注目されるようになったのです。

たとえば、2015年に国連総会で採択された、2030年までの国際社会の開発目標「持続可能な開発(SDGs)のための2030アジェンダ」にも、開発課題の解決にスポーツが役立つことが明記されています。

JICAは、スポーツそのものの普及・振興活動をはじめ、体育教育支援、社会的弱者の社会参加の拡大、国や地域の平和促進、スポーツ競技力向上などを目的に、スポーツ分野でさまざまな事業を展開しています。アフリカ地域も例外ではありません。8月27日、横浜市で開催されたTICAD7にあわせて、世界銀行、フランス開発庁(ADF)と共にサイドイベントを開催し、アフリカの開発に果たすスポーツの役割について、さまざまな見解を共有しました。

難民や女性の可能性の扉を開いた

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「テグラ・ロルーペ平和基金」が主催するPeace Raceの会場で選手たちに声をかけるロルーペ氏
写真:Tegla Loroupe Peace Foundation

サイドイベント「アフリカの開発に果たすスポーツの役割」では鈴木大地スポーツ庁長官が開会の辞を述べ、開発途上国をはじめとする世界100カ国、1,000万人以上を対象に日本政府が進める、スポーツを通じた国際貢献事業「Sport for Tomorrow」を紹介しました。

続いて、スポーツによって世界を変える試みにチャレンジしてきた世界的に著名な二人のアスリートが、自らの活動を紹介しました。

ケニア出身で元女子マラソン世界記録保持者のテグラ・ロルーペ氏は、世界各地のレースで獲得した賞金を基に「テグラ・ロルーペ平和基金」を設立し、ケニアを含む東アフリカ地域の難民や女性のマラソン参加を支援しています。そして、団長として史上初の「難民選手団」を率いて、2016年リオデジャネイロ五輪に参加しました。ロルーペ氏は、こうした経験を踏まえて「スポーツは女性や難民にとって、可能性の扉を開くものだ」と語りました。

人材を育てるスポーツ

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タンザニアでランニング指導を行う高橋尚子氏
写真:JICAタンザニア事務所

2000年のシドニー五輪の女子マラソンで金メダルを獲得し、現在JICAのオフィシャルサポーターも務める高橋尚子氏は、2009年から毎年、日本でサイズの合わなくなった靴を集めてケニアのスラムの子どもたちに贈る「スマイルアフリカプロジェクト」を進めています。

靴を贈るだけでなく、現地でランニングイベントも開催している高橋氏は、「スポーツを通じて子どもたちが夢や目標を持ち、周囲の大人たちも、その夢を支えるためにボランティア活動に積極的に参加するようになるなど、スポーツが人材育成に貢献している」と、スポーツの持つ力を力説しました。

ロルーペ氏と高橋氏は、シドニー五輪でライバルと見なされた好敵手同士でもあります。女子マラソンの一時代を担った二人の力強い発言に、会場からは大きな拍手が沸き上がりました。

アフリカの開発に果たす役割を再確認

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イベントでは官・民・市民社会が連携して行っているフランス開発庁の取り組みも紹介された
写真:JICA青年海外協力隊事務局

リベリアのトゥロコン・カプイ国務大臣は、スラムで育った元プロサッカー選手である自国のジョージ・ウェア大統領を例に挙げ、「スポーツはアフリカにとって宗教のようなもので、若者にとっては成功に至るチケットである」と、アフリカの人々にとってのスポーツ像を紹介しました。

JICAの加藤宏理事は、教育の一要素としてのスポーツ、社会的統合や女性、障害者の社会参加のツールとしてのスポーツなど、スポーツの持つ幅広い可能性に触れ、紛争が続く南スーダンでJICAが取り組んできた国民間の融和を促進する全国スポーツ大会開催支援やタンザニアで行ってきた女子陸上競技会の開催支援など、近年JICAがアフリカで取り組むスポーツ分野の支援を紹介しました。

世界銀行のハフェズ・ガネム副総裁による「人材育成、ジェンダー平等、社会的統合の促進などにより、スポーツがアフリカの開発に寄与することを確信した」という閉会の辞に象徴されるように、アフリカの開発にスポーツが果たす役割を再確認し、今後の取り組みに弾みをつけるイベントとなりました。