独特の固有文化を持つ国、パプアニューギニア (Sylvester ROKUMANさん - 第1回)~JICA長期研修員へのインタビュー~

【写真】Sylvester ROKUMANさんJICA長期研修員(大学院留学生)・名古屋工業大学大学院工学研究科 所属(研修コース名:SDGsグローバルリーダーコース2019)・パプアニューギニア国 出身
Sylvester ROKUMANさん

今回はJICA研修員として、名古屋工業大学大学院工学研究科に留学しているSylvester ROKUMAN(シル)さんに4回シリーズでお話を伺います。 (聞き手:JICA中部 研修業務課)

シルさんは美しい島、独特の固有文化も持つパプアニューギニア国(PNG)の出身ですね。来日してから改めてPNGの魅力やありがたさを感じることはありますか?

日本には2015年、パプアニューギニア国(PNG)政府職員として来ましたので、その文脈でお答えしますね。

PNGは開発途上国で、特にインフラ設備や管理システム、技術の面では、日本のように発展しているわけではありません。そのため来日して、日本の歴史についてや、日本が年月をかけて、どのようにここまで発展してきたのかを学ぶことは、グローバルな観点からも私の日本やPNGに対する視点に対して、人生を変えるようなインパクトがありました。長年、日本が乗り越えてきた困難、そして、その困難にどう日本が打ち克ってきたのかを学ぶことには、多くの教えがありましたし、その学びは母国PNGに持ち帰ることができます。

日本で直面したほぼすべてのできごとにおいて、重要だなと感じた時には、いつも自分の中で、これがPNGで起きていたらどう思うだろうか、と心の中でさっと比較をしていて、また、機会があれば、自分のその考えを同僚やパートナーたちといつも話し合っていました。日本では多くの経験をしましたが、特に自国について考えさせられた学びとしては、ありきたりですが、以下の二つがありました。

陸稲畑で稲に病気がないかを調べる農民
写真提供:今村 健志朗

1.生活様式一般
PNGは「太平洋的な」穏やかな暮らしぶりで、基本的には、生きていくために働いているため、自分たちの暮らしや制度を発展または改善させるために働く、といったことはあまりありません。これは70%以上の人口が地方に住んでいることからも言えるかと思います。この暮らしぶりは、主に田舎のような地域での話とはいえ、その影響は、現代の都市や街の生活様式にも及んでおり、その伝統的な生活と近代的な生活が融合された生活様式では、時に自然と相容れないこともあります。例えば、田舎では、狩りや漁に出たり、穀物の収穫や家庭菜園、家を建てる等の労働以外、どうしても必要がなければ、一生懸命働くことはしませんが、都市や街では、「仕事」につき、その特定の仕事を一生ずっとする傾向があります。この都市での生活と日本での生活を比べると、日本はとても近代的で忙しく、また、転職や昇進など働いている人たちの動きが活発ですね。

2.行政制度一般
PNGの行政制度は主にオーストラリアに影響を受けており、つまり、英国式の行政です。800以上にものぼる言語を持つPNGの多民族性を考えると(昨今は人口も増えていますし、また、最近の流行でもある多様性の維持に賛同していることもあり)、英国式の制度は現在のPNGには適していないことが顕著になってきています。この点では、日本がどのように行政制度を改善し、発展させてきたのかを知ることには、多くの学びがあり、自国に戻った際には、応用することができると思っています。実は過去に一度、自国への応用は難しいな、と思ったこともあったのですが、振り返ってみれば、PNGでもその独特の多様な文化や環境、人々に合わせた行政制度へと、応用することはできるのではないかと確信できるようになりました。

まとめますと、来日後は、PNGは日本と違って、非常にユニークで多様な文化や環境があることに(それはいいところと少しの悪いところの両方が同時にあるのですが)気づき、ありがたさを感じました。大変豊かな天然資源を有している、つまり、国が持続的に成長していくために必要なすべてのものがある、というPNGの環境を考えれば、一度すべての制度が整ってしまえば、PNGにはポテンシャルがあるのだと考えています。PNGは日本と同様、島国で、その多様な文化や伝統を守り抜いてきました。また、PNGも財貨・サービスの輸出入に依存していますが、これは適切な措置が講じられれば、成長する可能性があるということでもあります。つまり両国には、分野横断的な類似点が多くあるので、日本のように成長すべく、PNGは日本に多くのことを学ぶことができるのです。

現在、JICA中部ではPNGも含む企画展・パネル展の“Story of the Pacific Islands-太平洋の島をめぐる旅-”が開催されています(2021年3月11日~7月11日)。先月末にも連動イベント「太平洋の島国から学ぶ!健康について考えよう」(2021年6月27日)が開かれましたが、シルさんはPNG独自の健康法を何かされていますか?

ゴロカ市内のマーケット
写真提供:今村 健志朗

残念ながら、PNGでは医薬品の製造はしていないこともあり、その意味ではあまり話せることはないのですが、PNGでは医薬品の代わりに薬草に頼っているところがあります。この知識は世代を超え、先祖代々受け継がれ、知られています。

ここでは、是非私が、過去、毒蛇にかまれた3人を(3回とも別々の時期に起こった話ですが)、病院に連れてはいけない状況だったので、どのように助けることができたかについてお話したいと思います。実際、この方法が科学的に証明されているかどうかはわかりませんが、効果自体はあったので、私としては信じているものです。

猟師として育った私は、病院には行けないような森などの場所で、毒蛇にかまれた際には、どのように対処すべきなのかを教えられてきました。(どんな木でもいいですが)焼けた木からできた(木)炭をつめた小さな袋、鋭利なナイフ、ナイロンロープ、そして、マンゴーの木から採った樹皮(正確にはその下の内側の皮)をいつも持ち歩いていました。蛇に噛まれたときには、通常、上の歯2つ、もしくは下の歯2つを含む4つの噛み跡が残ったりします。
そのため、ナイロンロープは、毒が心臓に回らないよう、もしくは循環を遅くするため、どこの部分が噛まれたかにもよりますが、噛まれた場所の上か下の身体の部分を結ぶために使います。鋭利なナイフは、蛇に噛まれた皮膚や筋肉の部位を切るのに使います。噛まれて毒が回ってしまっている場所の血は出すようにし、すべての噛み跡部分もうまく切るようにします(私は個人的には交角に切るのが好きですが)。
その後、傷部分には炭を強く押し当て、炭に毒素が吸収されるのを待つ間、噛まれた人はマンゴーの樹皮をかんだり、吸ったりして待ちます。炭が傷部分からポロポロと取れてくれば、毒素を吸収したことになります。噛まれた人が体を動かす前には、マンゴ—の樹皮をかみつつ、新しい炭を使って、この手当を再度行い、毒素が取り除かれているかを確認します。(次回に続く)

※今回は映画のワンシーンのような話までお聞きしましたが、次回は、シルさんがなぜ日本に来ることを決めたのかについて伺います。お楽しみに!