ハイレベル・サイドイベント「移動を強いられている人々-連帯とパートナーシップの発展へ向けて-」

アフリカの難民の課題に国際社会はどう取り組むか

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当事者も含む登壇者が報告・提言を行ったパネルディスカッション

世界中で難民、国内避難民として故郷を追われた人は、現在、過去最高の7,080万人に上っています。その3分の1以上をアフリカ諸国が受け入れていますが、受け入れ国の負担軽減のためには、これを国際社会で分かち合い、支え合うことが重要です。

JICAは、2019年8月29日に第7回アフリカ開発会議(TICAD7)開催にあわせ難民支援のパートナーである国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)やアフリカ連合委員会(AUC)、国連アフリカ担当事務総長特別顧問室(UNOSAA)と共にハイレベル・サイドイベント「移動を強いられている人々-連帯とパートナーシップの発展へ向けて-」を開催し、アフリカの難民・国内避難民の課題解決のために国際社会がどのように取り組んでいくべきかを話し合いました。

イベントには難民受け入れ国の政府関係者、難民代表、難民を支援する民間企業も参加し、それぞれの立場から意見を交わしました。

国際社会は連帯とパートナーシップを重視

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JICAは地方行政の能力向上のための支援を行っており、難民受け入れ地域を含むコミュニティ開発実施体制の強化と地域における信頼醸成に貢献している
写真:Takeshi Kuno

2018年、国連は難民支援に関する国際的な枠組み「難民に関するグローバル・コンパクト」を採択しました。難民受け入れ国の負担軽減、難民の自立促進、第三国定住の拡大、安全かつ尊厳ある帰還のための環境準備に、国際社会全体として取り組んでいこうというアプローチです。

また、アフリカ連合(AU)も2019年を「難民、帰還民、国内避難民の年」と定めて、さまざまなイベントや活動を展開しています。

JICAは1990年代から難民支援を行ってきましたが、近年は難民受け入れ地域に対する支援、紛争予防・平和構築を通した難民を生まない環境づくりや難民の自立支援に力を入れています。

たとえば、120万人の難民を隣国のコンゴ民主共和国や南スーダンから受け入れているウガンダで、受け入れ地域の農家や難民を対象に稲の栽培技術を伝えているほか、地方自治体の開発計画に難民のニーズが取り込まれるよう協力しています。あわせて、日本は道路や学校、保健所など、難民受け入れ地域で優先度の高いインフラ整備も進めています。

今こそ国際社会は行動を

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国際社会の行動の必要性を訴えたJICAの北岡理事長

イベントの基調講演でJICAの北岡伸一理事長は、JICAの経験から難民の自立支援と和解のプロセスが重要であるとし「難民や紛争の問題は一国一機関だけで解決できるものではない。国際社会が連帯し、平和な国をつくろうとする当事者の『オーナーシップ』を支えることが必要。国際社会のメンバーとして、今、行動が求められている」と会場に呼び掛けました。

フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官(UNHCR)は「人道支援は、開発機関や民間、市民社会など新たなパートナーと連携し、革新的なアプローチを編み出し、一歩先に進む必要がある」と、人道支援と開発支援の連携や新たなパートナーを巻き込む必要性を訴えました。

自らも難民であった国連アフリカ担当事務総長特別顧問(UNOSAA)のビエンス・ガワナス氏は「統計の数字の裏にいる個人の『尊厳の旅』をサポートし、彼らがいつか故郷に帰ることができるよう、われわれは責任を分かち合わなければならない」と、力強く語りました。

受け入れ国や企業が難民支援の経験を共有

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ディスカッションでは当事者による力強いメッセージも披露された

基調講演に続いて行われたパネルディスカッションには、主催者に加え、難民受け入れ国の政府代表者、難民代表、民間企業が参加し、それぞれ支援の内容や状況を紹介し、今後の課題について話し合いました。

難民に移動の自由を認め土地を提供したりするなど「難民に寛容な国」として知られるウガンダのムサ・エチュウェル首相府災害対策・難民担当副大臣は「難民を受け入れることは倫理的役割であり、国際社会が分かち合うべき責務と考えており、ウガンダは革新的な政策を実施している。また、難民は受け入れ社会にとって負担ではなく、さまざまな貢献を果たしている」と、自国の政策について語りました。

ケニアの銀行、エクイティバンク・ケニアは、国内に居住する難民の口座開設や金融サービスへのアクセスを支援しています。同行のアラン・ワイティトゥ特別プロジェクトディレクターは「口座は金融サービスへのアクセスポイントとしても機能するので、難民自身の経済機会拡大につながる。われわれは彼らを将来の顧客として考えている。また、民間セクターが難民支援でさらなる役割を担えるような政策も必要だ」と、企業としての取り組みや考え方を発表しました。

当事者が教育や自立支援の大切さを訴え

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ウガンダでJICAが実施中のコメ振興プロジェクト
写真:Takeshi Kuno

ウガンダに暮らす南スーダン難民を代表して参加したスーザン・グレイス・ドゥクー氏は、7歳で南スーダンからウガンダに逃れ、一度帰国しましたが、再度難民として国を出ざるを得ませんでした。「自立した生活を送るために試行錯誤しながら道を切り開いてきたが、難民にとって教育や自立支援は非常に重要なものだ。そして難民は受け入れ国やコミュニティにとって負担ではなく、財産にもなり得ることを理解してほしい」と訴えました。

JICAの花谷厚平和構築シニア・アドバイザーは「JICAのような開発機関が難民支援に関与する際には、国家開発計画に難民問題が盛り込まれるよう支援することが大切だ。また、難民問題の根本的解決には紛争発生国の平和が欠かせない。開発機関も強靱な国家建設を通じて平和構築に貢献することができる」と述べました。

日本在住の難民に日本語を教えるボランティアをしている高校生が「日本で人道的なスピリットを広めるにはどうしたらいいか」とパネリストに問いかけると、グランディ高等弁務官が「実際に難民に会えば『難民は脅威であり負担だ』と考える人の意識は変わる。活動を通じて得たあなた自身の経験を、どんどん周囲に伝えていってほしい」と応じる場面もありました。