サイドイベント「アフリカの未来を創るこれからの教育」

成長するアフリカの子どもたちに質の高い基礎教育を

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「エジプト・日本学校」の学級会。子どもたちの主体性、社会性を養おうと、エジプトに日本式の教育が導入されている
写真:Tatsuya Mitsuishi

アフリカでは、現在12億5,600万人の人口が2050年には25億人に達し、その6割を15歳から24歳の人々が占めると予想されています。この人的パワーをアフリカの発展につなげるには、若者や子どもたちが質の高い教育を受けられることが必要になってきます。過去15年間でアフリカの初等教育就学率は大幅に向上しましたが、現在も地域全体の学齢期の子どもの約9割に当たる2億人が基礎的な学力を身に付けてないといわれています。

これまでアフリカの基礎教育改善を支援してきたJICAは、アフリカが必要とする基礎教育分野の具体的な取り組みを促進しようと、2019年8月28日、この分野で連携してきた世界銀行と共に、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)にあわせてサイドイベント「アフリカの未来を創るこれからの教育」を開催しました。

アフリカの発展を支える教育

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開会のあいさつを述べるJICAの北岡理事長

2050年には倍増すると見込まれているアフリカのマンパワーをアフリカの成長と発展につなげるために、基礎教育の重要性が認識されています。アフリカの地域機関であるアフリカ連合(AU)は、アフリカの長期ビジョン「アジェンダ2063」で、豊かなアフリカを実現するには、基礎教育(初等教育、前期中等教育)と就学前教育に対する継続的な投資が必要であるとしています。

JICAはこれまで教育へのアクセスの拡大、教育の質の向上、マネジメントの強化などを通じてアフリカの基礎教育改善に取り組んできましたが、8月28日、TICAD7にあわせて世界銀行とサイドイベントを共催し、アフリカ諸国の教育関係者と共にアフリカが必要とする基礎教育の在り方やドナーの役割について議論を深めました。

JICA理事長やJAXA理事が基礎教育の重要性を訴え

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基調講演を行うJAXAの若田理事

サイドイベントの開会あいさつに立ったJICAの北岡伸一理事長は、日本では明治時代の教育システムが近代化に大いに貢献したことに触れ、日本はそうした経験をベースに各国の文化とオーナーシップを尊重しながら協力を進めていることを説明。その例として、コミュニティーと一体で学校運営改善に取り組んでいる「みんなの学校プロジェクト」、日本式の学校教育を取り入れた「エジプト・日本学校」といったJICAの取り組みを紹介しました。

そして今後の基礎教育分野のJICAの目標として、特に就学前教育や女子教育に焦点を当て、3年間に300万人以上の子どもに質の高い教育を提供することを表明しました。

続いて、JICAの国際協力のパートナーで、アフリカでも衛星を活用して農業、森林・インフラ管理などの分野で連携してきた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の若田光一理事が基調講演を行い、今年10月、エジプトとルワンダが開発に携わった小型衛星を国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に輸送する予定であることを紹介しつつ、自らの幼少期の経験も踏まえて、アフリカの発展における基礎教育やSTEM(科学・技術・工学・数学)教育の重要性を訴えました。

就学率は向上するも学びの質に課題

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自国の経験の共有を提案したエジプトのシャウキー教育大臣

基調講演に続いて各国の教育関係者、イベントを共催した世界銀行、JICAがパネルディスカッションを行いました。参加者からは、アフリカでどのような基礎教育が求められているかについて次のような考え方が示されました。

「小学校の就学率は9割に達したが、教える側のスキル不足で理数科教育のレベルが低い。アフリカ連合(AU)のアジェンダを達成するには識字と計算力を身に付けるための基礎教育が重要」(ブルキナファソ/フランソワ・サワドゴ国民教育・識字省総局長)

「2012年までに就学率は劇的に向上したが、学びの成果も重視している。教育のためのインフラ整備、政府の能力向上、教員養成などに関しては世界銀行、ICT教育ではJICAの協力を得ている。基礎教育は高等教育とリンクさせていくことも重要」(ルワンダ/ユージン・ムティムラ教育大臣)

「学びそのものではなく、学歴を重視する親の意識を変えていく必要がある。『エジプト・日本学校』が子どもたちの学びに大きな変化をもたらしているので、この経験を他の国々とも共有したい」(エジプト/タレク・シャウキー教育大臣)

世界銀行と覚書に署名、基礎教育分野で連携深化を図る

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補習授業を受けるニジェールの子どもたち。地域、学校、行政が一体となって学校運営に取り組む「みんなの学校プロジェクト」はニジェールほか7カ国で展開中

サイドイベントでは「アフリカで求められる基礎教育」に加え、「アフリカの基礎教育のために、JICAや世界銀行をはじめとした国際協力機関ができること」についても話し合われ、各参加者から次のような示唆に富んだ意見が出されました。

「今後、就学前の教育が非常に重要になってくるが、ルワンダの自助努力による拡充には限界がある。このため、国際協力機関からの資金面での支援が必要である」(ルワンダ/サワドゴ総局長)

「日本の理数科教育支援はセネガルの教育全体の質の引き上げに貢献している。JICAとの連携深化を図りたい」(セネガル/セリーニュ・ンバイ・チャム教育のためのグローバルパートナーシップ副議長)

「アフリカ各国政府関係者や国際協力機関が集まり、各国支援の経験共有を目的とした会合を開催することにより、さらに効果的な教育開発が行えるのではないだろうか」(エジプト/シャウキー教育大臣)

「世界的に国際協力機関の間のパートナーシップを拡大していきたい」(世界銀行アネット・ディクソン教育担当副総裁)

「アフリカのパートナーが提示してくれた課題や視点は日本にとっても重要。世界はもはや先進国・途上国に二分できるものではなく、互いに学び合う必要がある」(JICA萱島信子上級審議役)

世界銀行とJICAはこれらの議論を踏まえて、より連携を深めてアフリカの学びの改善に取り組んでいこうと、イベントの最後に、就学前教育、小学校低学年の識字・算数、教師教育などの業務協力に関する覚書に署名しました。