jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

競技から共創へ ―ドミニカ共和国初の挑戦、スポGOMIが導く、市民の主体性と行政の連携が生んだ変化―

2023年度4次隊
ドミニカ共和国/廃棄物処理
小田宣博さん

私はJICA海外協力隊として、2024年4月からドミニカ共和国サントドミンゴ・エステ市役所に配属され、廃棄物管理・環境分野の活動に取り組んでいます。

協力隊への応募のきっかけは、平成20年に外務省ODA民間モニターとしてケニアを訪問し、現地調査団の団長を務めた経験でした。帰国後の報告会で対談した当時の木寺国際局長から協力隊応募を勧められたことを機に、「現場で地域の課題に向き合い、自ら問題意識を持って解決に関わる国際協力」に挑戦する決意を固めました。

配属先であるサントドミンゴ・エステ市は、首都サントドミンゴの一部を構成する人口100万人超の大規模自治体で、近年急速に都市化が進む一方、ごみ問題が深刻な地域です。私は市役所清掃・都市衛生局に所属し、街の美化、ごみ収集の効率化、リサイクル推進を主なテーマとして活動しています。

サントドミンゴ・エステ市役所にて、廃棄物管理に関する打合せを行う筆者。行政職員と共に、現場の課題に向き合いながら活動を進めている。

その取り組みの一つとして、日本発祥の「スポGOMI(スポーツごみ拾い)」をこの国で初めて開催しました。

競技として始まったごみ拾いは、地域の心を動かす体験となり、自治体と市民、そして国際協力が一つにつながりました。スポGOMIを通じて、公共空間は“自分たちの場”へと変わり、行政の仕組みや協働の形も少しずつ変化します。これは、現場から生まれた持続可能な廃棄物管理の物語です。

2025年5月24日の国内大会では49チーム147名が競技に参加し、審判・運営スタッフを含め約350名が集まり、約1.1トンのごみを回収しました。

観光名所コロンブス灯台周辺で開催されたドミニカ共和国初のスポGOMI大会。 競技会場には多くの参加者と関係者が集まった。

チームで協力しながら制限時間内にごみを集める参加者たち。 競技形式が、ごみ拾いを前向きで主体的な体験へと変えていった。

大会終了後、優勝チームを表彰。
競技を通じて得た達成感が、環境行動への次の一歩につながっていく。 さらに同年10月には、東京・青山の国連大学で開催されたスポGOMIワールドカップ2025にドミニカ共和国代表として出場しました。

東京・国連大学で開催されたスポGOMIワールドカップ2025に出場したドミニカ共和国代表。 現場の課題を国際社会へ発信する機会となった。 33か国中31位という結果でしたが、この国が抱える廃棄物問題と現場の課題を国際社会に発信する貴重な機会となりました。

サントドミンゴ・エステ市で活動を始めて、私が最初に強く感じたのは、「ごみが風景の一部になっている」という現実でした。道路脇や公園、海沿いに至るまで、ごみは特別な異物ではなく、日常の中に溶け込む存在としてそこにありました。市民に環境意識がまったくないわけではありません。しかし、その意識が具体的な行動に結びついていない。

この状況を前に、私は「正しさ」を伝えるだけの環境教育には限界があると感じました。講義や啓発ポスターで問題点を説明しても、人の行動は簡単には変わりません。必要なのは、「楽しい」「参加してみたい」と自然に思える入口です。人は義務感ではなく、体験を通してこそ行動を変える。その考えに至ったとき、ボリビアで活動するJICA隊員から、日本発祥の「スポGOMI」を紹介されました。

スポGOMIは、ごみ拾いを競技として行い、チームで協力しながら制限時間内に集めたごみの量や種類で得点を競います。勝敗があり、応援があり、達成感がある。この仕組みは、「清掃=面倒な義務」という固定観念を覆し、ごみ拾いを前向きで主体的な体験へと変える力を持っていました。

同時に私は、ドミニカ共和国の人々に日本の環境分野の取り組みを知ってもらうことで、環境改善の一助になるのではないかと考えました。知識として伝えるだけでなく、体験を通して共有できないか。その二つの思いが重なり、「スポGOMIをドミニカ共和国で開催しよう」と決意しました。

この国では、「公共空間は自分のものではない」という感覚が根強く、路上や公園は“誰かの場所”として扱われがちです。しかしスポGOMIが始まると、公共空間は一時的に「自分たちのフィールド」へと変わります。参加者は路上を見渡し、ごみの種類を考え、仲間と声を掛け合いながら動き回ります。それまで見過ごされていたごみが、突然、意味を持つ対象へと変わる瞬間でした。

特に印象的だったのは、若者や学生の反応です。「こんなに集まった」「ここにもある」と声を上げながら走り回る姿は、従来の講義型環境教育ではなかなか見られません。楽しみながら得た体験は、家庭や友人へと自然に共有されていきます。スポGOMIは、単なる清掃イベントではなく、「公共空間は自分たちのものだ」というオーナーシップを育てる、小さな社会実験なのです。

環境教育に力を入れるハラバコア市で開催されたスポGOMI。 市役所や大学が一体となり、地域ぐるみの取り組みとして広がりを見せた。

スポGOMIの開催は、決して順風満帆ではありませんでした。行政内部での運営体制の調整、関係機関との役割分担、前例のない取り組みに対する不安や慎重な意見など、数多くの壁がありました。それでも実現に至った背景には、「人と人との信頼関係こそが活動の原動力になる」という事実があります。

活動の大きな転機となったのは、かつて私の活動要請者であり、日本でJICA研修を受けた経験を持つ元幹部職員との再会でした。現在は市役所を離れ、リサイクルNGO『ARESDE』の会長を務める彼が共同主催に加わったことで、計画は一気に現実味を帯びました。さらに、ドミニカ日系人協会、日本語学校、大学、市役所職員、元市役所職員、警察官までが運営に関わり、スポGOMIは多文化・多機関連携の場へと発展していきました。

大会後、市役所は定期的な清掃活動を継続するようになりました。「イベントで終わらせない」という発想が行政内部に芽生え始めたのです。一方で、部署間連携や役割分担の曖昧さといった課題も明確になりました。スポGOMIは万能薬ではありません。しかし、課題を可視化し、協働の土台を築く契機となりました。

今後は、日本での次回スポGOMIワールドカップ開催に向け、ドミニカ共和国内15市で地方大会を展開するとともに、TMS研修の拡充やリサイクル推進計画と連動させていきます。スポGOMIを入口として、市民の意識と行動、そして行政の仕組みを少しずつ変えていく。その積み重ねこそが、持続可能な廃棄物管理の定着につながると確信しています。これからも市民の皆さんと共に、歩みを進めていきたいと思います。