【実施報告】島根で考える多文化社会-よそ者、わか者が日本と出雲を見てみたら-

2022年12月20日

【画像】2022年12月10日(土)、多くの外国人住民が暮らす島根県出雲市で、多文化共生を考えるセミナーを開催しました。
地域に新しい風を吹き込むのは「よそ者」「若者」と言われます。当日は他の国や島根県外の地域で生まれ育った「よそ者」のゲストスピーカー、「よそ者」であり国内の外国人支援や多文化共生の初心者としての「若者」でもあるJICA中国、そして出雲市で活動する「多文化”結”の会」と参加者の計46名が、国や民族、言葉や文化のちがいにかかわらず、すべての人がともに安心して暮らせる地域について、一緒に考えました。

多文化共生の視点で取り組むまちづくり

可児市国際交流協会の各務眞弓さん

笑い声の絶えない吉實さんのプレゼンテーション

最初にお話頂いたのは、可児市国際交流協会の理事・事務局長である各務眞弓さん。岐阜県可児市は多文化共生の視点を生かしたまちづくりで全国でも先駆的な地域です。町のヘブライ語講座に参加した一市民だった各務さんが、国際交流協会の運営委員となり、ブラジル人学校をはじめ様々な機関で活動し、「可児市多文化共生センター フレビア」のスタッフとして関わるようになった経緯を、それぞれのステップで考えたことや課題を交えてお話くださいました。可児市には、言語、暮らし、地域社会といろいろな角度から共生を目指す取り組みがありますが、中でも子どもの教育における共生推進は可児市の特長といえます。多文化間の子育ての現状や10代の青少年を取り巻く問題、そして「フレビア」が取り組む事業をご紹介下さいました。

2番目にお話下さったのは、同じく可児市からお越し頂いたトーマス 吉實 フィリッペ よしおさん。JICAが2020年に開始した「日系サポーター研修員制度」の最初の研修員です。当初はコロナ禍で来日が叶わず、受入先となるフレビアや各務事務局長と遠隔で活動を進めていたそうです。現在は、フレビアで行われている外国ルーツの子どものための母語教室や相談業務に携わっています。

日本語が全く分からない状態で入学した日本の小学校では外国人、ブラジルへ戻った後は日本人として扱われたこと、アイデンティティのゆらぎといったご自身の辛い経験も、ジョークを交えて語ってくれた吉實さん。「石を投げる人はどこにでもいるから避ければいい、誰に何を言われても自分が幸せならすべてOK」という前向きで力強いメッセージを発信してくれました。

出雲で考える国内外の日系社会

地元で活動する井出さんの話に参加者は興味津々

皆さん熱心にディスカッションされていました

最後の登壇者、邑井 井出 カウデイラ リエ さんは今年10月から島根県出雲市の塩冶幼稚園で活動する、中国地方初の日系サポーター研修員です。会場には井出さんの活動先の園長先生もお越し下さいました。
ブラジルで生まれ、奇しくも岐阜県で育った井出さんは、幼少時から進路を考える高校生までの体験を、自身の気持ちだけでなく、その時々の親の反応や家庭内での行動もあわせて話してくれました。講演の最後には、日本、ブラジルそれぞれの日系社会は今後どうあるべきか、また、外国につながる子どもの居場所づくり、子ども主体の教育とはどうあるべきか、と、幼児教育を専門とする井出さんならではの問いかけもありました。

本セミナーはゲストスピーカーの話を聞いた感想や意見を、参加者同士が話し合う参加型形式で実施しました。JICA教師海外・国内研修のアドバイザーであり、過去の国内研修で出雲市、雲南市、江津市といった島根県内でも多文化共生促進に先駆的な取り組みをする地域へのフィールドワークにも同行された、川崎医療福祉大学の山中信幸教授にファシリテーションをお務めいただきました。
参加者からは「可児市の取り組み、出雲に足りないところ、また参考になるところをたくさん聞けた」、「複数の文化を持つ方、支える方双方の話を聞くことができ、学び直しの場となった」といったゲストスピーカーへの感謝の声や、「グループディスカッションで他者の意見を聞き、新たなつながりを作る機会になった」、「たくさんの話し合いの中で、自分の中での『多文化共生』についてより考えが深まった」、「有意義な話とグループ協議での積極的な意見があり、時間があっという間でした」といった感想も寄せられ、会場全体で気づき、学びあう機会となりました。
 
JICAの外国人材受入・多文化共生促進の活動はまだ始まったばかり。JICA中国は地域で活躍する皆さんと連携しながら、私たちにできること、私たちにしかできないことは何かを考えながら、中国地方の課題にも取り組んでいきます。