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【JICA民間連携事業パートナーの想い】タンザニアで気付いた、農業がつくる「幸せ」(株)Tファーム代表取締役 照沼勝浩さん

#3 すべての人に健康と福祉を
SDGs
#15 陸の豊かさも守ろう
SDGs

2025.10.22

(株)照沼勝一商店(現(株)照沼)元代表取締役 照沼勝浩さん

(株)照沼勝一商店(現(株)照沼) 元代表取締役 照沼勝浩さん

 茨城県東海村にある(株)照沼では、少しでも多くの人に幸せを届けることのできる農業のかたちをめざし、サツマイモをはじめとして野菜の自然栽培に取り組んでいます。
 照沼勝浩さんは、サツマイモ栽培と農薬を使わない自然栽培に関する知識を生かし、JICA 中小企業海外展開支援事業を活用してタンザニアで市場志向型農業を可能にする品種および栽培技術の普及のための事業を実施しました。

ナスの自然栽培の様子

ナスの自然栽培の様子

農業技術指導の様子

農業技術指導の様子

今回のインタビューでは、照沼さんにタンザニアでの事業や自然栽培に関する想いをお聞きしました。

#自然栽培 #タンザニア #サツマイモ

─「自然栽培」をはじめたきっかけはなんですか?

 長年サツマイモの栽培に取り組む中で、農薬を使った栽培に疑問を感じ始めたことがきっかけです。
 1962年創業、1977年に父勝一が(株)照沼勝一商店を設立し、利益を追求して寝る間も惜しんで仕事に励みました。50年前は無農薬で栽培していましたが、化学肥料の使用を始めて5〜6年経った辺りからサツマイモに立ち枯れ病が発生したため農薬・土壌消毒を使い始めました。病気の次は、ヨドムシやハリガネムシといった虫の被害が発生するようになり、また新たな農薬を使い始めました。問題の対処のために、年々使用する農薬の数が増えていきました。農薬を使う中で、次第に「強い」農薬を使うようになり、農薬が持つ影響力を考えなおすようになりました。
 わたしたちは、茨城県の株式会社で初めて農業法人になりました。「農業法人」には個人農家と違い農薬を散布するときの決まりがあります。例えば、農薬を散布する場合、従業員は防毒マスクを付けなければならないというようなものです。それを目の当たりにした時、従業員の健康を考えると、「農薬」を使わない農業を模索しなければならないと思うようになりました
 農薬を使わなくなって大変だった点は除草でしたが、従業員は暑い中頑張って除草をしてくれました。農薬を使わなくなったことで従業員に農薬による健康被害がなくなったこと、また農薬代が削減できたことを考えると結果的に大きなプラスであったと感じています。現在では、「雑草の生えてこない土づくり」を目指して土の成分分析や調査を行い、農薬を使わない栽培方法を確立させました。
 私は、お客さんの幸せのために仕事をしたいと思っています。農薬を使ったら不幸せです。サツマイモでお金が儲かったとしても、土も従業員の健康も壊します。自然栽培の取り組みは、一度原点に戻って後世に残せるような土で農業をしようという思いで始まっています。

サツマイモ栽培の様子

サツマイモ栽培の様子

─タンザニアで事業を行おうと思ったきっかけはなんですか?

 はじめは、自分がアフリカで事業を行うとは全く予測していませんでした。日本国外に目を向けたきっかけは、様々な事故で売り上げが低下してしまったことがきっかけです。
 1999年には、JCOの事故があり「東海村」という地名のイメージが低下し、買い控えが起こって売り上げが大きく減ってしまいました。その後売り上げがようやく回復した2011年には、東日本大震災が起き、福島の原発事故の影響で再び売り上げが大きく低下しました。「もしかしたらこのまま廃業になるのではないか」という考えが頭をよぎるようになりました。
 そのような状況でも、会社全体としてなんとか上向きに仕事をしていきたいと思い、以前からJICA 海外協力隊タンザニアOBの長谷川さんからアフリカでの事業について提案をいただいていたので、少しずつアフリカに目を向けようと考えるようになりました。
 しかし、すぐにアフリカで事業を行う気になったわけではなく、初めはアフリカと聞くと衛生や安全に関して不安を感じてしまい、「どんな風に断ろうか」と考えたりもしました。そんな中、たまたま出張先のホテルで「ルワンダ大虐殺」に関する映画を見たことで心を動かされ、「やはり自分にできることがあるのではないか」と思い、長谷川さんと協働することを決めました。最初はルワンダでの事業を考えていましたが、標高が高く土地の広いタンザニアを拠点とすることにしました。
 きっかけというのは、様々な機会から唐突に訪れるものなのだと実感します。

─タンザニアでの事業はどのように進みましたか?

 長谷川さんが明確なビジョンを持っていたので、それに応える形で開始しました。自分たちがやりたいというよりも、現場にいる人がやる気を持っていたり、必要だと感じたりしていることを行うことが、成功につながるのではないかと思います。
 事業を行う中で言語の壁に当たることもありますが、彼らとの信頼関係を構築するには、事業を通して「収入が向上する」ということを農家の方に実感してもらうことができるようにすることが大切だと思います。

貯蔵庫導入の様子

貯蔵庫導入の様子

─タンザニアでの事業を通して、気が付いたことやご自身の人生観の変化はありましたか?

 人生観が変わりました。日本人は発展途上国から学んで「食」のことを改めて見直すべきではないかと考えるようになりました。
 人間の体は食べ物から出来ているので、食べるものというのは非常に重要です。体だけでなく、心の状態も「食」に影響されます。最近、日本には「自分の生きている目的が分からない」という人が多くいるように感じますが、その一方でアフリカの人たちは子供を含め皆が幸せそうに毎日を過ごしていたのも印象的です。アフリカでは、大地の恵みや気候の特徴を生かした農業がなされています。
 利益の多寡ではなく、タンザニアから学び、どのように日本の農業に取り入れていくか考えていかなければならないと感じています。

タンザニアでのサツマイモ栽培の様子

タンザニアでのサツマイモ栽培の様子

─今後の課題や事業の展望はありますか?

 消費者の皆さんは農薬を使わない農業や農薬を使わず栽培された野菜が良いことだと知っていても、やはり「安いもの」を選んで買い物をすることが多いと思います。自然栽培のものが売りに出される時には、値段が高く出回ることもあるので、その選択は仕方のないことだとも思います。
 近年は「自然栽培ブーム」の高まりによって、お金の流れが農業に向くようになってきました。これから、自然栽培の野菜に関して「お金」という面で変化があるのではないかと思いますし、それらの野菜を皆さんが気軽に手に入れることができるようになることを期待しています。
 海外に向けた事業の展望としては、ヨーロッパに販売拠点を置いてスウェーデンやノルウェーをはじめとした北欧諸国に事業を展開していきたいとも考えています。サツマイモはビタミンDや食物繊維が豊富ですし、寒い国に暮らす人々が栄養補給をするにはとても良いのではないかと思っています。

─照沼さんのように、国際協力としてのビジネスに関わりたいと思っている学生や若者に伝えたいことはありますか?

 自分を磨いて、人々を幸せにできるような仕事をするために大切なことは、目的の軸をしっかり持って、継続して取り組むことが大切だと思います。自分のやりたいことを見失わず、「人を幸せにする」ために勉強や仕事に取り組んでもらいたいです

インターン生後記
 暮らしの中で蔑ろにされがちな「食」ですが、私たちが幸せに生きるために大切な要素であることを改めて実感しました。野菜を食べる人とつくる人の「幸せ」を願って、熱い思いで無農薬での野菜栽培に取り組んでいることが伝わるインタビューでした。次に野菜を買うときには、その野菜はどのように栽培され、私たちのもとに届くのか調べたうえで選んでみようと思いました。(JICA筑波インターン/筑波大学3年杵渕和花)

インタビューにて記念撮影

インタビューにて記念撮影

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