【JICA民間連携事業パートナーの想い】「稲作の未来を描く—日本とコロンビアを結ぶ技術と人材」農匠ナビ株式会社 横田修一さん
2025.12.26
農匠ナビ株式会社は、スマート農業の推進を通じて、持続可能な食と農業の未来を創造する企業です。気象・土壌・生育データを活用した情報プラットフォーム「農匠ナビ」を提供し、生産現場の効率化や品質向上を支援しています。農業者、企業、研究機関との連携を重視し、次世代農業のモデルづくりに挑戦しています。
スマート農業の実証から始まり、国際協力プロジェクトへの参加を経て、コロンビアでの稲作にも挑戦してきた農匠ナビ株式会社。代表取締役の横田修一さんは、「お米が好きすぎる農場」として知られる横田農場の代表でもあります。その歴史は800年以上。「お米で、人の幸せをつくる。」という想いを胸に、「お米の「未来」を育てる。」というビジョンを掲げています。
今回は、農匠ナビ創業の原点、海外展開の現場での学び、そして若者や企業へのメッセージを伺いました。
九州大学の南石教授との雑談がきっかけでした。「農業に必要な技術が現場に届いていない」という話から、農業者自身が研究しなければという思いが芽生えました。2014年には、農林水産省が進める「スマート水田農業モデル」という事業に横田農場として参加しました。これは、センサーやICTを使って水田の水管理や生育状況をデータ化し、効率的な栽培を目指す取り組みです。現場で研究を進め、その成果を社会に広げるため、2016年に農匠ナビ株式会社を設立しました。
2014年から2019年にかけて、「遺伝的改良と先端フィールド管理技術の活用による中南米型省資源稲作の開発と定着プロジェクト」を実施しました。わかりやすく言うと、「ラテンアメリカで水や肥料を無駄なく使える稲作を広めるプロジェクト」です。
ラテンアメリカの水田は、日本のように灌漑設備が整っていないため、水や肥料の効率的な利用や雑草対策が大きな課題でした。そこで、プロジェクトでは、根が深く伸びる稲の遺伝子を活用した品種開発と、ITによる田んぼの精密管理を組み合わせ、資源を節約しながら高収量を目指す「省資源稲作」技術を開発し、現地に普及しました。
*SATREPS:地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム。研究成果の社会実装を国際協力と連携して推進。
SATREPSプロジェクトでは、コロンビアで農家参加型の技術研究を支援し、現地との強いネットワークを築きました。その成果を活かし、JICAの案件化調査では「日本のコメ生産技術を広め、品質の高いお米を作って売る仕組みをつくる」ことを目指し、低コスト移植栽培やIoTを活用した精密農業、農家教育用デジタル教材、高品質米のバリューチェーン構築の可能性を検証するため応募しました。
調査を通じて特に印象に残ったのは、日本では技術指導に対価を払う文化が根付きにくい一方、コロンビアでは「技術にはお金を払うのが当たり前」という点です。そのため、調査がスムーズに進みました。現地ではYouTubeで学ぶ農家もいましたが、実地指導するととても喜ばれました。当初は、私たちが技術を教える立場だと考えていましたが、逆に現地農家から学ぶことも多くありました。また、調査を通じて、サプライチェーンやバリューチェーン構築の難しさを改めて痛感しました。
日本のお米は短粒米ですが、コロンビアでは粒が細長く、パラパラとして粘りが少ない「長粒米」が主に栽培されています。それでも、現地の食事の様子を見ると、ご飯に味付けせずどんぶりでご飯そのものを食べるという、お米そのものの味を大切にしていることがわかりました。米の種類は違えども、食味へのこだわりという点で、日本と共通する部分があると感じたのが印象的でした。
また、稲作の歴史が比較的浅い分、新しい技術を積極的に取り入れる姿勢が強く、訪問を繰り返していると、すでに農家が前回とは違う新しい方法を試している場面もあり、そのスピード感に驚かされました。
気候変動の影響で直播*1が難しくなる中、移植*2は有効な手段であり、赤米*3対策にもつながります。さらに、コロンビアではFEDEARROZ(稲作生産者連合会)というコメ専門の農協のような団体が、品種改良や技術普及を担い、農家との結びつきが強く、現場に役立つ取り組みを積極的に進めている点も印象的でした。実際に、コロンビアで改良された品種がボリビアで栽培されている様子を目にしたこともあり、その技術の広がりを実感しました。
*1直播:田んぼに直接種をまく方法。
*2移植:田植え/田んぼに苗を植える方法。
*3赤米:普通の水稲に混じって発芽し、コメの品質を下げる原因となる。
日本では、農協以外の農家は自家精米を行うことが多いですが、コロンビアでは精米業者が存在します。これは、精米設備への投資ハードルが高いためです。また、コロンビアではコメの供給が安定してきたため現在は高品質米への需要が高まっていて、気候変動に対応するため複数の品種を試すなど、工夫を凝らしています。
現地で驚かされたのは、3種類の品種を直播し、どれが最も適応するかを実際に確認していた場面です。その取り組みを目の当たりにして、「こういう方法もあるのか」と非常に納得しました。
日本のコメ農家は収量の減少や価格下落の一部補填をする支援制度がありますが、南米にはそれがありません。その分、農家は自ら生産性を高める努力を重ねており、成功して豊かな暮らしをしている事例もあります。こうした点では、双方が交流することで、日本の農家にとっても大きな啓発になると感じます。輸出先との競争を考えるなら、こうした現状に触れるべきだと思います。また、日本は農閑期があります、コロンビアは年間通して稲作ができるので、1年中研究が進められることが利点だと感じています。
現在、日本では移植(田植え)から直播への移行が進んでいますが、外国では逆に直播から移植への流れが見られます。双方に良さがあり、バランスを取ることが重要だと感じます。
横田農場での本邦受入活動の様子
高温不稔*4は稲作における大きな課題であり、その解決には品種改良が不可欠です。さらに、気候変動に対応し安定生産を図るためには、栽培面でのデータ活用が重要だと考えています。横田農場では現在、圃場単位の収量や気象データをもとに生育状況を把握していますが、今後はこれらのデータをAIなどで解析し、精密農業を実現する必要性を強く感じています。
一方、コロンビアでは農家参加型の技術研究を支援し、事業終了後も技術支援を継続しています。過去には、ボリビアの農家が雑草稲問題の解決を目的に横田農場を訪れ、年間3名ほど研修を受けた事例もあります。
また、農匠ナビでは人材育成にも力を入れており、2026年度のJICA日系社会研修員受入事業に採択されました。来年にはコロンビアからの研修員の来日が予定されており、当時の案件化調査が、人材育成事業とバリューチェーン構築に向けた動きにつながっていると感じています。
*4高温不稔:開花期高温による受粉・種子形成の異常。
現場でしか学べないことがたくさんあります。横田農場(茨城県龍ケ崎市)では、大学生や社会人インターンの受け入れも行っていますので、ご興味のある方はぜひお越しください。
また、私たちと米づくりへの想いを共有し、共に挑戦していただける企業や研究機関とのつながりを大切にしています。私たちのビジョンに共感いただける方は、ぜひお気軽にお声がけください。
JICAの民間連携事業では、途上国ビジネスに精通したJICAコンサルタントが伴走し、採択企業の挑戦をサポートしています。海外展開や国際協力に関心のある企業の皆さま、自社の技術やサービスで途上国の社会課題解決に貢献したい方は、ぜひお気軽にご相談ください。
★JICA国内拠点(お問い合わせ先)について:
国内のJICA拠点 | JICAについて - JICA
取材・文:JICA筑波 連携推進課 寺島
関連リンク
民間連携事業
https://www.jica.go.jp/activities/schemes/priv_partner/index.html
農匠ナビ株式会社が実施した案件化調査 調査完了報告書
1000052876.pdf
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