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【JICA民間連携事業パートナーの想い】資源をつなぎ、資源をつくる──社会課題はビジネスで解決する 株式会社ツルオカ 堤 庸佐さん

#9 産業と技術革新の基盤を作ろう
SDGs
#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs
#12 つくる責任、つかう責任
SDGs

2025.09.30

【株式会社ツルオカ】

 使用済み資源の回収から再利用、さらには付加価値の高い製品化までを一貫して行う、真のマテリアルリサイクル企業。
 資源の循環を支える基盤産業として、持続可能な社会づくりに貢献し、 高度な循環型社会の実現を目指している。サーキュラー・エコノミー型社会において、リサイクルを価値あるエッセンシャルワークと位置づけ、新たな産業から雇用機会を創出していくべく取り組みを行っている。

堤 庸佐さん(株式会社ツルオカ総務本部執行役員)

#使用済み自動車  #自動車解体  #サーキュラー・エコノミー  #リサイクル  #フィリピン

 JICA中小企業海外展開支援事業を活用して、フィリピンにおいて、使用済み自動車(ELV)の適正処理の普及に取り組まれた株式会社ツルオカの堤庸佐さんにインタビューしました。単に効率や収益を追求するのではなく、スタッフ一人ひとりや関係者すべての視点を大切にする姿勢が、特に印象的でした。

鉄・非鉄金属・樹脂等の素材を解体用重機で回収

鉄・非鉄金属・樹脂等の素材を解体用重機で回収

バッテリー、タイヤ、蛍光灯を含む、部品や素材を回収

バッテリー、タイヤ、蛍光灯を含む、部品や素材を回収

――貴社の独自技術であるRECYINTについて教えてください。

 RECYINT(リサイント)という名称は、「Recycle(リサイクル)」と「Integrate(統合)」という言葉を組み合わせて、1999年に商標登録したものです。これは弊社独自の仕組みを表しています。
 具体的には、まずオートリサイクル事業部が使用済みの車を中心とした廃棄工業製品を収集、解体します。解体されたものは金属原料事業部で細かく砕いたり、加工したりします。その加工した金属を、カウンターウェイト事業部が材料として使い、製品を作ります。また、海外調達事業部では建設機械の部品を取り寄せ、JP事業部で塗装や組み立てをして、最後にお客様に届けています。
 このように、5つの事業部を縦方向に積み重ねて重層化し、それぞれが相乗効果を生む独自の事業構造を築いています。単に事業を肥大化させたり、多角化したりするのではなく、必要な工程を一貫して統合することを意識した体制です。

JP事業部で塗装されたカウンターウェイト

JP事業部で塗装されたカウンターウェイト

カウンターウェイトは運搬車両の安定性を保つために欠かせない

カウンターウェイトは運搬車両の安定性を保つために欠かせない

――堤さんが仕事をするうえで大切にされていることは何ですか?

 ロジカルシンキングだけでなく、ラテラルシンキングを意識しています。あるテーマについて考えるとき、弊社目線だけではなく、例えばJICAさんならどう捉えるか、学生ならどう考えるか、企業の方や一般の方はどう感じるかというように、できるだけ多くの視点を瞬時に想像するように心がけています。社内だけで完結するのではなく、常にマルチステークホルダーの視点を意識することが、多様な価値観の中でより良い仕組みや事業をつくるうえで必要だと思っています。
 余談ですが、実は5年ほど前から、食事はできるだけ左手で食べるようにしています。これは右脳を活性化させたいという思いつきから始めたものです。左手を使うことで普段と違う脳の使い方になり、直感力や第六感が鍛えられるかもしれないという話を聞き、面白そうだなと思い始めました。

左側の一台ずつの車は検収中。部品や素材のオーダー情報を確認し、生産計画をたてる

左側の一台ずつの車は検収中。部品や素材のオーダー情報を確認し、生産計画をたてる

――堤さんは外部の方とも多く関わる機会があると思います。関わりの中での学びを教えてください。

 社内だけでなく、社外の方々との関わりも大切にしており、そこから多くのことを学び、実践しています。
例えば、大手製錬事業者とご一緒した際には、行間を読む力の大切さを実感しました。表面的な言葉だけでなく、その裏にある意図や期待をきちんと汲み取らなければ、本当に求められている価値には辿り着けないと気づかされました。
 大手電気機器事業者の環境分野の担当者からは、誰がやっても失敗しない仕組みを先に作っておくという考え方を教えていただきました。知識やスキル、経験がバラバラな現場だからこそ、できないことを前提に作り込むことでミスを防ぐ設計が重要であり、それによって一定の品質を保つことができます。この考え方は、今の事業設計にも大きな影響を与えています。
 また、大手総合商社の方との関わりからは、偶然を待つのではなく、自分から仕掛けて、偶然を引き寄せる姿勢の大切さを学びました。気になることがあれば自ら会いに行き、話を聞きにいきます。そうした一つひとつの行動が、新たな展開やつながりを生むきっかけになると感じています。

――JICA中小企業海外展開支援事業の応募に至った背景を教えてください。

 JICAさんとのご縁は、足利小山信用金庫さんからの一本の電話がきっかけでした。もともと直接JICAさんとのつながりがあったわけではなく、日頃の足利小山信用金庫の担当者とのやりとりの中で「融資だけでなく、ビジネスマッチングなどもお手伝いできますよ」といったお話をいただき、そこからJICAさんの事業をご紹介いただいた形です。
 実はそれ以前から、弊社では海外調達に対して強い問題意識を持っていました。特に、中国依存が100%という状況に将来的なリスクを感じていました。その懸念が、コロナ禍で一気に現実のものとなり、このままではいけないと強く思いました。
 そこで、リスク分散や新たな調達先の開拓も視野に入れて、海外でのサプライチェーン再構築に本格的に取り組むことを決め、JICAさんの中小企業海外展開支援事業を活用した調査に踏み切りました。

――JICAとの連携で実施されたビジネス化実証事業を通じて、現地で特に印象に残っているエピソードはありますか?

 現地で特に印象に残ったのは、リサイクルに対する価値観や制度の在り方です。マニラの中心部は東京並みに整った街並みでしたが、少し郊外に出ると、ブロックごとにジャンクショップと呼ばれる、不要物を素材ごとに分別、処理、販売する場所が確実に存在していました。多くは税金も納めていないインフォーマルな存在です。
 この点について現地政府の方に尋ねたところ、「街にゴミが落ちていなかっただろう? 彼らがきれいに保っている」との返答でした。つまり、制度や規制よりも機能していればよしという考え方が根底にあるのだと感じました。
 また、スモーキーマウンテンのようなゴミ山は「もうない」とされている一方で、現地の人は「今もある」と話しており、表と実態のギャップも印象的でした。
こうした価値観をすぐに否定するつもりはありませんが、日本もかつて同じような状況から制度を整えてきたことを、一つの参考として伝えることしかできませんでした。

ジャンクショップ店先でモーターを解体し、排水溝に廃油を流している作業風景

ジャンクショップ店先でモーターを解体し、排水溝に廃油を流している作業風景

――ビジネス化実証事業を通じた成果を教えてください。

 現地の行政の認識が大きく変わったことだと思っています。もともとは「使用済み自動車?そんなものは知らない」といった反応だった関係者も、私たちの取り組みを通じて「あなたたちのやりたいことは理解できた」と言ってくれるようになりました。
 法改正までには至りませんでしたが、環境影響評価や許認可制度の中で、「この基準を満たせば自動車の解体も可能」という、いわばみなしの形での基準を明示してもらえるようになりました。これは、現地で自動車リサイクル事業を進めていくうえで、大きな前進だったと感じています。

――JICA中小企業海外展開支援事業を実施されて、どのような支援やメリットが得られましたか?

 やはり、先方政府を相手に議論ができたことが大きな成果です。もしこれを弊社単独で実施していた場合、ここまで制度的な部分に踏み込むことは難しかったと思います。
現地の制度や許認可に関わる話は、企業単独ではアクセスが難しい部分がありますが、JICAさんの枠組みだからこそ行政レベルで対話が可能となり、制度運用に関わる基準づくりにまで意見を届けることができました。
 また、JICAさんとの連携で進めてきたという点が一つの信頼の担保となり、他の関係機関や省庁との連携にもつながっています。実際に、現在ではこの取り組みに対して経済産業省や環境省の方々からも注目をいただいており、制度的な整備や今後の政策議論においても一定の関心を持っていただいていると感じています。

ELV解体実証プラント設置に関する 陸上交通許認可規制委員会と環境管理局との合同協議

ELV解体実証プラント設置に関する
陸上交通許認可規制委員会と環境管理局との合同協議

――海外展開される中で、ご自身に何か変化はありますか?

 JICAの支援事業を通じて多様なステークホルダーと交流し、現地パートナー企業「EN Tsumugi」社のスタッフと深く関わる中で、外国人材を単なる労働力や資本としてではなく、一人ひとりの人格や生活を尊重すべき存在として捉える意識が強まりました。
 日本では少子高齢化の文脈で外国人材の活用や労働力の輸入といった言葉が使われがちですが、そうした表現では、当事者のウェルビーイングが見落とされてしまいます。現地の人々も家族や友人を持ち、幸せな暮らしを求めていることを実感し、日本で働くという選択を安易に語るべきではないと感じました。

フィリピンのパンパンガ州にあるパートナー企業施設内に 技術導入することを合意した際の集合写真

フィリピンのパンパンガ州にあるパートナー企業施設内に
技術導入することを合意した際の集合写真

――今後の事業の展望や、将来的に挑戦してみたいことについてお聞かせください。

 今後の展望としては、フィリピン国内にとどまらず、ASEAN全体に適正なリサイクルシステムを広げていきたいと考えています。例えばマレーシアなども、使用済み自動車の適正処理という面でフィリピンと共通の課題を抱えており、弊社の知見が他国にも応用できると感じています。
 また、少子高齢化への対応としてAIやロボティクスが進む一方で、私はリモート(遠隔操作)という新しい働き方にも可能性を感じています。例えば、フィリピンの解体施設から遠隔で日本の機械を操作し、日本水準の報酬を得られる仕組みの実証を目指していきたいと考えています。これは、少子高齢化が進む日本と、人口が増え、働き手が多いASEAN諸国の双方にとってメリットのある、持続可能なモデルになると信じています。

堤さんがJICAの職員とインターン生(小俣・宮内)に車の解体について説明する様子

堤さんがJICAの職員とインターン生(小俣・宮内)に車の解体について説明する様子

――社会問題に関心を持つ方や人を育てる立場の方へメッセージをいただけますか?

「社会課題はビジネスで解決する」

ODAや支援事業と聞くと、ボランティアのようなイメージを持つ方もいますが、私たち企業は収益を上げなければ存続できません。社会課題は、ビジネスの形で解決していくことが重要です。誰かに任せきりにしていては、持続可能な取り組みにはなりません。補助金やボランティアに依存するだけでは、長続きしないと考えています。

「はじめからデキる人はいない」

「最近、良い人材がなかなか入ってこない」と嘆く外部の声を聞くことがありますが、そもそも「良い人材」とは何か、問い直すことが大切だと思います。最初からできる人はほとんどいません。入社後に時間をかけて育てていくことこそが重要です。

インタビュー 後記:
今回のインタビューを通じて、サーキュラー・エコノミー型の使用済み自動車リサイクルの最前線で奮闘されている、株式会社ツルオカの堤さんのリアルな声を伺うことができました。
フィリピンにとどまらず、ASEAN全体を見据えた取り組みや、国を超えたリモート操作による新たな雇用創出への挑戦など、多方面にわたるチャレンジからは、事業にかける熱い想いと、未来を見据えた姿勢が伝わってきました。(JICA筑波インターン生/筑波大学大学院人間総合科学学術院1年 宮内琴葉)

左 インターン生宮内、中央 堤さん、右 インターン生小俣

左 インターン生宮内、中央 堤さん、右 インターン生小俣

関連リンク
民間連携事業
https://www.jica.go.jp/activities/schemes/priv_partner/index.html
株式会社ツルオカが実施したビジネス化実証事業 調査完了報告書
https://www2.jica.go.jp/ja/priv_sme_partner/document/1521/Bz221-011_report.pdf

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