「三重県・熊野と世界を繋ぐハブに」

【写真】井上 結子さん irokuma 代表
井上 結子さん 

JICA海外協力隊(村落開発普及員)としてボツワナで活動後、現在は三重県熊野市で古民家を活用した宿の運営と、子ども向けの自然遊び企画から地域を盛り上げる井上結子さんにお話を伺います。

はじめに、自己紹介およびの現在の活動について教えてください。

はじめまして。私は、2011年~2013年に協力隊(村落開発普及員)として、ボツワナで活動をしていました。日本へ帰国後は、2017年から縁あって三重県熊野市に移住し、現在は古民家の自宅を活用した宿の運営と、子ども向けの自然遊びを主とした旅行商品の企画運営をしています。

井上さんご自身が国際協力に関心を持ったきっかけ、またこれまでのご経験についてお聞かせください。

とにかく世界を自分の目で見て体験して視野を広げたい、人の役に立つことをしたい、という漠然とした憧れを高校生のころから持っていました。世界に出ていくための語学力をみにつけるため大学は外国語学部に進み、2年生のときに初めて海外ボランティアプログラムに参加したりバックパッカーの旅を重ねたりするうちに、まだ知らない世界を見てみたいという意欲がどんどんと高まっていきました。青年海外協力隊に参加するタイミングとしては、社会人としての経験もコミュニケーションに役立つだろうという思いから、会社に勤めながら休職をして参加するタイミングを選びました。大学卒業後は自動車部品のメーカーで営業職をしていましたが、協力隊へ応募することを理解してくださり、現職での参加を後押ししてくださった上司や会社の皆さんに本当に感謝しています。

現地ではどのような活動をしていましたか?

モクビロ村の女性とクラフト制作をする井上さん

乾燥した平原に囲まれたモクビロという小さな村に住み込み、村の女性たちと現金収入のためのクラフトづくりに取り組んだり、他隊員やアメリカのボランティアと協力して健康促進イベントやお裁縫セミナーを行ったり、村に図書館を作るプロジェクトを手伝ったり、村の小学校と協力して日本の絵画コンクールへ応募したり、村の人の「やってみたい」の芽に少しでも貢献できることを探してとにかく何でも取り組みました。
また、赴任期間中に第5回アフリカ開発会議(TICAD V)が横浜で行われた際、そのなかのイベントに村の女性たちと電話で遠隔出演し、村の女性たちが訪日中のマシシ大統領府公共政策担当大臣と会話しながらクラフトづくりの活動を発表する機会をいただきました。

活動で大変だったこと、楽しかったこと、学んだこと、やりがいなどを教えてください。

一番苦しんだことは、言語を理解できないことです。ボツワナは英語とツワナ語(ツワナ族の言葉)が公用語ですが、モクビロ村のほとんどの人たちは英語が得意ではありません。ツワナ語や他部族の言語を現地の生活のなかで学びながら習得するしかありませんでしたが、片言でのコミュニケーションでは限界があり、一歩踏み込んだ関係性を築くのにとても苦労しました。一方で、伝えたいことをあきらめずに伝え合うことの大切さを学び、理解し合えた瞬間に少しずつ心が近づく喜びを実感しました。
楽しかったのは、村の子どもたちと過ごす時間です。たった2年間で私が村の方々の生活に貢献できたことは微々たるものだと思いますが、毎日村を歩き回り挨拶をかわすなかで、人生で初めて関わり合う外国人が私だという子どもたちにとって、彼らの人生に少しでもポジティブな刺激を与えることが本当の任務かなと考えるようになりました。彼らがはにかみながら話してくれる片言の英語と、自慢げに見せてくれるお絵描き、地面に書いて復習したアルファベット、誰からともなく始まる歌とコーラス、体全体を震わせるダンス、貴重な雨が降ると「PULA!!!」と飛び出してきてはしゃぎながら体中に雨を浴びる姿、遠くから「レセホ~!」(村でつけてくれた私のツワナ語の名前)と呼んでくれる声が忘れられません。

帰国後の今、どのようなお仕事/ご活動をされていますか?また、そのお仕事/ご活動を始められたきっかけを教えてください。

熊野市で運営する古民家宿にて

熊野の大自然の中で子ども達がのびのびと育つように!

2017年から縁あって三重県熊野市に移住し、現在は古民家の自宅を活用した宿の運営と、子ども向けの自然遊びを主とした旅行商品の企画運営をしています。熊野の自然や人や空気感がとても好きになったので、自分の取柄である外国語も活用しながら、お世話になった方々に恩返しをして住み続けたいと考えていた折、素晴らしい古民家が借りられるご縁をいただき宿をはじめることを決めました。今後は外国のお客さんにもたくさん利用いただけるように工夫していきたいと考えています。

一方で、海も山も岩も川も綺麗で最適な自然の遊び場がそばにありながら、地元の子どもたちを含め子どもたちが思いっきり遊ぶ機会や場所があまり無いと感じていました。自然環境に対する子どもたちの関心が低くなってしまえば、自然とうまく付き合えず、いつか熊野が災害にのまれてしまうのではないかという危機感を私自身が持つようになりました。そこで、まずは子どもたちが自然のなかで思いっきり遊び、「自然のなかで遊ぶのは最高に楽しい!」と喜んでもらえるようなツアー商材を企画するようになりました。現在はまだ駆け出しで四苦八苦していますが、地域の仲間と連携しながら事業を定着させ、「楽しい」を共通言語に熊野の中と外をつないでいければと思っています。

協力隊中の経験が今のお仕事/ご活動にどのように生きていますか?

協力隊としてモクビロで過ごした2年間で、子どもと関わることの楽しさや面白さを知りました。熊野に来て、学童保育で働く経験もさせていただき、子どもの可能性や面白さを日々実感しています。これは、協力隊に参加するまでの私の人生では起こりえなかったことで、ましてやそれを事業にしていくとは考えたこともありませんでした。また、少しですが、「なんとかなる」とどっしり構えることができるようになったように思います。

今後の展望をお聞かせください!

熊野と世界を繋ぐハブになっていきたいです。
宿も自然遊びの取り組みも、熊野と外をつなぎ、面白い出逢いの場になったり「楽しい」を倍増するためのサポート役になったりしていきたいと考えています。自然遊びを通じて熊野の子どもにも大人にもこの環境の素晴らしさに気づいて欲しいし、それを求めてやってきてくれる外の人と交わることで新たな気づきを得られる機会を提供したいです。また、地域の方々も集える宿を目指すことで、熊野の子どもたちがリアルな「世界」との出逢いを楽しめる機会を企画していきたいです。
どの事業もまだ始まったばかりで抽象的な目標が先行してしまいますが、地に足をつけた事業を継続させ、こんな大人・働き方もありかなって感じてくれる子どもが増えていけばいいなと思います。