【実施報告】多文化共生に向けて教育ができること-第2回国際教育研修会-

2023年3月16日

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2023年3月4日(土)の13時から16時30分、教育の視点で多文化共生を考えるセミナーをオンラインで開催、教員や学生、日本語ボランティアなど様々な立場の方が28名ご参加下さいました。
地域の国際化にともない、学校にも外国につながる児童生徒が増えています。また、多様な社会のあり方や異文化理解など、外国人住民から日本人が学ぶことも多くあります。
多様性が尊重される地域社会をどうつくっていけば良いのか、それぞれの現場で活躍されるゲストから「教育」をキーワードにお話を聞き、参加者間の意見交換も行いました。

教育の現場から考えるグローバル・多文化社会

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ディスカッションをはさんだ恒吉僚子先生の講義

最初にお話頂いたのは、文教学院大学副学長・特任教授であり、東京大学名誉教授の恒吉僚子先生。グローバル・多文化社会の観点から考えた日本の教育をテーマにご講義頂きました。
日本の教育は同質であることを前提に制度化されています。全員が同じことをし、全員ができるようになることを目指す教育制度とそこから発生する諸問題について、体育や音楽の授業といった身近な事例から解説して下さいました。この話を受けて、参加者はブレイクアウトルームを使ってグループごとにディスカッションを行いました。恒吉先生から出されたディスカッションのテーマは「『現実には”同質性前提“は崩れている。しかし、仕組みとしては残っている』のか、または『現実でも”同質性前提“は機能している。』のか」。そして「異質な子どももそれぞれが輝ける基準とは?」。参加者はそれぞれが経験した具体的な事例をもとに意見を交わしました。
次に恒吉先生が取り上げたのは「グローバル化も多文化化もピンとこない、という日本社会の現状の中で、『他人事』から『自分事』へするにはどうするべきか?」というテーマでした。ここでは、家族で海外に渡り、マイノリティとして異文化の中で暮らした恒吉先生自身のご経験も交えてお話下さいました。そして参加者は、「どうすればグローバル化、多文化にピンとくる子どもになると思うか」という2つ目のテーマでディスカッションを行いました。

学校ができること、地域ができること、一緒だからできること

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日本、台湾それぞれの取り組みをお話下さった原野佳奈先生

後半はそれぞれの現場で課題に取り組む2名の方に、事例を基にお話頂きました。
原野佳奈先生は2017年度JICA中国の教師海外研修に参加され、現在は広島市立基町小学校で外国につながる児童と日々接しています。また、台湾の日本人学校へ勤務された経験もあり、それぞれの学校で取り組んでいる多文化教育の事例をご紹介下さいました。母国日本から転居して異文化の中で暮らす児童や保護者と台湾で接し、現在は、広島で言葉の問題や日本社会特有の文化に戸惑う児童と保護者に関わる原野先生の経験に基づくお話は、とても具体的で分かりやすい内容でした。参加者からは「地域性を踏まえて行われる、いきいきとした教育活動のリアルをお聞きすることができて心が明るくなった」、「母国を大切にするべきというのは、まさにそうだなぁと、強く共感した。原野先生の小学校では、母国を大切にする取り組みが行われていることを知り、とても素敵だと感じた」といった感想が上がりました。

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市民団体の立場からお話下さった胡子和子さん

胡子和子さんは、青年海外協力隊の日本語教師として活動された経験があります。現在は、広島県江田島市で「一般社団法人広島地域資源ネットワーク(広島ベイネット)」を立ち上げ、代表として多文化共生だけでなく地域活性化にも取り組んでいます。江田島に暮らす外国人の国籍や在留資格といったデータをふまえ、地域での日本語教育に携わる経験をふんだんにご紹介下さいました。市民団体として活動する上での課題や学校を含めた公的機関との連携の現状と可能性など、長年活動されている現場の方ならではのリアルなお話に、参加者から多くの質問が出されました。また、「NPOの皆さんが担っている役割の重要性を再認識できた」といった感想も上がりました。

地域の多文化化に伴って学校現場に求められる教育の多様性、グローバル教育の促進は、決して教員だけが考える使命ではなく、地域全体で取り組む課題になっています。これまで主に教育関係者を対象に行ってきたJICA中国の国際教育研修会ですが、このような背景から、ご所属や年齢、立場を超えてすべての人に「市民」としてご参加頂きたい、そして講師や参加者とともにJICAも一緒に考えていきたい、という趣旨から、今回の研修会を実施しました。
JICA中国は地域で活躍する皆さんと連携しながら、私たちにできること、私たちにしかできないことは何かを考えながら、中国地方のより良い外国人材の受け入れ、多文化共生の課題にも取り組んでいきます。