Interview 12 平野 耕志さん(静岡県掛川市上内田出身)

現在の所属先:体験学習農園キウイフルーツカントリーJapan
青年海外協力隊 ザンビア 村落開発普及員(現コミュニティ開発)(2012年3月~2014年3月)

JICA海外協力隊への応募のきっかけは何でしたか?

私は、日本キウイのパイオニア農園の次男で農業高校を卒業し、「耕す志」という意味が込められた名前です。農家になるために生まれてきたような名前ですが、20代の頃は日本の農業に目的を見出せずにいました。自分が納得できる農業を学ぶためにアメリカに渡りましたが、理想と現実を目の当たりにし、悩みは深くなっていくばかりでした。

そんなとき、実家の農園で受け入れている海外研修生のことを思い出しました。彼らはみな真面目でとてもやる気があり、情熱を持って農業に取り組んでいます。「彼らのような人にもっと会いたい、さらに社会的に人を助けるようなことをしたい」と思いJICA海外協力隊への参加を決意しました。

JICA海外協力隊としての2年間は、どのような活動を行いましたか?

私が派遣されたのはザンビアの首都ルサカ市です。一年目は国際協力NGO「AMDA-MINDS」で活動し、二年目はAMDA-MINDSの連携先である保健省に移りました。主な活動場所は「コンパウンド」と呼ばれる低所得者層が住む地域で、HIVや小児結核の予防啓発が仕事でした。一見農業と関係なさそうですが、HIVや結核は体の免疫力が低下することで悪化します。野菜や果樹栽培を通じて栄養指導・収入確保の援助などをすることが私の役目でした。

しかし、農作物の販売だけで収益を得るのは非常に難しいのが現実で、養鶏や養殖、キノコ栽培を通じた循環型農法を確立することで、低コスト化と安定収入の確保を目指しました。また地元種苗会社との連携を行い、新品種のモデルファーム活用を行い、経費をかけない地元連携型の農地活用も行いました。

そして農業以外にも洋裁教室、駐車場経営などにも挑戦し、事業管理やマーケティングもサポートすることで月の収入が3倍になった農家が増え、地域に還元できた気がしました。

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ザンビアでの活動写真

任期を終えて帰国した後、現在のお仕事を選んだ理由やそのお仕事に巡り合うまでどのような道をたどりましたか?

帰国後は就農し、実家の農家を引き継ぎました。その理由は、協力隊での経験が大きく影響しています。ザンビアでは現地の住人たちとよく食事を共にし、八歳の少女が、放し飼いにしている鶏を自分で捕まえ、捌き、調理し、感謝しながら食べます。その姿に衝撃を受けながらも、ザンビアの子どもたちの「生きる強さ」を感じました。そういった子ども達を見る中で、日本の若者の「生きる強さ」の必要性を感じました。例えば、牛乳がどこからくるかわからない子どもたちや、火がきれいで触ってしまいやけどしてしまう子どもたちと日本で出会いました。もし世界規模で大きな災害がくれば、日本はもしかしたら生き抜いていけないのではと感じ、日本の子ども達を育てるために、体験型の農園を営むことを選びました。

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農園の写真

JICA海外協力隊として過ごした2年間で経験したこと、それらの経験から学んだことで、今の仕事や人生に役立っていること影響を与えたことなどありますか?

ザンビアの子どもたちは「命をいただく」という食の本質を、日々の生活の中で身をもって体験しています。その姿を見て、今の日本に必要なこと、自分が将来何をすべきか見えてきました。

「開発途上国で農業を伝えることも大切。でも今は日本で、農業を通じて『生きる力』を教えるべきではないか。」そう考えた私は帰国後、改めてキウイ農園に戻りました。

だが、日本ではお金を出してまで農業体験・自然体験をしたい人が少ないのが現実です。そこでヒントにしたのが、ザンビアの友人たちの生活でした。ザンビアでは、畑は人々の交流の場で、ちょっとしたアイデアで、畑は美容院や教会、レストラン、ダンス会場などに姿を変えます。その発想を取り入れ、農園でナイトヨガや餅つき、音楽イベント、結婚式、青空美容室などもチャレンジしてみました。農園が、ただ農作物を作る場所ではなく、みんなが集まる場所として変わり始めました。今は若者にもっとアプローチするため、学生たちと一緒に地域の社会問題を考える修学旅行を行うなど、さまざまな切り口に挑戦しています。

「物事の本質が損なわれると、農業や地域がより衰退してしまう。また、将来大規模な災害が起きたときに『生きる力』がないと日本は生きながらえることができないかもしれない。こういった社会問題を少しでも改善できる職業が農業(農家)なんだ」と、改めて気づかされました。

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イベントの写真

JICA海外協力隊として「海外の開発途上といわれる国が抱える課題にボランティアとして取り組むこと」と、「日本の自分が育ってきた場所や住んでいる地域の課題に取り組み元気にすること」は遠いように感じる人もいらっしゃるかもしれませんが、共通する点を教えてください。

共通していることは、国内外の場所の差異は感じず、ただ守りたいものや好きなことのために活動していることではないでしょうか。守りたいものや好きなことは、海外での経験で見えてくると思います。自分たちが何をして生きたいか定まると人生は本当に楽しく感じることができます。

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帰国後に農業専門家としてマダガスカルへ訪れた写真