【実施報告】2020年度JICA中国 開発教育教員研修アドバンスコース フィールドワーク(島根県出雲市)

2020年10月26日

島根県出雲市の外国につながる子どものサポート

ハロウィーンイベントに参加する先生

運営委員の方からお話を伺いました

10月10日(土)、2020年度JICA中国 開発教育教員研修アドバンスコースの3回目となるフィールドワークを実施しました。
今回も広島県の小・中・高校から5名の先生が参加され、川崎医療福祉大学の山中信幸教授にも同行頂き、多文化共生が進む島根県出雲市を訪問しました。
最初に訪問したのは出雲市塩冶地区。市内でも特に外国につながる児童の多い地域です。
月1回、児童と保護者を対象にしたイベントが開催されており、当日は華やかなハロウィーンイベントを見学しました。
ゲームには研修参加の先生方も加わり、子どもたちと触れ合う機会もありました。このイベントを主催した「塩冶地区放課後子ども教室運営委員会」は、通常は週3回、地域の小学校で、国籍を問わずすべての小学生を対象にした放課後教室を運営しています。
イベント終了後には、運営スタッフの方からお話を伺いました。
外国人労働者の多い出雲市では、外国につながる子どものサポートも先駆的で、産官学が連携して事業を展開しています。
また、以前から地元で暮らす日系ブラジル人や近隣の大学生などもボランティアに加わり、市民レベルでも多文化共生が進んでいる地域です。
一方で、仕事が忙しい保護者は児童と向き合う時間が限られたり、児童が日本語をどんどん習得し、日本文化に慣れていく一方で、母語を話す保護者とのコミュニケーションが難しくなったりと、出雲市にも日本全国で起こっている問題があることもお話頂きました。
運営委員は、長年出雲市で外国人のサポートを行っている方や民間企業で外国人労働者と接してきた方、主婦など、活動に関わった経緯も様々です。
多様なメンバーの方が様々な角度から運営に携わっている、地域の強みに触れることができました。

全国でも先進的な「教室」を見学

「日本語初期集中指導教室」でお話を伺いました

午後は、出雲市教育委員会が主宰する「日本語初期集中指導教室」の取組みを伺いました。
出雲市教育委員会の児玉佐知子先生の案内で、会場となっている教室を訪問、普段は子どもたちが使う机と椅子をお借りして、事業概要を聞きました。
出雲市では外国人が転入し、役所での手続きがなされると、教育委員会へ案内されます。
学校教育課窓口で、子どもの転入学とともに本教室の案内が行われます。
在籍校に通学するまでの約1か月間、日本の文化や習慣、日常で必要な最低限の日本語を学び、スムーズな学校生活を送れるようにすることがねらいです。
また、市内には拠点校(小中それぞれ3校)が設置され、入学後も県および市の日本語指導員による日本語指導で、取り出し授業が行われたり、通訳・翻訳による母語の支援をしたりするなど、様々なサポートがあるそうです。
現在はコロナ禍で本教室に通う子がいない状況だそうですが、教室の入口には、模造紙で作られた「クリアール(育つ)の木」が掲示され、開室1年の間にこの教室で学んだ子どもたちの笑顔の写真とメッセージが、葉っぱとなって豊かに育っていました。
これからもこの教室では、子どもたちの様々な学びが重なって、「クリアール(育つ)の木」の枝葉もグングン広がっていくことでしょう。

「MANABIYA」の挑戦-多様性を尊重するということ-

「MANABIYA」の河原由実さんを囲んで

最後にお会いしたのは、出雲市出身の河原由実さん。
企業勤務を経て、出雲市の日本語指導員として活動する中で、文化や言葉の違いに慣れず、大きなストレスを抱える子と接することも少なくなかったそうです。
そして、中学校は卒業したものの進学しなかった子、中学卒業後の年齢で来日し、公的サポートの範囲から外れてしまう子、環境になじめず不登校になってしまった子など、10代後半の子どもたちを支える仕組みがないことを痛感し、外国にルーツを持つ10代の青少年を主な対象として「MANABIYA」の活動をスタートされました。
進学しなかった子へ学習サポートをしたり、引きこもってしまう子には、まずは家から出るためにSNSも活用して呼びかけを続け、アルバイトや復学など社会に戻るための自信と意識づくりを行っているそうです。
また、地域社会と接点を持つためのイベント企画や10代同士のつながりを作る働きかけもされています。
しかし、学校に復帰しても馴染めず、再び不登校になった子やアプローチしても反応がなく疎遠になってしまった子など、決して全ての活動が上手くすすんだわけではなかったそうです。上手くいったことや反省点、これから見据えていることなど、河原さんは優しい笑顔と穏やかな口調で、地域における多文化共生の問題や現状を、市民活動の視点からお話下さいました。

フィールドワークに参加した先生方からは「普段は気づかなかったが、子どもが成長する中で学校ができることは実は小さいのではないか、と謙虚に振り返ることができた」「子どもが教室を出ても、地域で輝き、居場所が探せるように教員も意識する必要があるのではないか」といった感想が上がりました。
本研修コースでは、来月も中国地方でフィールドワークを行い、地域から見える課題を通じて、持続可能な社会の在り方を考え続けていきます。