【実施報告】教師国内研修フィールドワーク -足元から考える「持続可能な社会」-

2021年12月27日

2021年度JICA中国 教師国内研修のフィールドワークを2021年8月、11月の2回に分けて実施しました。8月はあいにく広島県を中心とした豪雨の影響で、一部訪問先をオンライン講義に振り替えるなどの変更がありましたが、先生方はどのテーマも熱心に事前学習をし、すべてのプログラムに積極的に参加されました。

フィールドワーク日程(8月/11月)

大久野島訪問

ラパス日本語学校とのオンライン交流

ベトナム料理で「いただきます!」

8/11(水)【JICA中国】
●各自が事前に調べてきた訪問先情報を共有

8/12(木)【広島県・大久野島訪問】
●毒ガス資料館見学、島内の戦争遺構見学

8/13(金)【オンライン】
●朝:パラグアイのラパス日本語学校の児童生徒、教員との
   オンライン交流
●午後:JICAベトナム事務所によるオンライン講義

8/14(土)【オンライン】
●朝:パラグアイの広島県人会長とのオンライン交流

8/16(月)【オンライン】
●午前:岡山県津山市役所、社会福祉法人やすらぎ福祉会による
    オンライン講義(草の根技術協力事業について)
●午後:岡山県の大紀産業株式会社によるオンライン講義
    (中小企業・SDGsビジネス支援事業について)

11/27(土)【島根県雲南市】
※8月の豪雨のため中止したプログラムを11月に実施
●午後:「多文化共生カフェSoban」訪問

11/28(日)【島根県江津市】
●午前:「日本語交流クラブ GOTO☆ワンハート」訪問、料理交流
●午後:講義、意見交換

広島で知る戦争と平和-加害の歴史から考える-

山内氏の案内で戦争遺構を見学

世界で最初の被爆地となった広島。原爆ドームやその周辺の被爆建物はあまりにも有名ですが、現在「うさぎの島」として多くの観光客を魅了する大久野島には、かつて秘密裏に毒ガスが製造されていたことを示す戦争遺構が多く残されています。国としても極秘事項であったことの証拠に、島内にある資料館には大久野島が消された当時の地図が残されています。
当日は、大久野島の歴史を研究され、長く平和学習を行っている山内正之さんの案内と説明で、島内を一周しました。防空壕、毒ガスタンクの貯蔵庫や発電所兼風船爆弾を製造していた工場の跡地など、今も生々しく残る戦争遺構を目の当たりにし、参加の先生方は言葉を失っていました。第二次世界大戦であまりに甚大な被害を受けた広島で、別の視点から戦争と平和を考える時間になりました。

もうひとつの日本-南米パラグアイとのつながり-

パラグアイとのオンライン交流はTV取材も入りました

在パラグアイ広島県人会の河野さんと交流

広島にはもう一つの顔があります。それは全国第一位の移民送出県であるということ。第二次世界大戦前後にあわせて約11万人が北米や中南米へ移住し、一世紀以上が経った現在、世界各地で広島にルーツをもつ日系人が活躍しています。中でも、1956年に県東部の沼隈町(現福山市沼隈町)が町主導でパラグアイへ集団移住を行った「町ぐるみ移住」は、全国でも大変珍しいケースで、移住先となったフラム(現ラパス)を中心に、現在も2世、3世が生活しています。
今回、JICAパラグアイ事務所を通して、広島県をはじめ中四国からの移住者の子弟も多く通う「ラパス日本人学校」の児童生徒とオンラインで交流を行いました。
参加の先生方がこの日のために準備した、日本の児童生徒が作成した動画やメッセージを流したり、先生自身の好きなものを絵にかいてクイズ形式でパラグアイの子どもたちに出題したり、交流の時間はあっという間に過ぎていきました。子どもたちとの交流のあとは、日本語学校の先生方との意見交換。現地での日本語学習の難しさ、子どものアイデンティティや文化継承の問題など、話は尽きない様子でした。
また、子どもの頃にパラグアイへ移住した1世でもある、在パラグアイ広島県人会長の河野さんにもオンラインでお会いしました。ご自身が移住した当時のパラグアイの様子、苦労したこと、楽しかったこと、そして現在の子弟に抱く想いや現地の人々との共生社会など、今の日本が直面する多文化共生社会へのヒントになるような示唆に富んだお話を伺いました。

「岡山から世界へ」を体現するプロフェッショナル

ベトナムでの取組みに関する講義

大紀産業の安原社長による講義

岡山県津山市は、JICAが行う「草の根技術協力事業」を通して、ベトナムの高齢者を対象にした介護予防活動を開始する予定です。独自の「こけないからだ体操」を通じた介護予防プログラムには、ベトナム政府からも大きな期待が寄せられています。地域での知見をベトナムの問題解決に活かす活動内容と、今後の展開などを伺いました。また、津山市とともに草の根事業に携わる、岡山県の社会福祉法人やすらぎ福祉会の平井理事長には、日本の介護現場の人手不足とそれをサポートする外国人材の現状についてお聞きしました。外国人に選ばれる日本にならない限り、これからの日本は成立しない、一時的な労働者としてではなく、彼らが日本の経験を活かして母国でも活躍できるよう、また再び日本を選んでくれるような環境と制度を整えなければならない、と平井さんは熱を込めてお話下さいました。
岡山市に本社を置く大紀産業株式会社は、2015年からスーダンで玉ねぎの付加価値向上のため電気式乾燥機の普及を目指し、現地調査を続けていらっしゃいます。ビジネス環境が整っていないスーダンで、なぜビジネスに挑戦しようと思ったのか。そしてその取り組みの成果と課題、今後の展望などを伺いました。
自治体や社会福祉法人が行う介護事業と企業が展開するビジネス、活動内容も対象地域も異なるものの、長年の経験と豊富な知識、そして高度な技術を持ったプロフェッショナルが自身の知見を惜しみなく提供することで、途上国の課題解決に取り組まれていることは大きな共通点でした。

島根で考える多文化共生社会

「多文化共生カフェSoban」にて

実習生から話を聞く

島根県雲南市に暮らす韓国出身の李在鎮さんと日本語教師の芝由紀子さんがご家族で運営する「多文化共生カフェSoban」を訪問しました。国際交流員として来日した李さんからは、来日前のこと、日本人と結婚したときの家族や周囲の反応、来日後に外国人として感じたことや今後の展望などを率直にお聞かせ下さいました。また、芝さんからは、ご自身が代表を務める「一般社団法人ダイバーシティうんなんtoiro」の活動や市と連携して行う取組みについてお話頂きました。芝さん自身も他県の出身で、雲南市に暮らすIターン・Uターン移住者と同じ立場だからこそ見えてくる雲南市の魅力と今後の課題、また学校現場との連携についても伺うことができました。
島根県西部に位置する江津市で「日本語交流クラブ GOTO☆ワンハート」を主宰する山藤美之さんは、青年海外協力隊経験者であり、元教員でもあります。江津市で働く技能実習生との出会いから生まれた日本語教室や交流プログラムについて、軌道に乗るまでの苦労や現在の取組み、その成果についてもお話頂きました。また、クラブに参加するベトナム人の皆さんに教えてもらいながら、ベトナム料理を一緒に作りました。午後には、彼らとの座談会を設け、様々な質問にお答え頂きました。出発時に高額な経費負担があったことや仕事・日常生活で困ること、そして「GOTO☆ワンハート」との出会いや、そこに参加することで所属する会社の上司をはじめ、日本人が変わっていったことなど、調理時間での弾けるような笑顔からは想像のつかない苦労があったことを知り、参加の先生方はまた新たな想いや感想を抱かれたようでした。

今年の教師国内研修には、校種も担当教科も地域も異なる5名の先生が参加されています。関心を持つテーマも違えば、同じ場所で同じ人から話を聞く中でも受け止め方やとらえ方、抱く想いも様々です。訪問先で、また毎日のふり返りの中で、さらにたくさんの気づきを得た5名の先生方は、この学びを日々接する児童生徒へ、そして教育に携わる幅広い方々へ共有すべく、今後は研修内容を活かした学習プログラムを作成します。先生方の学びの時間は、まだまだ続きます。

(写真提供:山藤美之氏、2021年度教師国内研修参加教員、JICA島根県国際協力推進員)