jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

【JICA草の根技術協力事業パートナーの想い】
「暮らしを変える力は、住民の中にある。」
 エルサルバドルで『人』に焦点を当てた国際協力の形
 NPO法人国際農民参加型技術ネットワーク(IFPaT)
 和田 彩矢子さん

#5 ジェンダー平等を実現しよう
SDGs
#10 人や国の不平等をなくそう
SDGs

2025.12.10

集合写真

「JICAの草の根技術事業」を通じて、中南米地域にあるエルサルバドルという国で、女性や若者の生活改善に取り組んだ和田さん。「支援は押しつけではなく、住民が自ら理解し、納得して取り組むもの」。その言葉通り、現地の人々と丁寧に対話を重ねながら、地域の変化を生み出してきました。今回は、和田さんのこれまでの歩みと、国際協力に込めた想いを伺います。

#生活改善  #エルサルバドル  #人を育てる支援  #草の根

NPO法人国際農民参加型技術ネットワーク(IFPaT)

アジア・アフリカ・中南米地域の小規模農家を対象に、農業と暮らしの両立を支える技術を開発・普及し、住民の収入向上と生活改善を通して、地域農村の持続的発展へ貢献すること目指すNPO。茨城県つくば市に事務所を置く。

和田 彩矢子 さん

本プロジェクトの総括を務めた。元JICA海外協力隊員。現在は、NPO法人IFPaTの理事を務め、参加型農村開発専門家として所属。中南米での草の根支援を通じて、住民主体の地域づくりを推進。

和田さん写真

─ 海外や中南米地域に興味を持ったきっかけを教えてください。

 子どものころ、家にある世界の国々の大百科を見るのが好きだったのですが、特に中南米のボリビアの写真ページに魅かれていました。50年前のボリビアと、現代のボリビアの写真を見つけたのですが、衣服や暮らし方がほとんど同じで驚きました。日本はこの50年で劇的に変化し、習慣や古いものが消えていく中、ボリビアは昔ながらの暮らしを保っている…。もともと古着や古物が好きだったのでその違いに興味を持って、「どうして変わらず維持できているのか」、「何が背景にあるのか」と中南米への関心が広がっていきました。
 また、育った福岡の家の前の浜辺には、読めない韓国語で書かれたプラスチックゴミがいつも打ち上げられていました。ラジオをつければ、聞き取れない韓国語がガサガサ流れてきます。そこで「自分の知らない、もっと別の世界があるんだなぁ、どんなかなぁ」と想像が膨らむ日々。それらをきっかけに、海の向こう側の世界に対して興味を持つようになったんだと思います。

─ どうして国際協力の道に進もうと思ったのですか?

 大学卒業後、コロンビアとグアテマラで1年間、現地組織でボランティア活動をしていました。休暇中には近隣国を旅しましたが、ホンジュラスの首都で何本もの橋にJICAのマークが描かれていることに気づきました。他方で、ボリビアの首都から遠いポトシ鉱山では、労働者たちが肺を壊し、背中も曲がり、働けなくなり生活に嘆いていました。『日本やJICAからの支援は目立つところだけではなく、必要とされる現場に届いているのだろうか?』という疑問を抱くようになりました。
 これを理解するためには、外から批判するのではなく、組織に入らないとわからないと思いました。「どのような支援であれば、必要な人に届くのだろうか?」と考え、JICA海外協力隊に応募しました。(後に、ハリケーンの復興支援として、ホンジュラスで日本からの無償資金協力で多数の橋の架け替えを支援していたとわかりました。)

地図

大学卒業後グアテマラの現地組織でのボランティア活動をする和田さん

大学卒業後グアテマラの現地組織でのボランティア活動をする和田さん

─ エルサルバドルでの事業について教えてください。

 私の所属するNPO法人イフパットは、2021年から約3年間にわたり、中央アメリカのエルサルバドル東端に位置するコンチャグアという市で、女性と青少年を対象に生活改善支援を行いました。
 具体的には、市役所職員をカウンターパート(エルサルバドル側の協力機関)とし、住民への寄り添い活動を行う「ファシリテーター」と呼ばれる普及員を育成しました。そのファシリテーターを通じて、地域に暮らす女性や青年層に、生活改善をテーマにしたワークショップを合計160回以上実施しました(8つの集落の16のサークルで展開)このワークショップでは、「自分のコンプレックスを好きになる」、「日々の時間の使い方を見直す」、「自分の夢や将来計画を考える」、「お金をかけずに改善する」といった、日々の暮らしに根ざした実践的なテーマを中心としました。
 行政と力を合わせて、異なる集落や学校の住民や若者が、課題や解決策を話し合えるプラットフォームづくりを支援し、住民が主役の持続可能な地域づくりを目指しました。

女性向けの集落でのワークショップの様子。調理実習をしながらそれぞれの生活改善行動について披露している。)

女性向けの集落でのワークショップの様子。調理実習をしながらそれぞれの生活改善行動について披露している。

 ここで出てくる「生活改善」とは、住民一人ひとりが主体的に自分の暮らしを見直し、自分たちで改善できることはなにかと考え、小さな工夫を実行に移していくプロセスに寄り添うことです。これは、戦後の日本で全国の農村地域に広がった『生活改善事業』を参考にしています。今回のプロジェクトでも、日本で生活改善を実践されてきた元生活改良普及員さんや女性農業指導員さんにエルサルバドルまで来て頂き、ファシリテーターたちと意見交換を行いました。

コンチャグア市長(中央男性)や市役所職員と、海を渡った日本の元生活改良普及員及び女性指導農業者(右側白Tシャツの女性3名)との記念写真。

コンチャグア市長(中央男性)や市役所職員と、海を渡った日本の元生活改良普及員及び女性指導農業者(右側白Tシャツの女性3名)との記念写真。

─ この事業は地域にどのような影響があったのでしょうか?

 ありがたいことに、住民から好意的に受け入れられ、対象外だった集落からも『学びたい』という声が上がりました。ファシリテーター(普及員)による家庭訪問や、スキンシップ(タッチやハグ)を通じた自尊心を高めるあたたかい交流、生活改善を目的としたワークショップなどを通じて、「自分もやってみたい」という前向きな声がどんどん広がっていきました。
 この結果、住民自身が自分の生活を見直すきっかけになり、自信や達成感を得る住民も多く見られました。例えば、エルサルバドルのある女性は、生活改善のワークショップを通して「自身の家の炊事場に屋根が必要である」と気づいたそうです。さらに、暮らしの分析の学びを夫にも共有し、夫の生活面への着眼と活動実践につながったそうです。
 また、1、2回目のワークショップを終えてすぐに井戸から自宅まで長いパイプを自分で繋げたり、部屋に壁を作り思春期の子のスペースを確保したりと、事業を始めてから3年間で様々な家庭レベルの改善が実施され想像以上のインパクトがありました。背景には、海外からの送金で現金を確保できる地域だったこともあり、貯金を始めやすく、少しの工夫や考え方の転換で「自分に投資する」という意識が芽生えやすかったのだと思います。

若者向けのワークショップでは10年後を自分について考えてもらった。

若者向けのワークショップでは10年後を自分について考えてもらった。

 活動を通じて「自分にもできる」という自信を得た女性たちは、家庭の中での役割にも変化があり、一労働力ではなく、家族の「対等なメンバー」としての意識を持つようになったという声も聞かれました。インフラのような目に見える成果とは違い、生活改善は評価されにくい面もありますが、住民一人ひとりの内面的な変化が、地域の力になっていくことを実感できた事業でした。

─ JICAとの共同事業としてはどんな成果がありましたか?

 この事業はJICA草の根技術協力事業として実施しましたが、私たちの「住民主体の活動設計」をしっかり理解し、柔軟に対応していただけました。例えば、実際にプロジェクト活動がどのようなものになるかは、住民と信頼関係を築き、丁寧なヒアリングを経て、住民自身による課題分析を基に生まれます。事業前の段階で、外部者の仮説で集落レベルの改善計画を策定しても主体性が醸成されないためです。私たちイフパットも、住民と一緒に対話を重ねながら住民自身が活動内容を作っていくことを重視しています。
 JICAの担当者の皆さんも、この「生活改善」の特性を理解してくださり、事業途中で出てくる住民のニーズや変化にも共感いただき、柔軟に寄り添ってくださいました。他団体では「事前に集落へのハード面の投入内容を明確に示す」ことが求められることもある中、JICA草の根事業では、プロセスと人づくりを重視する、という特徴があり、それが非常に助けになりました。

─ エルサルバドルでの事業を終えて、今後取り組んでみたいことはありますか?

 JICAの研修を受けて母国に戻った方々( 帰国研修員)のサポートを充実させたいです。NPO法人イフパットは、JICAの生活改善アプローチの課題別研修の運営・講師を担当しており、毎年、多くの国からこのテーマについて学びにくる研修参加者と出会います。今回のエルサルバドルの活動でも、何名かのJICA帰国研修員と協力できました。海外には、日本で学んだことを自国で活かそうと努力している元研修参加者が多くいます。そんな彼らに寄り添ってサポートしていく活動を続けたいです。
 さらに、日本の 民間企業との連携にも挑戦したいと考えています。イフパットは、国際協力経験の多いNPO法人として、民間企業のCSR活動と連携や補完し合うことができるのではと考えています。例えば、エルサルバドルで深刻なゴミの課題などに、一緒に取り組みたいです。他の業界の団体と協力して活動の幅を広げることで、多くの国が抱える課題に対応できるようになると思います。

─ 国際協力に関心のある日本の若者へメッセージをお願いします。

 日本の生活改善事業の経験は各国で大変活かせるので、是非勉強していただきたいです。日本もかつて途上国であり、努力と工夫を重ねて今があります。国際協力の道に進む方には、そのプロセスを理解した上で、各国で活躍していただきたいです。
 冒頭にお話した「どのような支援であれば、必要な人に届くのだろうか?」の問いに、今答えるとすれば、物をただ渡すのではなく、人を育てる技術を伝えるのが日本の特徴であり、これこそが日本の国際協力の根幹だと思います。そうした寄り添う協力のやり方は、現地の人からも信頼されることにつながると信じています。

インタビュー時の様子。画面下部が和田さん。右上が本事業を担当したJICA職員の岡崎さん、左上がインタビュアー小俣。

インタビュー時の様子。画面下部が和田さん。右上が本事業を担当したJICA職員の岡崎さん、左上がインタビュアー小俣。

インタビュー後記:
 和田さんはとてもいきいきとしていて、同時に物腰が柔らかい方でした。もし私がエルサルバドルの方なら、間違いなく和田さんを信頼するだろうと感じる、そんなエネルギーのある方でした。これまで国際協力と聞くと、何かを「与える」ことだと無意識に思っていましたが、実際には物資だけでなく、国を超えた人とのつながりや心の安らぎ、そして考え方の共有といった、互いに支え合う関係なのだと気づきました。
(JICA筑波インターン生小俣ゆうか/筑波大学国際総合学類2年)

関連情報
・NPO法人国際農民参加型技術ネットワーク(IFPaT)
イフパットだより37号 .pdf
生活改善アプローチ Enfoque de Mejoramiento de Vida一覧 - NPO法人国際農民参加型技術ネットワーク(IFPaT)
草の根技術協力事業 | 事業について - JICA
JICAエルサルバドル 日本の教訓から学ぶ農村の生活改善 | 事業について - JICA
「課題別研修の持つ力と可能性~生活改善アプローチの適用性-コスタリカの生活改善実践事例から学ぶ~」セミナーを開催しました!(2022年4月22日) | 日本国内での取り組み - JICA

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