サイドイベント「アイデアからアクションへ:アフリカ×科学・技術・イノベーション(Science, Technology and Innovation: STI)」

STIが担うアフリカの未来

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会場も巻き込みアフリカでの起業成功の秘訣を探ったイベント第2部のパネリストたち

今アフリカでは、先進国がたどってきた発展過程を一跳びで超える「リープフロッグ」(かえる跳び)と呼ばれる、飛躍的な発展が起きています。この現象をもたらしているのが科学技術イノベーション(STI:Science, Technology and Innovation)です。

国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の目標年は2030年ですが、国際社会は、アフリカでSDGsを達成するためには、企業や政府など官民が連携してSTIによる社会変革を進める必要があると指摘しています。

このSTIのパワーをアフリカの開発と課題解決に生かそうと、JICAは第7回アフリカ開発会議(TICAD7)にあわせて2019年8月29日、世界銀行、国連開発計画(UNDP)と共にSTIをテーマとしたサイドイベントを開催しました。

求められる「共創」や「人材育成」支援

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400名以上の参加者で熱気にあふれた会場

イベントには、JICAなど開発機関のほか、アフリカの政府高官、STIを活用してビジネスを展開するアフリカ企業や日本企業も加わり、400名を超える参加者が活発な議論を展開しました。

第1部では、政府や開発機関に求められる役割について話し合われ、企業や学術機関などさまざまなアクターによる共創と、それを支える人材育成やシステムの改善などの必要性がクローズアップされました。

ICT立国政策で知られるルワンダのポーラ・インガビレICT・イノベーション大臣は「政府が国外の世界レベルの学術機関と連携することで技術の蓄積を図っている。また、中小企業の人材育成も積極的に行っているが、この部分で世界銀行やJICAの支援をいただいている」と自国の政策と開発機関の支援について紹介したほか、UNDPのアフナ・エザコンワ総裁補兼アフリカ局長は「STIは民間が主導するものだが、政策や環境構築に関して政府の役割は今後も欠かせない」と政府の役割の重要性に言及しました。

JICAがSTIオープンイノベーション・プラットフォーム構想を披露

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オープンプラットフォームについて説明する越川副理事長(右端)

これまでに、アフリカの若者を日本に招き産業人材の育成を目指す長期研修プログラム「ABEイニシアティブ」の研修員120名を留学生として受け入れている神戸情報大学院大学。同校の福岡賢二副学長は、特にルワンダからの留学生が多く、すでに40人に上ることを紹介。「安倍首相がTICAD7の開会式スピーチでも触れたレイモンド・ンダイサバ氏など、本学卒業生の活躍は目覚ましい。ルワンダのモデルを他国でも発展させていきたい」と、抱負を述べています。

JICAはこれまで日本企業と連携してSTI分野の事業を行ってきていますが、現在2020年度の稼働をめどに、今までの取り組みを拡大する「STI for TICADオープンイノベーション・プラットフォーム」の構築を進めています。会場でプラットフォームを紹介したJICAの越川和彦副理事長は「JICAが触媒となりアフリカの社会課題解決にさまざまなアクターと協働して取り組んでいく」と、決意を表明しました。

オープンイノベーションが不可欠

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国内のアイデアソンを勝ち抜いた高専生がケニアのスタートアップ企業と農業分野の課題解決に挑んだ

イベント第2部の冒頭で、JICAは2件のオープンイノベーション(新技術の開発に組織の枠組みを越えて知識・技術を結集させる試み)の事例を紹介しました。

エチオピアでスタートアップ・エコシステム(創業間もない企業を成長させ事業を加速する仕組み)構築支援に取り組む不破直伸専門家は「これまでビジネスコンテスト、起業家トレーニング、エチオピア政府への政策提言を行ってきた。今後はアフリカの他地域でも同じような取り組みを展開し、いずれはアフリカ全土でイノベーションを起こす活動を進めたい」と報告。

アフリカと日本でオープンイノベーションイベントを通じて、日本の高等専門学校(高専)と共に現地の課題解決に取り組む櫻井理JICA調査総括は「これまでと同じビジネススタイルでは、アフリカではSDGsを達成できない。革新的なアイデアを生むにはオープンイノベーションが重要だ。これからもより多くの高専の若者と共にアフリカの課題解決に取り組んでいきたい」と抱負を語りました。

イベント参加者と起業成功の秘訣を探る

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ナイジェリアでは高専生が現地スタートアップ企業と共に水道分野の課題にチャレンジしている

JICAの事例発表に続いて、アフリカのデータ整備・利活用を目指す丸紅の市場業務部経済協力チーム長の栗原聖之氏、ルワンダICT商工会議所会頭のアレックス・ンタレ氏、リアルタイムで勤怠管理・給与計算を行うサービスを提供し社会貢献を目指すドレンミング代表取締役会長の高崎義一氏、起業家支援のためのテックハブを45カ国で運営するアフリラボ理事長のレベッカ・エノンチョン氏、ビジネスによるアフリカの開発課題解決を試みる起業家にコンサルティングサービスを行うダブル・フェザー・パートナーズ代表取締役の武藤康平氏、ルワンダで世界標準のソフトウエア開発人材育成に取り組むアンデラルワンダ代表のクレメント・ウワジェネザ氏の6名のパネリストが登壇。スタートアップ企業やファンドの立場から、アフリカでの起業成功の秘訣について会場の参加者も交え議論しました。

日本企業からは官民連携の基金やプラットフォームの必要性も提起される中、会場とのやり取りでは「海外から投資を呼び込むには投資先の財務・会計情報の開示が求められる」「優秀な人材の国外流出の問題はあるが、中長期的に見て将来アフリカのためになるなら歓迎すべきでは」「現地の投資・ビジネス環境の整備には公的機関による取り組みも必要」「日本の若い起業家は現地情報や人材ネットワークを持っていない。アフリカの起業家と日本の企業家をつなぐ必要がある」など、多様な意見が交わされました。