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【JICA民間連携事業パートナーの想い】完熟堆肥でつなぐ、日本とインドネシアの農業共創──味と環境、そしてビジネスを両立する挑戦 株式会社シモタ農芸 霜多 浩子さん・霜多 辰樹さん

#2 飢餓をゼロに
SDGs
#12 つくる責任、つかう責任
SDGs
#15 陸の豊かさも守ろう
SDGs

2025.10.01

【株式会社シモタ農芸(シモタファーム)】

 30年以上にわたって独自の完熟堆肥を用いて安全で高品質な野菜やハーブを生産・販売。国内におけるハーブ栽培のパイオニア。青果物の安全や品質を収穫物の機能性成分の分析を行うことによって、科学的に証明している点で大きな特徴がある。

霜多 浩子さん(株式会社シモタ農芸 商品部長)
霜多 辰樹さん(株式会社シモタ農芸 取締役副社長)

#農業  #完熟堆肥  #高品質  #環境配慮  #インドネシア

 JICA中小企業海外展開支援事業を活用して、インドネシアにおいて、完全堆肥による土壌改善と科学的根拠に基づく高品質野菜の生産・流通・販売調査を実施。さらに、ビジネス展開計画の策定に取り組んだシモタ農芸の霜多浩子さん、霜多辰樹さんにインタビューしました!ビジネスの視点を持ちながらも、環境への配慮を忘れず、インドネシア人インターンの受け入れを通じて、相互に学び合う姿勢を大切にされている点が、非常に印象的でした。

慣行栽培(左)、シモタ栽培(右)で育ったミズナ

慣行栽培(左)、シモタ栽培(右)で育ったミズナ

受け入れたインターン生と霜多さんの集合写真

受け入れたインターン生と霜多さんの集合写真

――どのようにしてインドネシアとの交流が始まったのですか?

 インドネシアとの関わりは、20年以上前に遡ります。弊社社長の霜多増雄は、当時インドネシアの大学教授を務めていた日本人と飲み友達で、その方からインドネシアの面白さ将来性についてさまざまな話を聞いていました。それがきっかけで、社長はインドネシアに強く興味を持つようになったそうです。初めてインドネシアを訪れる際には、その飲み友達のつてで、インドネシア政府の要職にあたる人物(日本でいえば官房長官に相当)とも知り合うことができました。その出会いを通じて現地の大学を紹介されるなど、インドネシアとの交流が一気に深まっていきました。
 当時は自社でも人材不足が課題となっており、その流れの中で、インドネシアからのインターンシップ生の受け入れへとつながっていきました。実は、民間企業で外国人インターンシップ生を受け入れた第一号は、私たちの会社です。20年以上前からインターンを受け入れてきた経験があり、その卒業生とのつながりは今も続いています。

卒業証明書を手に、霜多さんたちと記念撮影するインターン生

卒業証明書を手に、霜多さんたちと記念撮影するインターン生

――JICA中小企業海外展開支援事業の応募に至った背景を教えてください。

 実は、JICAの案件化調査を行う約2年前、インターンシップの受け入れを辞めようかと真剣に考えていました。理由は、受け入れにかかる費用があまりにも大きく、事業として続けていくのが難しい状況だったからです。
 ただ、辞めると判断するにも、それを裏付けるエビデンスが必要だと感じていました。弊社で長年取り組んでいたインターンシップ受入れを、私一人の判断で「もう辞めます」とは言えませんし、社内で納得してもらうことも難しいと考えたのです。
 それならば一度、現地の状況をきちんと調査し、もし収益性が見込めず、人材育成の成果も得られないのであれば、その時は潔く辞めようと決めました。逆に、何か将来につながる可能性があるのなら、続ける価値があるとも思っていました。
 最初は自費で調査を行うことも考えましたが、現実的には難しく、そんな時に出会ったのが、JICAの中小企業海外展開支援事業であり、「一度、応募してみようかな」と思ったのが、きっかけです。

現地での堆肥製造風景

現地での堆肥製造風景

――JICAとの連携で実施された案件化調査を通じて、現地で特に印象に残っている出来事や課題はありますか?

 案件化調査をした時に、何千頭と牛を飼っている大きな牧場があって、そこはとにかく糞尿の問題がひどかったです。素手や裸足で作業している人もいて、処理も適切にされていなくて、尿は溜めておくだけ、糞はそのまま乾燥させただけで袋に詰められ、トラックで運ばれ取引されているような状態でした。臭いも強く、労働環境的にも、かなり問題があると思いました。
 これはインドネシアだけではなく日本でも似たようなことが起きていて、ホームセンターなどで売られている発酵牛糞は、よく見ると発酵とは書いてあっても、完熟ではないです。ですので畑が臭くなるし、環境にも良くないです。これは、日本でも完熟堆肥は発酵牛糞ではないということが意外と意識されていないのです。
 現地では、大学の講義でも「どうにかならないか?」という声が上がっていました。ただ、投資家目線から見ると、堆肥作りは、半年から1年かかる地味な作業なので、先方政府への問題提起にはなったもののビジネス化には至りませんでした。

堆肥の状態を変えながら現地で栽培した人参の収穫風景

堆肥の状態を変えながら現地で栽培した人参の収穫風景

――案件化調査を通じて、どのような成果や気づきがありましたか?

 案件化調査を行ったことで、インドネシアとの交流やインターンシップの受け入れには大きな可能性があると実感し、「これは続けた方が良い」という結論に至りました。実際に、日本で農業を学びたい人や、日本とビジネスをしたいという人材が現地に集まってきました。また、かつてインターンシップで受け入れた学生たちが、今では現地の大学や省庁で立派に活躍しており、案件化調査で現地を訪れた際には、彼らが研究室を案内してくれたり、施設の設備を見学させてくれたりしました。こうした再会を通じて、インターンシップの取り組みが確かに根を張り、次の世代へとつながっていることを実感しました。また、現地に信頼できる人がいるということが、交流や事業を進める上でとても心強く、大きな支えとなっています。 現在は人材面の課題により、インターンシップの受け入れは一時的に停止していますが、交流やビジネスの面では、引き続き取り組む価値があると考えています。
 何より、現地に実際に足を運んだからこそ、ニーズや可能性を肌で感じることができ、大きな収穫となりました。

インターンの卒業生が手がけた畑

インターンの卒業生が手がけた畑

――JICAと連携することで、どのような支援やメリットが得られましたか?

 JICA中小企業海外展開支援事業を通じて、まず大きなメリットだと感じたのは、JICAが長年の途上国支援で築いてきた現地との信頼関係です。JICAの名前があることで現地の方々からの信頼も厚く、「JICAのプロジェクトであれば安心だ」と、多くの人材が集まりやすくなったと実感しています。
 また、案件化調査を通じて、現地でのニーズや事業の可能性を具体的に把握できたことも非常に有意義でした。さらに、この調査がきっかけとなり、NHK教育テレビで特集されるなど、メディア露出やその後の展開へとつながった点も大きな成果です。
 加えて、現地で得られた経験や学びは国内事業に活かされており、JICA事業を通して国際的な貢献のみならず国内にも還元できたことを強く感じています。

――これまでのインターン受け入れの中で、特に印象に残っているエピソードを教えてください。

 一番印象に残っているのは、最初にインターン生を受け入れたときのことです。当時は受け入れ体制が十分ではなく、特に言葉の壁文化の違いに苦労しました。「〜ね」や「〜じゃん」といった表現が伝わらなかったり、日本人特有の曖昧な言い回しが誤解を招いたりすることもありました。生活面でも戸惑いがあり、例えば、インドネシアの農村部からインターンに来た子は、初めて電子レンジを使ったので使い方が分からず、金属スプーンを入れたまま温めて火花が出てしまうハプニングもありました。
 それでも、帰国後に「教えてもらったことが今も役に立っています」と連絡をくれる元インターン生もいて、こちらが教えたことや姿勢がきちんと伝わっていたことを実感します。インターンを受け入れて本当によかったと思える瞬間です。

インターンに参加する新入生と卒業生が集まったフェアウェルパーティの一場面

インターンに参加する新入生と卒業生が集まったフェアウェルパーティの一場面

――国際協力に関わる中で、ご自身の意識の変化や、大切にしている姿勢はありますか?

 最近特に感じるのは、現地の方々を労働力としてだけ見るという考え方ではいけないということですね。彼らから学ぶべきことはたくさんあり、リスペクトして関わることが、本当の意味での国際協力であると思っています。関わる現地の人たちはとても優秀で、マネジメントやマーケティングに関しては、彼らの方が上手と感じることも多いです。
 ですので最近は、教えるより共に学ぶ共に創るという感覚を持つようにしています。
 単に海外でビジネスをするのではなく、文化も経済もお互いに理解し合いながら関係性を築いていく方向で考えていきたいですね。

――今後の事業の展望や、将来的に挑戦してみたいことについてお聞かせください。

 今、とても関心があるのは、インドネシアの植物や農産物を活かした新しい取り組みです。例えば、パパイヤやバニラといった作物の栽培は、やはりインドネシアの方が得意であり、彼らの知見から学ぶことが多くあります。 交流を重ねる中で、近年の気候変動や日本の酷暑を踏まえると、これまで国内ではあまり馴染みのなかった熱帯性作物の可能性にも目を向ける必要があると感じています。 地球温暖化や食糧問題への備えとしても、こうした作物を日本でどのように展開できるか、その可能性を探ってみたいと考えています。
 また、将来的にはインドネシアに進出したい企業や個人のサポートもできればと思っています。これまで築いてきた関係性があるからこそ、信頼関係のある現地の人たちを紹介するといった、コンサルタントのような立場で日本の企業とインドネシアの橋渡しができるのではと考えています。
 さらに、日本の食材や生野菜を食べるといった食文化をインドネシアに広めていく活動も、今後力を入れていきたい分野の一つです。

インドネシアの農家が栽培しているオヨン(ヘチマ)

インドネシアの農家が栽培しているオヨン(ヘチマ)

――国際協力や農業に関心を持つ若者へメッセージをいただけますか?

「早いうちに海外に行こう!」

 私自身、JICAの案件化調査の際にインドネシアを訪問したのが初めての海外であり、若い頃は海外に行ったことがありませんでした。もっと早く世界に目を向けていれば良かったなと思うことがあります。実際にインドネシアに行ってみて、日本では経験できないようなことや、現地の人たちの力強さ、価値観の違いに触れることで、本当に多くのことを学びました。(辰樹さん)

「経験あるのみ」

 農業は、単に作って売るだけの仕事ではありません。人が生きていくうえで欠かせない、尊い職業であり、エンドユーザーにきちんと良いものを届けたいと思っています。日本だけでなく、さまざまな地域の現状を知ることでより農業について理解が深まると思います。例えば、インドネシアの酸性雨や水不足の問題により、作物が育たない土地で実際に作物を育てる経験をしなければ、その大変さはなかなか実感できません。(浩子さん)

 食糧の重要性を理解し、良いものを届けることに関心をお持ちになる方には、ぜひ農業の道を選んでほしいと思います。(浩子さん・辰樹さん)

堆肥を変えて栽培実験をした畑の様子

堆肥の原料となる植物

インタビュー 後記:
 農園に研究所を併設し、科学的根拠に基づいた「美味しく、安心・安全な野菜づくり」に取り組むシモタ農芸さん。
 完熟堆肥とこれまで培ってきた人脈を使ってインドネシアの農業をより良くしていこうと事業を展開する姿勢は、非常に前向きで力強いものでした。

教えるのではなく、共に学び、共に創る

 この言葉には、これからの国際協力の在り方が凝縮されているように感じます。
 シモタ農芸さんの取り組みからは、環境・品質・そして人とのつながりを同時に大切にしながら事業を続けていくことの難しさと面白さ、そしてその先にある確かな可能性が伝わってきました。(JICA筑波インターン生/筑波大学大学院人間総合科学学術院1年 宮内琴葉)

シモタ農芸さんが育てているフルーティーな香りがするローリエの葉

ローリエの木の前で集合写真

関連リンク
民間連携事業
https://www.jica.go.jp/activities/schemes/priv_partner/index.html

シモタ農芸が実施した案件化調査 業務完了報告書
https://libopac.jica.go.jp/images/report/1000042899.pdf

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