【JICA民間連携事業パートナーの想い】花と光で描いた持続可能な未来―オグラ金属の挑戦 オグラ金属株式会社 小倉乃里子さん
そしてクリーンに
2026.01.16
栃木県足利市を拠点に「金属加工で、できないものはない」を掲げるオグラ金属株式会社。同社は、LED電照と栽培管理技術を組み合わせ、花卉(かき)栽培の高度化に挑戦し、ベトナム・ダラット高原の“花のまち”で新たな可能性を探りました。2019年度には、JICAの中小企業海外展開支援事業で案件化調査に採択され、コロナ禍による制約を乗り越え、現地でオンライン主導による機器設置と実証を実施しました。ものづくり企業が農業現場に踏み出すまでの道のり、そして「人の長所を伸ばす」社風と、同社が大切にする5S文化の力について、相談役の小倉乃里子さんに伺いました。
(同社経営理念の前で)
オグラ金属株式会社 相談役 小倉乃里子さん
ものづくりの技術があるなら、現場で役に立つ光(LED)を届けたいと思い、当時まだ市場にほとんどなかったLEDを飛び込みで企業や研究機関に提案しました。たまたま訪問した研究所では、大学にLEDの研究を依頼しようと思っていたとのことで、良いタイミングで小倉さんが来てくれたととても喜ばれました。栃木県農業試験場・宇都宮大学農学部と共同で「LED電照栽培システム」を研究・開発しました。この赤色のLEDをあてると、キクなどの花卉の品質が向上するというものです。波長で効果が違うことを一緒に検証しました。栃木はキクの産地で、導入初年度でも失敗すれば農家さんに大きな痛手です。そこで農家・試験場と協働して一角から始めました。補助金のない時代で年間の売上は約200万円規模からのスタートでしたが、キク・ランなど対象花卉を広げていきました。足利市はトルコキキョウのまちでもあり、栃木県内で年間300万円程度の導入につながりました。
LEDの性能自体は優れていましたが、課題は電力コストの高さでした。そこで、高単価期に合わせた出荷調整に取り組み、トルコキキョウの出荷回数を年1回から2〜2.5回へ増やすことに成功しました。生産性は向上し、「半分は社会貢献」という思いで取り組みを続けてきました。そうした中で、JICAの中小企業向けODA事業をご紹介いただき、経費はJICAが負担するとの説明を受け、話を聞いてみることにしました。
10社ほど都内のコンサルタントの会社を訪問し、プレゼンをおこないました。その中で担当者に栃木出身者がいたこともあり、そのコンサルタント企業に決めて一緒に案件化調査に取り組むことになりました。フィージビリティや制度面も丁寧に汲んでくれ、当時すでにタイに自社工場があったので、コロナ禍でも自社の機材を現地に送り、オンラインで指示を出し調査を進めました。ベトナム事務所の当時の担当者からは「案件化の結果まで出しましょう」と推され、調査期間内にオンライン主体での実証まで到達。現地で成果も出せたと思っています。ただ、長引くコロナと価格の壁があり、現地でのビジネス化は難しかったですね。また、当時案件化調査の事務を担当していた、いとこの小倉健一さん(一昨年逝去)は社会貢献に力をいれていました。しかし、当時、調査経費の精算が煩雑で、事務担当者にとって負担が大きく、継続が難しい状況でした。その結果、販売までの取り組みには至りませんでした。
*1現在はJICA BizでJICAコンサルタントが伴走する方式に再編。当時の制度に比べて企業の経費精算負担軽減等が図られています。
オンラインにて現地作業内容を確認
(オグラ金属会議室)
オンラインで作業内容を確認(Pan Hulic圃場)
ハウス内の環境は50℃を超えることもあり、非常に過酷です。LEDには品質差が大きく、当時のベトナム製品の性能は厳しい状況でした。中国から調達した製品でも、試験場に導入した際には「10年もつ」と言われる一方で、価格と性能のバランスを取ることが難しい現実があります。さらに、十分な利益が確保できなければ、事業の持続性が困難になるという課題も浮き彫りになりました。
夜間の試験栽培の様子(オグラ栽培区)
夜間の試験栽培の様子(従来栽培区)
先方であるベトナム側の農業副知事主催の場に招かれたことは、非常に印象深い経験でした。これは民間企業だけの取り組みではなかなか得られない機会であり、弊社の技術者にとっても貴重な学びとなりました。すでにタイへの進出実績があったこともあり、第2の海外展開としてベトナムに安心して挑戦することができました。JICAのプログラムを通じて、前向きに事業を進められたことは本当に大きな意義があったと感じています。
(市場調査の実施 小売店舗の外観 (ダラット市))
(市場調査の実施 小売店舗の外観 (ダラット市))
本日、貴社を訪問しておりますが、エントランスや社内を歩いていると、皆さんが笑顔で挨拶してくださり、また、元気に声をかけてくださったのがとても印象的でした。
足利は5Sのまちと言われ、社内でもオグラ式5Sが根づいています。“ありがとうカード”は20年続けていて、全社表彰もそこから選び、品質賞にもつながります。人間を磨く。社員がそういう気持ちで社内だけでなく子育てや町内行事に取り組めばそれもCSRの取り組みになる。103年続けてきた会社として、地域社会のためにあり続けたいと思っています。
はじめは人材不足という理由から、フィリピンの方数名を受入れました。仕事の様子を見てみると、フィリピンの方の人柄や姿勢から学ぶところが多く、現地でも面接を行い全部で7人受け入れました。社内でイベントをおこない交流機会を作るととても盛り上がりますし、トイレや仕事場に日本語以外の掲示も整えて社員全員が等しく理解できるよう工夫をしています。人材は、時間をかけて育てることが大事だと思っています。私たちのこのような取り組みを見たいと、アメリカ、中東、アジアを含め国内外から沢山の企業の方々が見学にこられることが多く、先日、ベトナムの企業も弊社の見学に訪れました。その際には改善の工夫を包み隠さずお話しします。
フィリピンの方々の働きぶりを見ていると、とても真面目で、仕事のスキルも非常に高いと感じます。そこで、今年に入ってからアジアでの人材育成に挑戦したいと考えるようになりました。今後計画的にチャレンジしていきたいと考えています。
今では登壇の機会を多くいただいていますが、昔は話すことが得意ではありませんでした。そんな私が最初に取り組んだのは、家族から「挨拶が取り柄」と言われていたことを活かし、挨拶の練習を徹底することでした。自分の良いところを見つけて、そこを伸ばす。それが自信につながります。人は長所を褒められると伸びるものです。
目標は人それぞれですが、これまでの経験で「無駄なことは一つもない」と実感しています。やればできる。弊社では資格取得を評価し、報奨制度も設けています。それぞれの長所が伸びることで、会社全体の雰囲気も良くなると感じています。
私は「人のおかげで想いが実現できる」と強く感じていますし、「経験は思いもよらない未来につながる」と信じています。私の座右の銘は、“冒険なくして何事も得られない”。「したい」ではなく「する」。やらなければ、そこで終わってしまうからです。だからこそ、躊躇せず一歩を踏み出すことが大切だと思っています。あきらめずに経験を重ねれば、必ず形になる。そして、きっと楽しくなるはずです。
JICAの中小企業・SDGs支援事業(JICA Biz)では、途上国ビジネスに精通したJICAコンサルタントが伴走し、採択企業の挑戦をサポートしています。海外展開や国際協力に関心のある企業の皆さま、自社の技術やサービスで途上国の社会課題解決に貢献したい方は、ぜひお気軽にご相談ください。
★JICA国内拠点(お問い合わせ先)について:
国内のJICA拠点 | JICAについて - JICA
取材・文:JICA筑波 連携推進課 寺島
関連リンク
民間連携事業
https://www.jica.go.jp/activities/schemes/priv_partner/index.html
オグラ金属株式会社が実施した案件化調査 業務完了報告書
1000046583.pdf
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